宇宙とブラックホールのQ&A

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宇宙論

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ダークマターは原始BHではない
・ダークマターは原始ブラックホールではなさそう
アストロアーツ4月8日付記事、元はすばるです。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10567_darkmatter

概要>すばる望遠鏡で撮影したアンドロメダ座大銀河の画像解析から、重力マイクロレンズ現象が調べられた。その結果をもとに、ダークマターが原始ブラックホールではない可能性が高いことが観測的に初めて示された。

ダークマターの正体については、現在では未知の素粒子の一種とする説が有力だと思います。
△ニュートラリーノって何のこと?:
https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/25497190.html
ただ、ダークマターの存在が推定されて以来、さまざまな仮説が提出されてきており、その中には原始ブラックホールだとする説もあります。
こういう仮説を一つ一つ検証し、潰していく作業が大事です。(潰しても潰れなければそれが正解ということになります。)

>宇宙にダークマター(暗黒物質)が存在することは、銀河の回転や銀河団内の銀河の運動、重力レンズ効果などによって確かめられている。ダークマターの総量は通常の物質の約5倍だが、その正体はわかっていない。

ダークマターと呼ばれる質量をもつ物質が存在すること自体は確実ですが、何しろ重力でしか捉えられないため、正体を突き止めるのは容易ではありません。

>ダークマターの候補の一つが、高温かつ高密度の初期宇宙で形成されたかもしれない原始ブラックホールだ。ホーキングが1970年代に最初に提案したアイディアで、月より軽い原始ブラックホールがダークマターである(そのようなブラックホールが宇宙に大量に存在している)という説である。

「高温かつ高密度の初期宇宙」では、現在の宇宙よりもブラックホールが形成されやすかったと考えられています。
ただ、それが現在どの程度の質量にまで成長しているかが問題ですが、この記事の最後の方で「月質量の30分の1程度」という数値が出てきます。
ちなみに、
>>月の質量は 7.3×1022 kgで、地球質量の 1.2 %。逆に地球質量は月の 82 倍。
記憶のための宇宙の質量:https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/62728790.html

>東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の新倉広子さんたちの研究チームは、この説の可能性を調べるため、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam; HSC)」で観測されたアンドロメダ座大銀河の画像を解析した。

新倉(にいくら)広子さんは現在、東大博士課程2年生で、ダークマターの研究者。
次のpdfの真ん中辺の右側に写真が載っています。
Kavli IPMUものしり新聞第1号宇宙を見る目:
https://www.ipmu.jp/sites/default/files/imce/press/Monoshiri_01.pdf
インタビューの受け答えでは、
Q 自分が研究者に向いていると思うのはどんなところ?
A データ解析が楽しいと感じるところ。
Q 自分が研究者に向いていないと思うのはどんなところ?
A 睡眠と酸素が必要なところ。高地での観測が大変です。

標高5000mのチリ・アタカマ砂漠でアルマによる観測をすることでしょうかね。
まあ、われわれ凡人と共通するのは「好きな食べ物はアイスクリーム」くらいです(^_^

>地球とアンドロメダ座大銀河の間の宇宙空間には大量のダークマターが存在するはずなので、ダークマターが原始ブラックホールであれば、ここにもブラックホールが存在することになる。新倉さんたちの研究では、この原始ブラックホールによって引き起こされるであろう重力レンズ効果に着目した。

ダークマターの正体が原始ブラックホールであれば、宇宙のどこでもほぼ同じように形成されたはずなので、銀河系とアンドロメダ銀河の間の銀河間空間にも多数分布していると考えられます。

>原始ブラックホールがアンドロメダ座大銀河の星の手前を横切ると、原始ブラックホールによる重力レンズ効果で星の明るさが変化する。月質量程度の原始ブラックホールの場合、星の明るさの時間変化は10分から数時間かけて起こる。重力レンズ効果は非常に稀な現象で滅多に起こらないが、地球とアンドロメダ座大銀河の間に多数の原始ブラックホールが存在すれば、重力マイクロレンズ現象が起こる確率は非常に高くなるはずである。

ブラックホールは同程度の質量をもつ普通の天体と比べて体積が非常に小さいので、重力レンズ効果にもその違いが表れるのでしょう。

>研究チームは2014年の11月23日の夜に、約7時間で190枚ほどのアンドロメダ座大銀河の連続画像を取得した。HSCの広視野とすばる望遠鏡の集光力のおかげで、約9000万個の星を同時測定することができ、そこから約1万5000個もの変光天体が発見された。

