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〜日本の健康保険制度はどこに向かうのか〜
(中央公論 2006/6 保険テレビCM氾濫の謎 斉藤貴夫 〜より一部抜粋〜 )
日本の健康保険制度では下記のような仕組みとなっている。
大企業の健康保険組合が運営する組合健保や社会保険庁が中小企業の
従業員を対象に運営する政府管掌健康保険などの公務員らの共済組合、
それらにカバーされない自営業者のための国民健康保険などの、公的
保険に原則すべての国民が加入する『国民皆保険制度』のこと。
この日本の健康保険制度を脅かす『混合診療』とな何なのか?
その解禁を目論む米国とそれに呼応する勢力の存在が見えてくる。
〜国民皆健康保険制度への不安〜
保険とは一寸先が見えない将来に向けた助け合いの精神を形にしたものだ。
他方、人々の不安を金儲けの種にするものだという、悪意たっぷりの批判
もしばしば聞かれる。
現代人には不可欠のシステムであるにもかかわらず、普遍的な評価、論評
がきわめて難しい領域ではある。
アリコジャパンやアメリカンホームのロゴやキャラクターがテレビ画面や
新聞紙面を埋め尽くしていく過程で、この国の住人は、彼らが次々に繰り
出してくる新商品に縋りたくなる、縋らなくては生きていけない事情を抱
え込むことになった。
短期的にはアフラックの重松課長の話にあった医療費の自己負担率の上昇。
長期的には国民皆保険制度がいずれ解体されていくのではないかとの懸念。
前者について特段の説明は必要ないだろう。04年12月、首相の書門機関で
ある規制改革・民間開放推進会議(議長=宮内義彦・オリックス会長)と、
厚生労働省との調整の結果、事実上の解禁が進められることになった、
「混合診療」の仕組みが、後者の根拠になっている。
日本医師会のホームページに掲載されているQ&Aから一部を抜粋しよう。
やや長いが、実際、かなり複雑な内容なので容赦されたい。
《Q1 混合診療とは何ですか?》
A 日本の健康保険制度のでは、健康保険でみることが出来る診療(薬や
材料も含む)の範囲を限定しています。混合診療とは、健康保険の範
囲内の分は健康保険で賄い、範囲外の分を患者さん自身が費用を支払
うことで、費用が混合することをいうのです。
《Q2 いまは『混合診療』が認められていないのですか?》
A 日本では健康保険の医療に関する価格を厚生労働大臣が決めています。
そして、健康保険の範囲内の診療と範囲を超えた診療が同時に行われた
場合でも、平等な医療を提供するために、範囲外の診療に関する費用を
患者さんから徴収することを禁止しています。
もし、患者さんらか費用を別途徴収した場合は、その疾病に関する一連
の診療の費用は、初診に遡って「自由診療」として全額患者さん負担と
なるルールになっています。
《Q3 混合診療が認められれば、保険外の診療を行っても全額自費になら
なくて済むのではないでしょうか。その方が、患者さんにとっても
便利なのでは?》
A 一見、便利にみえますが、『混合診療』には、幾つかの重大な問題が隠
されています。例えば次のようなことです。
(1) 政府は、財政難を理由に、保険給付範囲を見直そうとしています。
混合診療を認めることによって、現在健康保険でみている療養までも、
「保険外」とする可能性があります。
(2) 混合診療が導入された場合、保険外の診療の費用は患者さんの負担と
なり、お金のある人とない人の間で、不公平が生じます。
《Q4 例えば保険で認められていない薬があって、例えば保険で認められ
ていない薬があってその薬が安全で有効なものなら、患者さんもお
医者さんも使えるように、混合診療として認めた方が良いのでは? 》
A もし、安全で有効なことが客観的に証明されている薬ならば、保険外で
はなく健康保険で使えるようにすれば、全ての患者さんが公平にその恩
恵を被ることが出来ます。つまり、時間をかけずに、速やかに保険で使
えるようなルールをつくれば済む事です
国の医療費で成立してきた職能団体の理解と主張である以上、多少、割り引
いて受け止める必要はある。とはいえ、混合診療には医療の不公平、更には
生命に格差を拡大していく危険性を伴うとする示唆は重大だ。
米国社会の現実が懸念を先取りしている。
かの超大国に国民皆保険制度は存在しない。
