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Q 光速に近い宇宙船内の時間は地球からみて遅れるということですね。
ところで、同じ宇宙船内でも宇宙船の先の方と後ろの方とで時間に差が生じるのでしょうか?
A1.光速に近い一定の速度で航行する宇宙船を考えます。
特殊相対論によれば、この宇宙船の長さは地球からみると短縮しています。
また、宇宙船内の時計が示す時間経過は、地球からみて遅れています。
抽象的に議論しても分かりづらいので、具体例として宇宙船の航行速度を光速の8割としましょう。(速度が変化する場合は別問に回します。)
また、宇宙船の長さは、宇宙船に乗っている観測者が測って 2 光秒だとします。
このとき、地球からみた宇宙船の長さは 6 割に縮んでいるので、1.2 光秒です。
宇宙船の時計が示す時間経過は、地球からみて 6 割に遅れています。
地球で1分(=60秒)経過しても、宇宙船内では36秒しか経過しません。
2.次に、宇宙船の船首、中央、船尾の3箇所に時計を置いて、中央から船首と船尾に光信号を送って時間を合わせることにします。
時間の合わせ方は、中央の時計が t1 のときに光信号を発して、それを船首(船尾)で時刻tで受け取り、そのまま鏡で反射して中央に時刻 t2 のときに戻ったとします。
三つの時計は、いずれも同じ宇宙船内で同じ速度で運動していますから、相互には静止しています。
したがって、行き帰りの距離は同じですから、船首(船尾)で受信した時刻 t は t1 と t2 のちょうど中間の時刻、すなわち
t = (t1+t2)/2
となるはずです。
今考察している宇宙船の長さは 2 光秒なので、中央から船首(船尾)までの距離はその半分の 1 光秒です。
中央から送られた光信号はその 1 秒後に船首と船尾に届き、鏡で正確に反射すれば 2 秒後には中央に戻ってきます。
以上は宇宙船の中での観測です。
時計合わせが終了しているとすると、中央で光信号を発したときの中央の時計を時刻0秒とすれば、三つの時計の時刻の関係は次のようになっているはずです。
・宇宙船内でみた時刻の整理 (単位:秒)
船尾 中央 船首 備考
0 0 0 中央が光信号を発した時刻
1 1 1 船首と船尾が光信号を受ける時刻
2 2 2 中央が返信を受ける時刻
ここまでは当然ですね。
3.さて、光信号による時計合わせが、地球からどのように観測されるか考えてみましょう。
ここで地球にも時計を置き、宇宙船中央から光信号が発せられるとき、地球の時計も時刻0秒に合っているとします。
中央から船首までの距離は 0.6 光秒で、船首は中央から送られる光から逃げる方向に光速の 8 割で運動していますから、光信号が船首に届くのは
0.6/(1−0.8) = 3
つまり3秒後です。
中央は船首で反射された光信号に対して光速の8割で向かって運動していますから、光信号が中央に戻るには
0.6/(1+0.8) = 1/3
つまり約 0.33 秒しかかかりません。
船首に送られた光信号が反射して中央に戻るのは、光信号を発してから約 3.33 秒後です。
次に船尾は、船首とは逆に中央から送られる光に向かう方向に光速の 8 割で運動していますから、光信号が船尾に届くのは
0.6/(1+0.8) = 1/3
先ほどと同様に考えて、船尾に送られた光信号が中央に戻るのは光信号を発してから約3.33秒後です。
以上を整理すれば、次のようになります。
・地球からみた時間の整理(当初版)
地球 宇宙船の (単位:秒)
船尾 中央 船首 備考
0 0 中央が光信号を発した時刻
0.33 1 船尾が光信号を受ける時刻
1.67 1 中央の時計が1秒を指す時刻
3 1 船首が光信号を受ける時刻
3.33 2 中央が返信を受ける時刻
4.さて、上の表には穴がたくさん空いています。
まず中央の穴を埋めることにしましょう。
地球で0.33秒のとき宇宙船の中央では
1/3 × 0.6 = 0.2
つまり 0.2 秒となります。
同じく地球が 3 秒のとき、宇宙船中央は 1.8 秒となります。
次に船首ですが、同じ宇宙船内なので中央と時間の進み方は同じですが、時刻はずれています。
船首が 1 秒のとき地球では 3 秒、先の計算により中央では 1.8 秒です。
ということは、「船首の時刻はつねに中央の時刻より 0.8 秒遅れている」ことになります。
同様の考察により、「船尾の時刻はつねに中央の時刻より 0.8 秒進んでいる」ことが分かります。
こうして穴をすべて埋めた表は次のようになります。