「9000万個の星を同時測定する」って一言でいうけど、凄いですよね。
同時測定自体はすばるHSCの性能の賜物ですが、その後の処理も凄いです。
人間が一つ一つ目で見て判断していては何年かけても終わらないわけで、コンピュータによる画像処理の威力だと思います。

>この中から、重力マイクロレンズ効果が予言する明るさの時間変動と一致する天体、つまり重力レンズ現象の候補天体を探したところ、わずか1個だけ、重力マイクロレンズ候補星が見つかった。

「約1万5000個もの変光天体」の中から重力レンズ現象候補星を1個だけ発見したというのですが、伝統的な比喩でいうと「枯草の山の中から針を1本見つけ出す」くらいの難易度でしょうか。

ここで、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。
「原始ブラックホールによる重力マイクロレンズ効果の候補天体」の画像と光度変化のグラフです。
候補天体の画像は明るくなる前と明るくなってからの差分を取っていますね。

>これが本当に原始ブラックホールによる重力マイクロレンズ現象かどうかは追観測で確かめる必要になる。ただし、仮にこれが本当に原始ブラックホールであったとしても、1000個程度の重力レンズ現象を発見できるという理論予測に対して割合が小さすぎ、原始ブラックホールの総量はダークマターの約0.1%程度の質量にしか寄与していないことになる。

ダークマターの正体が原始ブラックホールであれば「1000個程度の重力レンズ現象を発見できるという理論予測」があったけど、今回の研究で否定されたということです。

>今回の解析結果は、太陽質量の10億分の1(月質量の30分の1程度)の軽い原始ブラックホールがダークマターであるという説を棄却するものとなった。研究チームでは今後もアンドロメダ座大銀河をHSCで観測し、時間変動天体、原始ブラックホールの重力マイクロレンズ効果の探索研究を発展させる予定だという。

「太陽質量の10億分の1(月質量の30分の1程度)の軽い原始ブラックホールがダークマターであるという説」は棄却されたというのが結論です。
太陽質量は約2.0×1030kgなので、その10億分の1だと、2.0×1021kgです。
原始ブラックホール説は昔からときどき見ますが、その質量の推計値は初めて見たような気がします。

ダークマターの正体解明に向けて一歩前進ではありますが、先はまだまだ長そうです。
新倉広子さんの今後のご活躍に期待します(^_^

・新理論、ダークマターは軽くて散乱する
アストロアーツ3月5日付記事、元はカブリIPMUです。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10509_darkmatter

カブリIPMUのフルネームは、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構です。
カブリはKavliで、米カブリ財団の基金を受け入れているということを示す冠です。
個人的には、「数物宇宙研」の方が日本語の略称として相応しいと思うのですけどね。

概要>ダークマター粒子は特定の速度のときだけ互いに散乱するという新たな理論が提唱された。ダークマターにこのような性質があれば、矮小銀河と銀河団のダークマター分布が異なるという問題を解決できるという。

>ダークマター(暗黒物質)は、宇宙に存在する物質の80%以上を占めているが、その正体や性質はまだわかっていない。しかし、誕生直後の宇宙では、ダークマターの重力に引き寄せられて通常の物質が集まり、ここから星や銀河が作られて、後の時代の惑星や生命の誕生にもつながったと考えられている。

ダークマターの正体として近年有力とされてきたニュートラリーノについては、次のQ&Aをご覧ください。
△ニュートラリーノって何のこと?:
https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/25497190.html

>ダークマターは銀河や銀河団に多く存在していて、銀河の回転や銀河団が引き起こす「重力レンズ」などの現象の観測を通じて、どのように分布しているかはおおよそわかっている。しかし、こうした観測から導かれたダークマターの分布は、ダークマターの性質を予言する従来の理論ではうまく説明できていない。

重力レンズとは、銀河団など質量の大きな天体があるとき、その質量により空間が曲げられて、地球から見てその背後にある天体の像が歪んだり光が増幅されたりする現象のこと。

>たとえば、ダークマターは重力のみを及ぼす物質だと考えられているが、もしそうだとすれば、お互いに引っ張り合うだけで反発することがないため、ダークマターは銀河の中心に向かってどんどん高密度に集中していくはずだ。実際、従来の理論に基づくコンピューターシミュレーションでは、ダークマターは銀河の中心にいくほど集中して分布するという結果が得られている。ところが、観測から得られる実際の分布は必ずしもそのようにはなっていない。特に、「矮小楕円銀河」と呼ばれる小さくて暗い銀河では、ダークマターは銀河の中心にはあまり密集せず、銀河の縁から中心に向かって緩やかに密度が増えるような分布をしている。