公的保険は高齢者と障害者のための『メディケア』と、
余程の低所得者しか加入出来ない『メディケイド』の二種類のみ。
米国にはそもそも、「メディケイド」の対象になるほどには貧しくないが、
といってそれなりの医療保険に保険料を支払えるほどの収入もない、つまり
何らの保険にも加入出来ない "無保険者" が、全人口の15%〜20%程度占め
らていると伝えられる。
まだしもある程度は家計に余裕のある、小泉政権が構想するこの国の将来像
を予想出来るだけの知識・教育レベルを有する世帯の主婦達から順に、溢れ
替える医療保険CMに反応している。
これぞ目下の日本列島で繰り広げられている光景なのではあるまいか。
〜『年次改革要望書』の狙い〜
「今は誰もが小泉首相の顔色をうかがっている状態ですね。
構造改革で "小さな政府" も結構だけれど、医療や社会保険の領域にまでそ
の考え方を持ち込むことが妥当かと言うと、それは違うと思うのですよ。
まるで共産党と同じような主張になってしまって、そこのところが本当に
困るのだけど」
日本医師会の桜井秀也副会長が苦笑していた。
その共産党の機関紙「しんぶん赤旗」(06年1月23日付)によると、
構造改革路線の中枢である「規制改革・民間開放推進会議」の事務局メンバー
の半数は民間大企業から出向者で占められ、彼らはしかも、出身企業の営利と
直接的に関係している分野を担当しているという。
04年の答申で混合診療の解禁を求める方向性を打ち出した「医療WG
(ワーキンググループ)」の幹事はオリックスから出た。グループ要員は
4人で、残る3人のうち2人が日本生命と三菱商事からの出向者だったとされる。
同じ04年には外資の対日直接投資を拡大すると言う触れ込みで01年から続け
られている交渉チャンネル「日米投資イニシアティブ」の報告書で、やはり
混合診療の解禁が要望されていた。どれもこれも偶然の一致であるはずもない。
昨年8月から9月にかけての解散総選挙で焦点になった郵政民営化も、
簡易保険を解体させて米国の保険資本の草刈り場としたアメリカ政府の
意志に基づくものだと伝えられている。
米国政府が過去10年以上に渡って日本政府に提出してきた
『年次改革要望書』には、その旨の記述が、
例年のように繰り返されてきた。
昨年8月31日夜に放映されたテレビ朝日系の報道ステーションで、奇妙な
出来事が発生していた。郵政民営化問題を巡って共産党の市田忠義書記長が
「民営化で喜ぶのは日本とアメリカの保険会社だけ」と発言。
直後に少し前まで自民党の右派と知られていた新党日本の小林興起・代表
代行が「アメリカ政府の要求だ」と話し始めた途端、古舘伊知郎キャスター
が彼の言葉を大声で遮り。「そんな愚の骨頂のような事を誰がやるの」と
安部晋三・自民党幹事長代理の意見を求めたのである。
ややあってテレビ画面に流れたのは案の定と
言うべきか、外資系保険会社のCMだった。
本稿の執筆に当たっては、『年次改革要望書』の背後に
いるとされる在日米国商工会議所に取材を拒否された。
また国内のいくつかの生保会社にも事実上の取材拒否を受けた。
事の重大性に照らして納得出来ないでいる。
お茶の間で評判の面白いCMの数々に、もしかしたら
私たちの生活は、とんでもないところまで連れ去られて
いくのではなかろうか・・・。
混合診療が解禁されれば、医療制度は抜本的に変わっていくと思われる。
カネ持ち専用の混合診療のみに対応した病院や、病院の対応も儲かる混合診療
の治療を望む患者と、健康保険での治療を望む患者に対する姿勢も当然変わっ
て行くと想像出来る。医療にまで格差を付けようとしているのである。
混合診療を推進するグループがオリックスの宮内義彦を筆頭とした保険会社の連中。
市場原理主義を信望し、対米追従が日本の国是とばかりに推進する売国奴である。
混合診療が解禁されれば、保険会社に需要が増え、収益が上がるのは間違いない
のだから自分たちの利益の為に日本国民からカネを吸い取ろうとしているわけだ。
医療ですら市場原理主義を持ち込む、世界一医療費の高い米国のような異常な
社会には絶対になって欲しくない。骨折で車の新車が買えるような途方もない
金額を請求される米国のような異常な社会にはとにかくならないで欲しい。
切実に心からそう願う。
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