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中国大公書紀行 その2
(2007年3月号 新潮45 鈴木譲仁・ジャーナリスト)
ー癌村の悲惨な現実ー
私は、車で移動しある村を探すことにした。実は香港の記者
から別の「癌村にの情報を入手していたのだ。その村ほ安徽省
のやはり淮何の支流沿いにあるらしい。
正確な場所は判らないが大体の場所は特定できる。しかもそこ
は彼が初めてその存在を知り、誰にも知られていない村である。
そこなら未だ公安の監視もないはずだ。
淮何に沿って安徹省へと向かう途中、私はいくつかの淮何の
汚染ポイントにも立ち寄った。本流もさることながらそこから
別れる支流近辺の汚染がより深刻な状況だ。
支流沿いに建つ中小の地元の化学工場や製紙工場などから排
出される規制をまったく無視した工業排水が、潅漑用水にも使
えないレベル(水質第五類)以下ヘとこの河を変えてしまって
いる。
その土淮河支流に排出された発癌他の高いカドミウムや水銀な
どの物質を含んだ汚水が地下水脈に流れ込んでいる。中国でも
貧しい安徹宵や河南宵の農村地帯では生活用水の主流はこの地
下水なのだ。
農地の汚染も深刻だ。「灌漑にも使えない」汚染木を使わざ
るを得ない、近隣の農地や土壌が汚染されるのは当然だろう。
中国国家環境保護総局は、全国の農地の10%以上、約12万3
千平方キロメートルが汚染されていると発表している。しかも
公式の数字で、だ。実際はその何倍もというのが実情だろう。
それによる経済損失は200億元(約3000億円)を超える
とも言われている。
もちろん政府も対応策は進めている。汚染のひどい河川や湖、
酸性雨地域などの800項目の環境改善プロジェクトに1888
億元の予算を計上している。
環境法も改正し環境保護総局の監視の下、環境アセスメント
制度、排出総量規制や排出口の登録違反企業への課徴金や操業
停止、閉鎖という措置もとっている。
確かに幾つかの工場が課徴金や操業停止処分を受けたりしてい
る。しかし一向に成果は上がっていない。安徹宵の目的地の村
へ向かう途中、沙穎河沿いで私たちは奇妙な工場に遭遇した。
道から少し奥まった所にあるその工場には看板もなにもない。
薄暗い中を覗くとどうやら製紙工場のようだ。裏側に回ると河
に向かった排水溝からはなにやら赤く染まった汚水水が勢いよ
く流れ出ている。
排水への浄化装置などは見当たらない。闇操業だ。近隣の住民
に聞くとこのような工場は多数あるという。また工業排水を昼
間は貯めておき、夜間に一気に排出するのも日常茶飯事らしい。
ある化学工場では、河から150メートル程の工場から地下に
直接パイプを通して河の中に排出する設備を備えていた。どれ
もこれも真剣に地元の環境局が検査すれば直ぐに判明しそうな
ものだ。
地区の環境保護局も黙認しているのだ。環境保護総局の環境規
制はもっとも汚染の酷い地力でまったく機能していないのだ。
その原因はいったいどこにあるのか。
安徽省阜陽市に一泊した翌日、我々は早朝から安徽省淮南市
田家庵区にある目的の村を探しに出かけた。判っているのはこ
の地区にある村、と言うことだけ。
何しろ田舎には詳しい地図すらない。
四苦ハ苦しながら足と勘を頼りに各村を探しているとき、ある
60歳前後の農民に出くわした。
「この辺の水質はどうですか」「この辺りで病人が多数出てい
る村を知りませんか」と訊き回っていたとき、突然大声で周り
の村人に向かって喋りだしたのだ。
「お前たち、何を調べているんだい。我々の不満を調査してる
のかい。こんな状態じゃ生きていけねえ。毛沢東が悪いんだ!
村の役人は税金ばっかり集めにやって来るけど何にも助けな
い。昔は批判したら直ぐつかまったけど今の時代は言っていい
んだ!俺はいくらでも言ってやるぞ!」
周りの人間もそうだそうだ、と言わんばかりの表情で彼の話
を聞いている。私たちは唖然とした。同時に、こんな田舎の農
村地帯で、この世代の人間がこれだけストレートに堂々と毛沢
東や政府の批判を言う、という現実が俄かに信じられなかった
のだ。
近年、中国内陸部の農村地帯では地元農民と村民委員会など
との争いが頻繁に勃発している。中国国内ではほとんど報道さ
れない「械斗」と呼ばれるこれらの暴動は年々激しくなり死者
も多数出ているようだ。解放軍が投入されたケースも多い。
それは都市部と農村部との「広がる経済格差」という単純な図
式だけでは解明できない、複雑な農民への「抑圧構造」に対す
る怒りが危険水域に達している事実を示しているのだ。
彼らは決して貧しさ」への不満だけを爆発させているのではな
い。積年の政府からの「不条理という名の足かせ」に耐え切れ
ず憤怒の炎を燃やしだしたのだ。これは中国政府が抱える
「時限爆弾」として各地に広がっている。
その炎の一端を目の当りにした私は足早にその場を離れた。
中国の田舎の「すぐ隣」という距離は下手をすると日本の鉄
道一駅分ぐらいに相当する。我々は歩き疲れながらも必死に探
しまわった。そして、ある汚染状態の激しい淮河の支流に出く
わした。
河は灰色に濁り、あちこちに豚や犬の死骸が浮いている。河の
水を飲んだ家畜が死んでそのまま放置されているのだ。河の近
辺のある村に入ると壁にペンキでやたらと「打井****」と
