|
【正論】評論家・西尾幹二 慰安婦問題謝罪は安倍政権に致命傷
(産経新聞 2007/04/27)
≪そらされている熱い感情≫
私は冗談のつもりではなかった。
けれども人は冗談と取った。話はこうである。
月刊誌「WiLL」編集部の人に2カ月ほど前、
私は加藤紘一氏か山崎拓氏か、せめて福田康夫氏か
が内閣総理大臣だったらよかったのに、と言ったら
「先生冗談でしょ」と相手にされなかった。
今までの私の考え方からすればあり得ない話と
思われたからだが、私は本気だった。
安倍晋三氏は村山談話、河野談話を踏襲し、東京裁判
での祖父の戦争責任を謝り、自らの靖国参拝をはぐらかし、
核と拉致で米国にはしごをはずされたのにブッシュ大統領
に抗議の声ひとつ上げられず、皇室問題も忘れたみたいで、
中国とは事前密約ができていたような見えすいた大芝居が
打たれている。
これらが加藤、山崎、福田3氏の誰かがやったのであれば、
日本国内の保守の声は一つにまとまり、非難の大合唱とな
ったであろう。
3氏のようなリベラル派が保守の感情を抑えにかかれば
かえって火がつく。国家主義者の仮面を被った人であった
からこそ、ここ10年高まってきた日本のナショナリズム
の感情を押し殺せた。
安倍氏が総理の座についてからまぎれもなく歴史教科書
慰安婦、南京)、靖国、拉致の問題で集中した熱い感情は
足踏みし、そらされている。安倍氏の登場が保守つぶしの
巧妙な目くらましとなっているからである。
≪「保守の星」安倍氏の誤算≫
米中握手の時代に入り、資本の論理が優先し、
何者かが背後で日本の政治を操っているのではないか。
首相になる前の靖国4月参拝も、なってからの河野談話の
踏襲も、米中両国の顔色を見た計画的行動で、迂闊でも失言
でもない。
しかるに保守言論界から明確な批判の声は上がらなかった。
「保守の星」安倍氏であるがゆえに、期待が裏切られても
「7月参院選が過ぎれば本格政権になる」「今は臥薪嘗胆
(がしんしょうたん)だ」といい、米議会でのホンダ議員
による慰安婦謝罪決議案が出て、安倍氏が迷走し、取り返
しのつかない失態を演じているのに
「次の人がいない」「官邸のスタッフが無能なせいだ」と
かわいい坊やを守るようにひたすら庇(かば)うのも、
ブレーンと称する保守言論界が政権べったりで、言論人
として精神が独立していないからである。
考えてもみてほしい。首相の開口一番の河野談話踏襲は
得意の計画発言だったが、国内はだませても、中国サイド
はしっかり見ていて安倍組やすしと判断し、米議会利用の
ホンダ決議案へとつながった。安倍氏の誤算である。
しかも米国マスコミに火がついての追撃は誤算を超えて、
国難ですらある。
最初に首相のなすべきは「日本軍が20万人の女性に性
奴隷を強要した事実はない」と明確に、後からつけ入れら
れる余地のない言葉で宣言し、河野衆議院議長更迭へ動き
出すことであった。
しかるに「狭義の強制と広義の強制の区別」というような、
再び国内向けにしか通じない用語を用い、「米議会で決議が
なされても謝罪はしない」などと強がったかと思うと、翌日
には「謝罪」の意を表明するなど、オドオド右顧左眄(さべん)
する姿勢は国民としては見るに耐えられなかった。
そしてついに訪米前の4月21日に米誌「ニューズウィーク」
のインタビューに答えて、首相は河野談話よりむしろはっきり
軍の関与を含め日本に強制した責任があった、と後戻りできな
い謝罪発言まで公言した。
≪通じない「事なかれ主義」≫
とりあえず頭を下げておけば何とかなるという日本的な事な
かれ主義はもう国際社会で通らないことをこの「保守の星」が
知らなかったというのだろうか。
総理公認であるからには、今後、元慰安婦の賠償訴訟、過去の
レイプ・センターの犯人訴追を求める狂気じみた国連のマクド
ゥーガル報告(1998年8月採択)に対しても反論できなく
なっただけでなく、首相退陣後にもとてつもない災難がこの国
に降りかかるであろう。
米国は核と拉致で手のひらを返した。
6カ国協議は北朝鮮の勝利である。米中もまんざらではない。
彼らの次の狙いは日本の永久非核化である。
米国への一層の隷属である。
経済、司法、教育の米国化は着々と進み、
小泉政権以来、加速されている。
安倍内閣は皇室を危うくした小泉内閣の直系である。
自民党は真の保守政党ではすでにない。
私は安倍政権で憲法改正をやってもらいたくない。
不安だからである。
保守の本当の声を結集できる胆力を持った首相の出現を待つ。
___________________________________
〜安倍政権の誤算〜
本格的、保守政権の誕生と喜んだのも束の間、全く予想外の展開だった。
河野談話、村山談話を継承し、祖父の岸信介の戦争責任を認め、米国下院で
持ち上がった従軍慰安婦問題の謝罪決議案も後手後手にまわり、謝罪にまで
陥る始末。
従軍慰安婦問題の真実を知っている人なら問題ないが、真実を知らない人が
「安倍首相、慰安婦問題で謝罪」などとサーチエンジンのトップぺージで表
示されてしまう状況では非常に拙い事態に陥ってしまう。
普通の感覚で言えば、事実なのだと旧日本軍悪玉説が流布してしまう恐れが
高いだろう。
〜配慮し過ぎの人事〜
更に、人事の起用も不可解であり、問題が多い。思想信条の180度異なる、
人権擁護法案推進派の中川秀直を世話になったとは言え幹事長に抜擢した。
その幹事長に復党を任せた御陰で、思想信条の近いとされた平沼赳夫氏の
復党を不意にしてしまった。
都知事の息子というだけで政治家としては機能不全の石原伸晃を幹事長代理
に抜擢、政策が近いとされる塩崎恭久を官邸NO2の官房長官に起用した。
経産相の甘利明、防衛大臣の久間章生、内閣匿名担当大臣の太田弘子など
保守ではない連中ばかりである。
政調会長、外相、官房副長官、補佐官など保守政治家も起用しているが、
左右に配慮した無難な人事に、お友達内閣だと揶揄されるのも当然であろう。
〜小泉改革を踏襲〜
米国政府が毎年、日本政府に突き付ける「年次改革要望書」に基づき、
小泉新自由主義内閣では米国流の市場原理主義改革が実行された。
本格的保守政権であると思われた安倍政権では、「年次改革要望書」に反発
してる保守層からも軌道修正が注目されたが、現実はそうはならないようだ。
経済・司法・教育、以外でも医療・金融・株式市場など多岐に渡る。
ちなみにホワイトカラーエグゼンプションも米国政府の要求である。
これからも止まることなく、市場原理主義改悪が突き進んでいく事だろう。
郵政民営化法案で反対の意思を貫いた、平沼赳夫氏のような国益擁護派の
保守政治家が日本には必要である。復権を望みたい。
|