ダークマターは重力により互いに引き合って集まりますが、重力の中心に近づくにつれて運動エネルギーが大きくなり速度が速くなるのに(ここまでは普通の物質と同じ)、そのエネルギーを電磁波として捨てることができないため、普通の物質のように圧縮されて恒星などを形成することはできません。

>もしダークマターがビリヤードのボールのように、お互いに相互作用し合って散乱するような性質を持つとすれば、確かに矮小楕円銀河に見られるような緩やかな分布になりうる。一方で、銀河団のような大きい構造の中に存在しているダークマターは、中心部で高密度にまとまっていることが観測からわかっている。そのため、ダークマター同士が銀河団の中でも散乱を起こすとすると、今度は銀河団のダークマターの分布を説明することができなくなってしまう。

あちら立てればこちらが立たず、ですか。
ダークマターの分布が規模によって異なるというのは、不思議な現象に思えます。

ここでいう散乱とは、ダークマターどうしが衝突して跳ね返ることです。
ダークマターが重力以外の相互作用を全くしないのであれば、衝突も起こりません。

ここで、アストロアーツ掲載の画像をご覧ください。
「矮小銀河と銀河団でのダークマターの分布を模式的に表した図」が載っています。

>この問題を解決できる新たなモデルとして、オーストリア科学アカデミーのXiaoyong Chuさんとドイツ電子シンクロトロン研究所のCamilo Garcia-Celyさん、米・カリフォルニア大学バークレー校および東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の村山斉さんの研究グループは、ダークマターは「共鳴」を起こすことで散乱するという理論を提唱した。矮小楕円銀河の中でダークマターに共鳴現象が起こっているとすると、矮小銀河と銀河団のダークマター分布の違いをうまく説明できるという。

IPMUの村山斉(ひとし)さんのお名前は、久しぶりに聞くような気がします。
IPMUができたときは村山さんが機構長として大活躍していたように思いますが、今の機構長は大栗博司(おおぐり・ひろし)さんとなっており、村山さんは大勢いる主任研究者の一人におさまっています。
広告塔の役割をするのも、くたびれるのでしょう。

>共鳴とは、ある周期で振動している物体に外部から同じ周期の振動を加えると、振幅が大きくなる現象だ。ブランコを揺れに合わせて繰り返しこぐと揺れ幅が大きくなる現象など、共鳴現象は日常で広く目にする。ラジオの周波数をラジオ局の電波に合わせてチューニングする際にも、電気回路で起こる共鳴現象が利用されている。研究グループでは、ダークマター粒子同士が特定の速度を持っているときにだけこの共鳴が起こり、粒子が互いに散乱されることで、矮小銀河のような環境ではダークマターが緩やかな密度分布になるのだと考えている。

分かりやすい説明ですが、特定の速度をもっているとなぜ共鳴が起こって、共鳴が起こるとなぜ散乱されるのか、私には理解できません。
発表元を読むと、ラジオ以外に次のような例が載っています。
>>共鳴とは、日常生活にも見られる身近な現象です。例えば、ワインの芳香を引き出し、より味をまろやかにするには、ワイングラスを決まったスピードで回さないと、沢山の酸素を取り込むことができません。正確な音程で歌えば、すぐ近くにおいてあるギターの弦が共に振動し始めます。

ワインは飲んでも微妙な味わいは分からないし、カラオケは数多く歌えど音程が正確でないせいか、共鳴とは無縁の人生です(T T

>「もしダークマターの粒子が低質量で、かつ極めて特別な固有の速度で互いに散乱する性質を持つならば、ダークマター粒子がゆっくり動いている矮小楕円銀河ではそうした散乱が起こるはずです。しかし、ダークマターが速く動いている銀河団ではそのようなことは滅多に起こらなくなります」(Chuさん)。