電話番号が書いてあるのが眼に留まった。
今までの村にはない「井戸掘り業者」の電話番号だ。井戸水が
飲めなくなり新しい井戸を掘るためだ。ここに違いない、私は
そんな予感がした。
私は、近くの家に入って単刀直入に訊いてみた。主入とおも
われる男性が食事中だったのか茶碗をもって出てきた。しばら
くじっと私を見つめ、「政府の役人ではないな」と信用したの
か、私に向かって一気に不満をぶつけ始めた。
「教えてやるよ。ここの水は苦くて飲めない。沸かすと白い垢
のような物がいっぱい出る。変なものが混じってるから炊いた
米もまずい!でもここの水はそれ以外ないんだ。沸かして飲む
しかない。いったいどうなってるんだ!」
こう一方的に話すと「どこからでてるか見せてやるから付いて
きな」と即座に、その井戸へ案内してくれた。そう、ここが探
していた「林王村」だ。
主人の後について50メートル程歩くと隣の家に入った。「いる
かい!」と大声で主を呼び出した。痩せたここの家主も食事中
で汚れた茶碗を片手屹現れた。
彼はぐっと我々を睨んで吐き出すように話し出した。
「数年前、近くに化学工場ができてから井戸水がおかしくなっ
た。沸かすとやかんの底に変な泥が溜まる。お湯をコップで透
かしてもみえるぞ。
病人もどんどん出て死んだやつも沢山いる。癌さ。胃癌や食道
癌やなんでもさ。俺も半分寝たきりだ。でも病院へも行けない。
村の役人にいっても何もしない。最近、漸く水を配り始めたが
金で俺達が買うんだ。しかも週に1、2回持って来るだけ。まっ
たくふざけてる!」
我々は実際に井戸の水を沸かしてみた。確かに白みがかった
沈穀物がべっとりとへばり付いている。お湯をコップに入れて
透かしても何やら白い粉が浮遊している。
恐る恐る少し飲むとこれは酷い昧だ。思わず吐き出した。する
と突然、「あんたら誰か知らんけど、村の役人に逢わしてやる。
わしらはこんな状態じゃ生きていけない。奴らと話してくれ」
と言い残し役人を呼びに行ってしまった。
本来なら村民委員会の役人とも逢って、彼らの言い分も聴き
たいところだ。
しかしここは「不条理」がま加り通っている場所だ。黄孟営村
の件もあり、その結果は見えている。せっかく見つけ出した場
所でもっと詳しく調べたいが危険だ。
急いでその井戸水を容器に入れて我々はその場を離れること
にした。(続く)
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中国の農村部では癌村以外にも悲惨な現実がある。
貧しさゆえの売血によるHIV感染がそれだ。採血方法は、日本の献血でも
行われている「成分献血」と基本的に同じ。血液を遠心分離機で血漿と、
赤血球に分離し、提供者の身体に赤血球を戻す方法。何が問題なのか?
採血が済んだ何人分かの袋詰めの血液は12枚の受け皿を持つ遠心分離機に
かけられる。このときに、一枚の受け皿には2つの袋が置かれるが、大概は
破けて受け皿の中で血が混ざり合う状態になるという。処理が終われば、
他人の血と混ざり合った赤血球が提供者に戻されていくのだという。
河南省では売血希望者から800CCの血液を採り、ほぼ赤血球を還元した上
で40元から50元(約600〜750円)が手に入る。中国の農民は一年間田畑
でまじめに働いて手にする現金収入が3万円ほどの農民にとっては、この現
金収入が魅力的であったのだ。
このようなデタラメで不衛生極まりない方法で農民にHIV感染を引き起こし
た責任者は当然のごとく中国では追及されることはない。中国政府は部分
的には存在は認めているというが、被害者への明確な保障や責任者への処
分は完全に棚上げしたままである。
自由主義国ではメディアやジャーナリストが追及するのだが、そんな当然
の事すら行われないのが、中国共産党が統治する中華人民共和国の現実な
のである。
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数年前に化学工場が出来てからこれほどまでのに影響が出ているのなら、癌どころか有毒な重金属や化学物質の中毒死も当然ありますネ・・工場の汚染排水を訴える人も、健康被害を告発する医師もジャーナリストもみ〜〜んな逮捕・拘束されて口封じされたり行方不明となったり・・このような国家が常任理事国やオリンピック開催国である資格はありませんッ\(*`ε´*)/こうもり
2007/2/28(水) 午前 1:01
こうもり様、そう間違いなく癌以外にも様々な弊害を病気をもたらしていることでしょう。無茶苦茶も甚だしい!こんなデタラメな国家が安保理決議をもつ国なんて許せない。オリンピック・万博など開く資格などなどあるわけはありません(" ̄д ̄)けっ!
2007/2/28(水) 午前 1:53
読んでるだけで気持ちが悪くなる感じです。(;´◎`A`` 国家は国民が構成しています。当たり前ですけど。結局国民の生命がないがしろにされている国家は時間がどのくらいかかるかは別にして、必ず転覆することは間違いないでしょう。ポチリ!
2007/2/28(水) 午前 2:21
れおん様、さすがの私ですら同情してしまいました(T_T)。社会主義市場経済という歪な状況で様々な弊害が天こ盛りな中国は、近い将来必ずや崩壊への道筋が浮き彫りになってくると信じております。
2007/3/1(木) 午前 0:11