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目次
0.はじめに
1.距離と距離空間
2.近傍
3.内部、外部、境界、閉包――位相の諸概念1
4.集積点、孤立点――位相の諸概念2
5.開集合と閉集合
6.連続写像と同相写像
7.連結と弧状連結
8.今後の展望
0.はじめに
数学のうちでも位相という分野は、日常用語として使う
・近い、遠い
・内、外、端・境目・縁(ふち、へり)
・つながっている・接している、切れている・離れている
・どんどん近づく、
といった概念を厳密化したものと考えることができます。
幾何ではこういった概念が不可欠ですし、解析学での極限・収束も「どんどん近づく」ことなので,位相に属します。
これまでこのブログでは、抽象的な数学のうち代数系は有限群、有限環などについてかなり取り上げたものの、位相はほとんど触れていませんでした。
位相は有限空間どころか可算無限空間でも議論する意味はほとんどないし、開集合による位相空間の抽象的定義を書いてもイメージがさっぱり湧かないだろうと思ったからです。
ところが、最近次の本を読むと位相の入り口的な部分について書いてあったので、それを参考にして自分なりにまとめてみました。
・藤田 博司 著 『「集合と位相」をなぜ学ぶのか』 技術評論社 A5判224頁 2018年3月発行
ただ、あくまで一部参考にしただけで同書の紹介ではありません。
なお、数学でいう位相は、物理の波動でいう位相とはたまたま日本語訳が同じですが、全く無縁です。
波動の位相はphaseフェイズですが、数学の位相はtopologyトポロジーです。
ここで集合論の復習をしておきます。
空集合φとは、元(要素)を1つももたない集合のことです。
φ = { }
一番基本的で大事な集合の1つなので、中身が空っぽだからといって「このピーマン野郎め!」とバカにしないでくださいね(^_^
2つの集合の合併とは、両者の少なくともどちらかに含まれる元を含む集合です。
A∪B = {x|x∈Aまたはx∈B}
2つの集合の共通部分とは、両者のいずれにも含まれる元を含む集合です。
A∩B = {x|x∈Aかつx∈B}
合併を和集合と呼び、共通部分を積集合と呼ぶ流儀もありますが、圏論的には集合圏の和は直和、積は直積となるので、本ブログでは紛れのないよう、合併と共通部分という用語を採用します。
集合Aの分割を、Aの部分集合の族Ai (i∈I) で、次の性質a〜cをもつものと定義します。
a.A = ∪i∈ I Ai
b.i,j ∈ I ,i ≠ j ならば、Ai ∩Aj =φ
c.すべての i ∈ I について、Ai ≠φ
開区間は(a,b)で表すことが多いのですが、順序対と区別できず混乱するので、ここでは ]a,b[ で表すことにします。
1.距離と距離空間
実数直線R上の2点p,qの距離d(p, q)は次のように定義されます。
d(p, q) = |p−q|
ただし、|x|は数xの絶対値を意味します。
次に2次元平面R2上の2点pとqを
p = (x1, x2),q = (y1, y2)
とするとき、pとqの距離d(p, q)は次のように定義されます。
d(p, q) = √((x1−y1)2 +(x2−y2)2)
これはピタゴラスの定理と同じことで、小学校以来習ってきた距離です。
この式を使えば、方眼紙にプロットした2点間の距離を、実際に測ることなく、マス目を勘定して計算するだけで求めることができます。
これを一般化して、m次元空間Rm上の2点pとqを
p = (x1 , ・・・, xm),q = (y1, ・・・, ym)
とするとき、pとqの距離d(p, q)は次のように定義されます。
d(p, q) = √((x1−y1)2 +・・・+(xm−ym)2)
= √(Σi=1→n(xi−yi)2)
m=2のときは当然2次元平面のときと一致します。
m=1のときは一見最初の実数直線のときと形が違うように見えますが、
√((x1−y1)2) = |x1−y1| = |p−q|
となるので、一致します。
以上のように定義された関数d(p, q)は次のような性質をもっています。
a’.d(p, p) = 0 自分自身までの距離はゼロ
b’.p≠q ならば d(p, q) > 0 異なる点までの距離は正の実数
c.d(p, q) = d(p, q) 行きと帰りの距離は同じ
d.d(p, q) ≦ d(p, r) +d(r, q) 寄り道すると距離は増える
通常、数学では不等号として > より ≧ を好むので、1’と2’を合わせ言い換えて次のように整理します。
a.非負性 : d(p, q) ≧ 0 (距離は零か正)
b.非退化性 : p = q ⇔ d(p, q) = 0 (⇔は論理的同値を意味する)
(自分自身までの距離は零、かつ距離が零の相手は自分だけ)
c.対称性 : d(p, q) = d(p, q)
d.三角不等式 : d(p, q) ≦ d(p, r) +d(r, q)
逆に、一般の集合Xにおいて2変数の実数値関数d(p, q)が定義されて、上のa〜dの公理を満たすとき、Xを距離空間(metric space)といい、d(p, q)を距離関数といいます。