ダークマターの最高速度は質量の大きさによるので、銀河団では速く、矮小楕円銀河では遅くなるというのは、分かりやすい理屈です。

>「私はこの考え方が観測データを説明するということには、少し懐疑的でした。しかし、この考え方を試してみると、魔法のようにダークマターの振る舞いについて説明できました。もしこの考え方が本当なら、異なる銀河を詳細に観測することで、ダークマターの散乱が本当にその速度で起こるということが明らかになるでしょう」(Garcia-Celyさん)。
>「今回の理論は私たちの知りうる限り、銀河におけるダークマターの分布の違いの謎について説明可能な最もシンプルな考え方です。ダークマターの性質がどういうものかが近いうちにわかるかもしれないので、とてもわくわくしています」(村山さん)。
>村山さんは、米・ハワイ島マウナケア山のすばる望遠鏡に搭載する超広視野多天体分光器「PFS(Prime Focus Spectrograph)」の国際研究開発グループも率いている。PFSでは矮小銀河に含まれる多数の星の運動を精密に観測でき、ダークマターの運動を詳細に調べられる可能性がある。こうした次世代の観測機器によって、今回の理論が検証されるかもしれない。

今回はまだ一つの理論的な仮説が提案されたという段階なので、今後すばるでの観測などにより検証される必要があります。
もしこの仮説が正しければ、ダークマターの正体を知るための有力な手掛かりになるかもしれません。
期待しましょう。

・宇宙膨張が標準理論と不一致?クエーサーの観測から示唆
アストロアーツ2月4日付記事、元は欧州宇宙機関(ESA)です。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10463_expansion

概要>遠方宇宙のクエーサーの観測から、初期宇宙の膨張が標準宇宙モデルの予測と食い違っている可能性が示された。標準理論を超える新たな物理を考える必要があるかもしれない。

宇宙論の新たな可能性を示しているかもしれない研究成果です。

>現在の標準宇宙モデルでは、人体や惑星、恒星などを形作っている「普通の物質」(バリオン)は宇宙全体のエネルギーの数パーセントしか占めていないとされている。宇宙の全エネルギーの約4分の1は、重力は及ぼすものの電磁波では観測できない「ダークマター」が担っていて、残り4分の3は宇宙の加速膨張を現在も引き起こしている「ダークエネルギー」という謎の物質が占めているとみられる。

バリオンはbaryonをそのまま音訳したもので、漢字にすると重粒子です。
普通の物質の質量は、ほとんどが陽子と中性子のものなので、天文学では両者を含む概念であるバリオンを普通の物質の代名詞としています。

現在の標準宇宙モデルはΛCDMモデルといい、Λ(ラムダ)はアインシュタインの宇宙項ありを意味し、CDMは冷たいダークマター(暗黒物質、cold dark matter)の略で、全体で「ダークエネルギーが存在し質量の大きい未知の素粒子がダークマターの正体だとする仮説」のことです。

>この標準宇宙モデルを構築する基礎となったのは、約138億年前に起こったビックバンの熱放射の名残である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測と、より地球に近い(=時代が新しい)宇宙で得られた観測データだ。地球に近い宇宙の観測で得られる情報には、超新星爆発や銀河団の観測データや、遠方の銀河の像が重力レンズ効果で歪む効果の観測データなどがある。こうした観測結果は、今から約90億年前までの「最近」の宇宙膨張の様子を調べるのに使われる。

宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background (radiation))は、宇宙誕生から約38万年後に起こった宇宙の晴れ上がりにより直進できるようになった電磁波の名残です。
当時の宇宙は約3000Kで、その黒体放射のピークは近赤外線領域でした。
それが宇宙膨張により波長が約1000倍に伸びて、約3Kの黒体放射に相当する電波になったものです。

>今回、伊・フィレンツェ大学のGuido Risalitiさんと、英・ダーラム大学のElisabeta Lussoさんたちの研究チームでは、宇宙膨張の歴史を調べる新たな指標として「クエーサー」を利用することで、近傍宇宙とビッグバン直後の宇宙の間にある観測の「空白域」を埋め、約120億年前までの宇宙膨張の様子を調べた。

毎度お馴染みクエーサーです(^_^
クエーサーは母銀河と同程度の明るさで輝き、宇宙で最も明るい天体とされます。
活動銀河核(AGN)の一種で、その正体は以下の説明の通りです。

>クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールが周囲から猛烈な勢いで物質を吸い込み、桁外れの明るさで輝いている天体だ。物質がブラックホールへ落ち込むと、その周囲に降着円盤が形成され、円盤内の物質が摩擦で加熱されて可視光線や紫外線を強く放射する。円盤の周りに存在している光速に近い電子がこの紫外線とぶつかると、紫外線の光子はさらにエネルギーの高いX線となる。

クエーサーを使った宇宙論の研究成果は数日前にも掲載しました。
二重クエーサー像から推定するハッブル定数:
https://blogs.yahoo.co.jp/karaokegurui/70897764.html
ただ、そのときとは研究方法も研究者も異なるので、まったく独立した研究ですね。
次々と研究成果が公表されるのをみると、嬉しくなるのは私だけかな?