・地球からみた時間の整理(完全版)
地球 宇宙船の (単位:秒)
船尾 中央 船首 備 考
0 0.8 0 −0.8 中央から光信号を発した時刻
0.33 1 0.2 −0.6 船尾が光信号を受ける時刻
1.67 1.8 1 0.2 中央の時計が 1 秒を指す時刻
3 2.6 1.8 1 船首が光信号を受ける時刻
3.33 2.8 2 1.2 中央が返信を受ける時刻
地球の時刻が 0 秒のとき、船首の時刻が−0.8 秒、船尾の時刻が 0.8 秒となっているのは中央の時刻を 0 秒に合わせたからです。
船首でも船尾でも、時間経過は同じように地球の 6 割に遅れていることを確認してください。
5.今度は、中央と比べた時刻の進み・遅れが中央との距離によってどう変わるかを考えてみましょう。
中央と船首・船尾の中間点(中央まで 0.5 光秒の地点)にもう一つ時計を置いて、これまでと同様の考察を行えば、次のような表が得られます。
・地球からみた時間の整理(船首・船尾までの距離が 0.5 光秒の場合)
地球 宇宙船の (単位:秒)
船尾 中央 船首 備 考
0 0.4 0 −0.4 中央から光信号を発した時刻
0.17 0.5 0.1 −0.3 船尾が光信号を受ける時刻
0.89 0.9 0.5 0.1 中央の時計が 1 秒を指す時刻
1.5 1.3 0.9 0.5 船首が光信号を受ける時刻
1.67 1.4 1 0.6 中央が返信を受ける時刻
したがって、「時刻の進み・遅れは基準点からの距離に比例する」ことが分かります。
6.さらに、宇宙船の速度と時刻の進み・遅れの関係を考えてみましょう。
これまでは宇宙船の速度を光速の 8 割としていましたが、それを光速の 6 割に変更して表を作り変えてみます。
光速の 6 割で航行する宇宙船では、地球からみてその長さは 8 割に収縮し、その時間経過も 8 割に遅れます。
・地球からみた時間の整理(光速の 6 割の場合)
地球 宇宙船の (単位:秒)
船尾 中央 船首 備 考
0 0.6 0 −0.6 中央から光信号を発した時刻
0.5 1 0.4 −0.2 船尾が光信号を受ける時刻
1.25 1.6 1 0.4 中央の時計が 1 秒を指す時刻
2 2.2 1.6 1 船首が光信号を受ける時刻
2.5 2.6 2 1.4 中央が返信を受ける時刻
これから、「時刻の進み・遅れは宇宙船の速度に比例する」ことが推測できます。
7.以上をまとめると、次のようになります。
光速に近い一定速度で航行している宇宙船内では、時間経過は地球のそれよりも遅れています。
ですから、ある時点で時計を合わせても、宇宙船の時計は地球の時計よりもどんどん遅れていきます。
次に、同じ宇宙船内の進行方向前方(船首方向)と後方(船尾方向)の時刻を地球からみて比べると、前方の時刻は後方よりもつねに一定時間遅れています。逆にいうと、後方の時刻は前方よりもつねに一定時間進んでいます。
ただ、その進み・遅れは一定であり、どんどん大きくなったりすることはありません。
また、進み・遅れは進行方向の距離と宇宙船の速度の両方に比例します。
8.以上で示したのは単なる数値例であって、もちろん厳密な証明ではありません。
ただ、これまでの流れをご理解いただければ、ローレンツ変換の数式を用いて一般的な場合に拡張することは難しくはないでしょう。
その式を載せておきます。
宇宙船座標系での位置、時刻をx,tとし、地球座標系での位置、時刻をx'、t'とします。
ローレンツ変換は次の式で表されます。
t' = γ (t −vx/c2)
x' = γ (x −vt)
ここでローレンツ因子γは
γ = 1/√(1−v2/c2)
速度vが光速の 8 割であれば、v=0.8cを代入して、γ=1/0.6 となりますから、
宇宙船の時間経過が 6 割に遅れ、宇宙船の長さが 6 割に収縮することが分かります。
同じく光速の 6 割であれば、v=0.6cを代入して、γ=1/0.8 となります。
宇宙船の中央の位置を x0=0、船首を x1=1、船尾 x2=−1として、4.の結論の一部を導き出してみましょう。
宇宙船中央の時刻を t0、船首の時刻を t1 とします。
γt0 = γ(t1−0.8x1)
これを解けば、
t0 = t1 −0.8x1
= t1 −0.8
ということで、船首の時刻 t1 が中央の時刻 t0 より 0.8 秒遅れていることが分かります。
他の結論も同様に導くことができます。
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