ここで、上のa〜dの公理をみたす、m次元空間Rmにおけるさまざまな距離の定義を見ていこうと思います。
これまでみてきた普通の距離は、次の式で定義されました。
d2(p, q) = √(Σi=1→m(xi−yi)2)
これを、この後出てくる他の距離と区別するため、m次元ユークリッド距離といいます。
m次元ユークリッド空間というときは、Rmにユークリッド距離を入れたものを意味します。
2乗をk乗に一般化したものが、k-乗平均距離
dk(p, q) = (Σi=1→n(xi−yi)k)1/k
です。
k=1の場合はどうなるかというと、
d1(p, q) = Σi=1→n|xi−yi|
となり、マンハッタン距離、都市ブロック距離、市街地距離などと呼ばれ、これを使った幾何学をタクシーの幾何といいます(^_^
ただし、|x|はxの絶対値を表します。
逆に、kを大きくした極限では
dmax(p, q) = maxi=1→n|xi−yi|
となり、これはチェビシェフ距離と呼ばれます。
これらの距離の間には、kが小さい距離ほど大きい値となるという関係があります。
dmax(p, q) ≦ dk(p, q) ≦ d2(p, q) ≦ d1(p, q) ≦ ndmax(p, q)
ただし、k≧3。
これまで次のように一般化を進めてきました。
実数直線と2次元平面の距離 → m次元空間の距離 → 一般的な距離空間
さらに、一般的な位相空間に進みたいのですが、あまりにも抽象的すぎて実感が伴わないと思うので、その前に具体的な例示を使いながら位相に関する諸概念に馴染んでいきたいと思います。
以下、本稿ではm次元ユークリッド空間で考えます。
例としては、次の4つを主に使います。
例1 : 実数直線Rにおける左半開区間 〕0, 1〕 = {x∈R|0<x≦1}.
半閉区間と呼んでもよいように思うのですが、半開区間と呼ぶのが通例です。
日常用語でも、半開きとは言うけど、半閉まりとは言いませんからね(^_^
例2 : 実数直線Rにおける数列 xn = 1/n(n=1,2,・・・).
この数列は、x1=1,x2=1/2,x3=1/3,・・・と、どんどん小さくなって0に近づいていきます。
例3 : 実数直線Rにおける有理数全体の集合Q.
例4 : 平面R2における次の点集合
{(x, y)|0<√(x2+y2)<1} ∪ {(cos(t), sin(t))|0≦t<π} ∪ {(2, 0)}.
原点を中心とする半径1の円の内部と円周の上半分。ただし、右端(1, 0)は含むが左端(−1, 0)は含まない。また、原点(0, 0)は含まず、円から離れた1点(2, 0)を含む。
わざと変な集合にして、後で出てくる諸概念をうまく識別できるようにしてあります。
・全空間の2分割
m次元空間Rmにおいて集合Aを考えます。
RmにおいてAに含まれない点の集合をAの補集合といいます。
RmにおけるAの補集合は通常 Rm∖A あるいは Rm−A と書きますが、ここでは短く
¬A
と書くことにします。
すると、全空間は、Aと¬Aに2分割されます。
この2分割自体は位相とは無関係ですが、3節以降で出てくる分割との対比のために取り上げました。
2.近傍と連続写像、同相写像
位相の基礎的な諸概念のうちで、私が最も重要だと思うのは近傍です。
近傍(きんぼう)とは、ある点(や集合)の「近く」という日常用語を抽象化・厳密化したものです。
単に「点xの近く」といっても、どのくらい近くかははっきりしませんが、距離が定義されていれば「点xから距離ε未満の距離にある」と明確化することができます。
・ε-近傍の定義:
m次元空間Rmの点qと正の数εに対して、qからε未満の距離にある点の集合
{x∈Rm|d(x, q)<ε}
を、Rmにおける点qのε-近傍と呼び、U(q;ε)と書く。
点qの近傍とは「qに十分近い点の集合」を意味し、近さの程度を示すために「ε-」が付いています。
いくつか注意点を述べておきます。
a.εが正の実数なので、ε-近傍はεに対応して無数にあります。
特定のε-近傍を取り上げることはほとんどなく、「どんなε-近傍に対しても」か「あるε-近傍に対して」という形で現れるのが普通です。
b.実は、近傍の定義にとって距離は不可欠ではありませんが、距離が定義されているRmでは近傍の定義としてε-近傍は自然です。
一般的な近傍の定義は、別稿でご紹介します。
c.日常用語では「点qの近く」にq自身は含まれませんが、上の定義では含まれます。
qに最も近いのはq自身です。
順序で「<」より「≦」を好むのと同様で、その方が論理的には自然なのです。
d.日常用語では「近く」と「遠く」は反対概念なのだから、「近く」ではなく「遠く」¬U(q;ε)を基本にしても同じように思えますが、「遠く」は自然とはいえません。
なお、イメージでいうと、後でみるように「十分近い」の反対は「離れている」となります。
----------------------- 続 く ---------------------
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