紫外線が高エネルギー電子と衝突してX線になるのは、逆コンプトン散乱と呼ばれる現象です。
高エネルギー光子が電子に当たって高エネルギー電子として弾き飛ばされるのがコンプトン散乱です。
逆コンプトン散乱では、電子と光子の間のエネルギーのやり取りが逆になっています。
巨大ブラックホールを取り巻く降着円盤で最も高温になっているのは最内縁ですが、そこから放射される電磁波はもともとは紫外線だと理解してよいのですね。
最初からX線が放射されるわけではないと。

>クエーサーが放つ紫外線とX線の明るさの間には、一定の関係があることが以前から知られていた。3年前、RisalitiさんとLussoさんは、この関係を使えば、クエーサーが放つ紫外線の「真の明るさ」がわかるので、見かけの明るさと真の明るさの差からクエーサーまでの距離を見積もることができることに気づいた。多くのクエーサーまでの距離がわかれば、宇宙膨張の歴史を調べることもできる。

クエーサーが放射する紫外線の一部はX線に変わってしまうが、残った紫外線とX線の明るさを同時に観測すれば、もともと放射された紫外線の明るさ(「真の明るさ」)が分かるのだと。
クエーサーまでの距離はこれまで別の方法で推定されてきていますが、クエーサー自体の紫外線とX線を利用して多数のクエーサーの距離を体系的に推測できれば、宇宙論の研究に使えるというわけです。

>このように、真の明るさと見かけの明るさの差から距離を測ることができる天体は「標準光源」と呼ばれている。最もよく知られている例は「Ia型超新星」だ。Ia型超新星の真の明るさはどれも同じと考えられているため、ピンポイントで距離を知ることができる。1990年代後半には、この手法でIa型超新星までの距離を求めることで、宇宙が過去数十億年にわたって加速膨張してきたことが明らかになっている。

標準光源の原語は、standard candleです。
宇宙の彼方に灯っているロウソクって、ロマンティックな感じがしませんか?

>「クエーサーを標準光源として使う方法には非常に大きな可能性があります。クエーサーを使えばIa型超新星よりもずっと遠くの宇宙を観測できますから、より初期の宇宙の歴史を探ることができます」(Lussoさん)。

これまで一番遠い標準光源は、爆発のし方が極めて定型的なIa型超新星でした。
クエーサーを使えばそれよりずっと遠くの宇宙まで観測できるというのは、宇宙論の観測における大きなブレークスルーだと評価してよいでしょう。
また、超新星は一時的な現象で、爆発直後の観測がすべてですが、クエーサーは人類が観測している期間は明るく輝き続けるというメリットもあると思います。

>今回Risalitiさんたちは、ESAのX線宇宙望遠鏡「XMMニュートン」の過去の観測データから7000個以上のクエーサーのX線データを集め、これをスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)による地上からの紫外線観測の結果と組み合わせた。さらに、XMMニュートンやNASAのX線宇宙望遠鏡「チャンドラ」、「ニール・ゲーレルス・スウィフト」で得られた、より遠方や比較的近傍のクエーサーのデータも利用した。これら大量のデータから最終的に1600個のクエーサーを選び出し、紫外線とX線の明るさからクエーサーまでの距離を求めた。

X線観測衛星がまとめて出てきたので、久しぶりに復習しておきます。
「XMMニュートン」は1999年12月に欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げたX線観測衛星で、英名X-ray Multi-Mirror Mission-Newtonです。
ニュートンという名前は、もちろん世界一有名な物理学者からとっています。
「チャンドラ」は1999年7月にNASAが打ち上げたX線観測衛星で、英名Chandra X-ray Observatoryです。
名前は、チャンドラセカール限界の発見で有名なインド生まれのアメリカの天体物理学者チャンドラセカールに因んでいます。
(ちなみに、どこぞの探偵小説家はChandlerチャンドラーで、綴りも違います。)
同じ年に打ち上げられたX線観測衛星なので、両者は双子のようなものですね。
どちらも予定運用期間を大幅に超えて現在も運用中のようです。頑張ってますね!
「ニール・ゲーレルス・スウィフト」は、米英伊の共同開発により2004年11月に打ち上げられたガンマ線バースト観測衛星。
NASAゴダード宇宙飛行センターが管理し、軌道高度600kmで、現在も運用中。
ガンマ線、X線、紫外線〜可視光の各領域でガンマ線バーストとその残光を観測できる。
ガンマ線バーストの発生を検知すると、地上からの管制なしに衛星をその方向に向けることができ、その素早い様子から「Swift」(和名アマツバメ)と命名された。略称ではない。
ニール・ゲーレルス(Neil Gehrels,1952-2017)はアメリカの宇宙物理学者で、専門はガンマ線天文学。
ゴダード宇宙飛行センターの主任研究官のまま2017年初めに亡くなったゲーレルスを称えて、2018年1月、スウィフトの名称の頭にニール・ゲーレルスが付けられたとのこと。

>「約120億年の範囲にわたっているクエーサーのサンプルと、より近い80億年前までの範囲をカバーするIa型超新星のサンプルを組み合わせて分析したところ、両方の天体が存在する最近の宇宙では、宇宙膨張の速度はどちらの天体から求めても似た結果になりました。しかし、クエーサーしかない初期宇宙については、クエーサーの観測から導いた実際の膨張速度と標準モデルの予測との間に食い違いがあることがわかりました」(Lussoさん)。

Ia型超新星による推計はこれまでの実績があるので、比較的近距離でそれと一致するのであれば、クエーサーによる推計も信頼できるといってよいでしょう。
ところが、今度は標準モデルの予測と食い違いが生じていると。

ここで、アストロアーツ掲載の下の画像をご覧ください。
宇宙の距離の測定を示すグラフで、横軸は時間を表し、左端が現在です。
上辺には赤方偏移の大きさ、下辺には宇宙年齢が目盛られています。
縦軸は天体までの距離を表します。
ピンクの破線が近傍宇宙の観測だけをもとに標準宇宙モデルで導いた予測で、黒の実線がすべての観測に最もよく合う曲線を示します。
クエーサーでしか調べることができないグラフの右の方(初期の宇宙)で、両者に食い違いが見られます。

>このような食い違いは、現在の宇宙の膨張速度を表す「ハッブル定数」の値についても最近見つかっている。超新星や銀河団など、近傍の宇宙の観測から導いたハッブル定数が、CMBの観測から導いた値と合わないのだ。こうした食い違いを解消するためには、標準宇宙モデルに新たなパラメーターを追加する必要があるかもしれない。

「食い違いを解消するため、モデルに新たなパラメーターを追加する」というと、小手先のテクニックのような印象を受けるのですが、もちろんちゃんとした理由付けが必要です。

>「考えられる解決策の一つは、標準理論では一定とされているダークエネルギーの密度が、時代とともに増えると仮定することです。このモデルは、宇宙膨張の歴史に見られる矛盾とハッブル定数の矛盾とを同時に解決できる興味深いものです。しかし、最終的な審判はまだ下されていません。この宇宙の難題を解くにはもっとたくさんのモデルを詳しく検討すべきでしょう」(Risalitiさん)。

「ダークエネルギーの密度が、時代とともに」変化するという仮説は、宇宙の加速膨張が発見された1998年からしばらくの間は検討されたことがあったと思います。
そのときは積極的に支持する材料はないとしていつの間にか忘れられたというのが私の理解ですが、今回復活するかもしれないのですね。
ただ、それは一つの可能性にすぎず、他の可能性も探ってみなければならないでしょう。

>Risalitiさんたちは、分析成果を改善するためにより多くのクエーサーが将来観測されるのを心待ちにしている。またESAでは、2022年に宇宙望遠鏡「ユークリッド」の打ち上げを予定している。「ユークリッド」は100億年前までさかのぼって宇宙膨張の様子を観測し、ダークエネルギーの正体を調べる予定だ。これによっても新たな手がかりが得られることだろう。

ESAの新たな宇宙望遠鏡「ユークリッド」ですか。
ぜひ期待したいところですが、2022年打上げ予定だと、それまでに打上げ延期のニュースが入ってきそうな悪い予感がします(^^;


★ 3連休最初の土曜日ですが、記録的な寒波と雪のため遠出する気になれません。
それで、つい記事を書くのに力が入り、長くなってしまいました。
まあ、たまにはいいか(^_^

・二重クエーサー像の観測から推定するハッブル定数
アストロアーツ1月29日付記事、元はカリフォルニア大学ロサンゼルス校です。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10456_constant

概要>重力レンズ効果によって複数像に見えるクエーサーを利用して、宇宙の膨張率を表すハッブル定数を推定した研究結果が発表された。

>宇宙がどのくらいの速度で膨張しているのかを表す「ハッブル定数」は、遠方銀河の大きさや宇宙の年齢を決定するうえで重要な値だ。様々な観測によってその正確な値を知る研究が続けられており、推定値は67-73km/s/Mpc(1メガパーセク(約326万光年)離れた2点間の距離が毎秒67-73km広がる)の範囲にあるものの、確実な答えはまだ得られていない。

ハッブル定数は宇宙の膨張率を表し、宇宙論における最も基本的な数値です。
ハッブル定数の精確な測定は、現在の宇宙論の最重要課題の一つとなっています。
なお、ハッブル「定数」といいますが、時間的に不変という意味ではなく、宇宙のどこで測っても同じという意味の「定数」です。

>ハッブル定数を導出する方法のほとんどは、天体までの距離と、その天体の後退速度(私たちから遠ざかる速度)の2つの情報を元にしている。米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のSimon Birrerさんたちの研究チームは、これまでにハッブル定数の距離の計算に利用されていない光源として、クエーサーを用いた研究を行った。クエーサーとは、中心の大質量ブラックホールによって莫大なエネルギーを中心部から放射し明るく見える銀河である。

ハッブル定数の定義を簡単に書くと、
  ハッブル定数 = 天体の後退速度/天体までの距離
です。
ただ、比較的近距離にある銀河の速度(ベクトル量)の方向は、必ずしも後退つまり地球から遠ざかっているものだけではありません。

大部分の銀河の中心には、太陽の100万倍〜数10億倍の質量をもつ巨大ブラックホールが存在します。
巨大ブラックホールに周囲から物質が落ち込むとき降着円盤を構成し、落下によって解放された莫大なエネルギーで母銀河全体と同程度の明るさで輝きます。
これがクエーサーを含む活動銀河ですが、現在の銀河系のように周囲の物質が落ち込まない場合にはそうはなりません。

>Birrerさんたちがとくに注目したのは、1つのクエーサーの像が複数になって見えているような天体だ。
>クエーサーと私たちとの間に別の銀河が存在すると、その中間の銀河の質量が生み出す重力レンズ効果によって、クエーサー像が複数に見えることがある。もしクエーサーの明るさが変動すると、レンズ効果を受けた像の明るさも変わるが、地球まで届く光の経路が異なるため、それぞれの像の明るさは同時ではなく時間差で変動する。この時間差の情報などを元にすると、クエーサーと中間の銀河までの距離を推定することができるので、そこからハッブル定数を計算できる。

アインシュタインの一般相対論によれば、大きな質量があるとき、その周囲の時空は歪みます。
通常では観測できないほど遠方の天体でも、途中に大質量天体があればその影響により時空が歪んで光(電磁波)が集められて明るく見えるため、これを重力レンズ効果といいます。
今回の研究では、クエーサーから地球まで届く光の経路が異なるとき、クエーサーの明るさの変動が経路による時間差の影響を受けるため、それによってクエーサーと中間の重力レンズ効果を起こす銀河までの距離を推定しています。

>研究チームでは、「H0liCOW collaboration」と呼ばれる国際的なプロジェクトの一環で四重クエーサー像を用いてこの手法を実証しようとしていたが、四重の像は発見例が少ないため、まず二重クエーサー像で研究を行った。対象となったのは、りょうけん座とおおぐま座の境界付近に存在する二重クエーサー「SDSS J1206+4332」だ。

ここで、アストロアーツ掲載の画像をご覧ください。
ハッブルが撮影した二重クエーサー「SDSS J1206+4332」の写真です。

>ハッブル宇宙望遠鏡やジェミニ望遠鏡、ケック天文台の観測データなどを用いた研究の結果、Birrerさんたちはハッブル定数の値を72.5km/s/Mpcと導き出した。これは、遠方の超新星を距離指標として用いた計算から得られている値とよく一致する。しかし今回の値も超新星観測による値も、宇宙マイクロ背景放射の観測結果に基づく値より約8%大きい。「方法によって値が異なるのが本当のことだとしたら、それはこの宇宙がもう少し複雑であることを意味しています。しかし、3つのうち1つか、あるいは3つすべてが正しくない可能性もあります」(米・カリフォルニア大学ロサンゼルス校 Tommaso Treuさん)。

前半でハッブル定数の推計値が67-73km/s/Mpcとありましたが、大きい方の73が「遠方の超新星を距離指標として用いた計算から得られている値」、小さい方の67が「宇宙マイクロ背景放射の観測結果に基づく値」です。
計算してみると、確かに8%違います。

>今回の方法の利点は、他の方法とは独立に、かつ他の方法を補うような形で、ハッブル定数を測定できるというところにある。研究チームではすでに四重クエーサー像を40個も見つけており、これらを対象とした解析からハッブル定数の精度向上を目指している。

それぞれの推計の精度向上は必要ですが、仮に今後いつまでも8%の違いが埋まらないのであれば、何らかの理由を考え出さなければいけなくなりますね。
それはそれで面白い展開ですが。

・IAU、宇宙膨張の法則名として「ハッブル‐ルメートルの法則」を推奨
アストロアーツ11月1日付記事、元は国際天文学連合(IAU)です。
http://www.astroarts.co.jp/article/hl/a/10272_hubble-lemaitre

概要>従来「ハッブルの法則」と呼ばれてきた宇宙膨張に関する法則の名称について、国際天文学連合では今後「ハッブル‐ルメートルの法則」と呼ぶことを推奨すると発表した。ハッブル以前に同様の成果を発表していたルメートルの貢献を称えるものだ。

>1929年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブル(Edwin Powell Hubble; 1889-1953)は、銀河が遠ざかる速度(後退速度)は銀河までの距離に比例するという研究成果を発表した。「ハッブルの法則」と呼ばれてきたこの成果は、天文学における最も重要で有名な法則の一つである。

「ハッブルの法則」は、「銀河が遠ざかる速度(後退速度)は銀河までの距離に比例する」というものです。
宇宙に関する最も基本的な法則なのですから、「天文学における最も重要で有名な法則」と言っても間違いないでしょう。

日本人は特に第二次大戦後、個人の名前を物事に冠することは好んでしませんが、欧米では当然のこととされます。

>実はハッブルの2年前に同様の内容を発表した人物がいた。ベルギーの天文学者ジョルジュ・ルメートル(Georges-Henri Lemaître; 1894-1966)だ。ルメートルの論文は無名の仏語誌『ブリュッセル科学会年報』に掲載されたため、その成果は広く知られることなく、長く歴史に埋もれることとなった。

ここで、アストロアーツ掲載の画像をご覧ください。
上の写真は、米・パロマ山天文台の48インチ望遠鏡の傍らに立つハッブルの姿ですが、何となく望遠鏡に潰されそうに見えますね(^^;
下がルメートルの写真で、「ベルギー・ルーヴェン・カトリック大学で教鞭をとる」という説明が付いています。
ルメートルはカトリックの神父なので、それらしい服装をしています。

>近年になってルメートルの研究経緯が詳しくわかり、宇宙膨張に関する理論研究に対するルメートルの貢献を認めようという動きがなされるようになった。そこで国際天文学連合(IAU)は今年8月に、オーストリア・ウィーンで開催されたIAU総会の場で、「ハッブルの法則」にルメートルの名前を追加することを提案した。
>その後、IAUの会員約1万1000人を対象に電子投票が実施され、有効票約4000票のうち8割弱が新名称「ハッブル‐ルメートルの法則」への変更を支持したことから、IAUは法則の新名称として「ハッブル‐ルメートルの法則」を使用することを推奨すると発表した。
>「名称を決めるのに投票という方法はなじまない」「『ルメートル‐ハッブルの法則』ではないのか」といった意見もないわけではないが、今後は学術書や科学雑誌等では新表記が用いられていくこととなるだろう。

ルメートルの業績はその通りなので、異論はあまりないでしょう。
ただ、少なくとも日本語では「ハッブル‐ルメートルの法則」は少し長すぎて、結局実際には元の「ハッブルの法則」に戻ってしまうのではないかと思います。

それと、この話題の関連で、第二次大戦前の日本語雑誌に発表された論文はフランス語雑誌に発表された論文のような評価を受けていないのではないか、という感想をもちました。
まあ、近年は英語雑誌に発表しているでしょうから、問題はないと思いますが。

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