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1年間の宇宙生活で染色体に異変、双子で実験、最新研究

4/16() 7:12配信 ナショナル ジオグラフィック日本版

 

宇宙飛行士のスコット・ケリー氏(右)と、双子の兄弟で元宇宙飛行士のマーク・ケリー氏。スコット氏が国際宇宙ステーション(ISS)に1年滞在するミッションを前にしたメディアイベントで。(PHOTO:ROBERT MARKOWITZ, NASA)

 

ISS滞在で人体に起きた変化を双子の兄弟と比べた、認知力にも変化

 宇宙で暮らしたら人体に何が起きるのかを知るのは、簡単ではない。その人物が地上にいたらどうなっていたかがわからないからだ。だが、双子の兄弟が地上で普通の暮らしを送っていたらどうだろう? そんな研究の成果が、412日付け学術誌「サイエンス」に掲載された。


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 医学の分野では双子の研究が盛んに行われている。身体的にも遺伝的にもほぼ完全に一致しており、環境の変化に人がどう反応するか比較対照する理想的な条件が備わっている。

 

 だから、米国の宇宙飛行士スコット・ケリー氏が、一卵性双生児の兄弟であるマーク氏と共に、宇宙飛行の影響を調べる実験の被験者になろうと提案すると、NASAは喜んでこれに応じた。

 

 こうして、他に類を見ない研究が計画された。スコット氏が国際宇宙ステーション(ISS)へ行き、1年間、微小重力の条件下で宇宙飛行士として働き、生活する。一方、地球ではマーク氏が、自由で典型的な民間人として働き、生活する。

 

 この実験は、2015327日から201632日まで行われた。この1年間の前、期間中、そして後まで、多くの分野の科学者チームが、分子、生理学、行動の点から2人を継続的に調査。その成果をまとめた今回の論文は、月や火星、さらにはその先へと人類が向かう際に役立つ情報となるかもしれない。

 

 宇宙滞在で、本当にスコット・ケリー氏に長期的な変化が起こったのか? 私たち人間が地球を離れて長く生活すると、どのような運命が待っているのだろうか? わかったことを見てみよう。

 

宇宙での1年間で、スコット氏の体はどうなったのか?

 ISSにいる間、スコット氏の全般的な健康状態はずっと良好だった。だが、彼とマーク氏を比べた科学者たちは、いくつか小さな変化が起きていることに気づいた。

 

 変化の1つは、染色体の末端を保護するテロメア(末端小粒)に見られた。論文の共著者で、米コロラド州立大学の医療研究者スーザン・ベイリー氏は、こうした遺伝物質は、加齢や潜在的な健康リスクを示す指標だと話す。ISSに滞在中、スコット氏のテロメアは長くなった。だが、それによる影響はあるのか、あるとすれば何か、現時点で知ることは難しい。

 

 加えて、スコット氏の染色体の一部で逆位や転座が起こったり、DNAが損傷しているといった異常、そして遺伝子発現の変化も見つかった。遺伝子への影響以外にも、網膜と頸動脈の厚さの変化も見られた。さらに、スコット氏の腸の微生物叢(マイクロバイオーム)も、地球にいるマーク氏とは違うものになっていた。

 

地球に帰還して、すべて元に戻ったのか?

 すべてとは言えない。スコット氏の遺伝子の90%以上が正常な発現レベルに戻ったが、小さな変化の中には元に戻らないものもあった。そして、長くなったテロメアの大部分は帰還して間もなく通常の長さに戻ったが、一部は出発前よりもかなり短くなった。この現象は、ほかの宇宙飛行士たちでさらに研究すべきかもしれないと、ベイリー氏は述べている。テロメアの短さは、認知症や心血管疾患、一部のがんに加えて「生殖能力の低下と関連が指摘されているため」とのことだ。

 

 とはいえ、これはまだ何かを証明したわけではないと注意を促すのは、ノーベル賞を受賞した分子生物学者、キャロル・グライダー氏だ。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。「地球上での双子のテロメアの長さの相関関係や変動はわかっていません」と、グライダー氏はEメールでコメントした。「ですから、これから何が分かるかは予想がつきません」

 

 ベイリー氏によると、一部の染色体の逆位も長く続いたという。「このことは、がんの発症リスクを高める可能性があるゲノム不安定性の一因になるかもしれません」。また、地球帰還から数カ月後、スコット氏の認知能力が下がったままであることもわかった。

 

「悪化はしませんでしたが、良くなることもありませんでした」。論文の共著者で、米ペンシルベニア大学睡眠・精神科のマサイアス・バスナー氏はこう話す。

 

宇宙にいると病気になりやすくなり、認知能力が低下するということ?

 決してそうではない。そもそも、この研究にはサンプル数が極めて小さいという欠点があることは、研究チームの全員が強調している。

 

「大きな注意点は、サンプル数が1の研究にすぎないということです」とバスナー氏。スコット氏の体に出た影響が、彼の生理機能に特有のものか、同様の条件下に置かれた人の大部分に共通するのか、それを正確に知るためには、さらに多くの人を対象に研究しなければならない。

 

「長く続いた変化はどれも非常に小さいものです。それが宇宙飛行のせいなのか、正常な変化なのか判断するには、ほかの宇宙飛行士たちで再現される必要があります」。論文の共著者で、米ジョンズ・ホプキンス大学のアンディ・ファインバーグ氏はこう話している。

 

今回の研究の限界は?

 この研究は、長期の宇宙滞在で起こりうるリスクを垣間見せてくれるものの、宇宙飛行士が火星ミッションをどうこなしていくべきかという点についてはあまり教えてくれない。その理由の一つは、ISSが地球の低軌道上にあるためだ。そこはまだ地球の磁場に包まれていて、最も有害な宇宙線から守られている。

 

 もう一つの課題は、サンプルの輸送だ。研究には新鮮な血液サンプルが必要だったため、スコット氏は宇宙にいる間、定期の補給物資がISSに到着する日に採血をしなければならなかった。血液は地球に戻る補給船に積まれてロシアに送られ、地球上のさまざまな研究機関に速やかに届けられた。

 

 各サンプルの量がわずかで、研究の範囲が限定されたことも課題だとファインバーグ氏は話す。「スコット氏から採取することを認められた血液の量は、入院中の子どもから採血してよい量よりも少ないものでした。理由は物流面や、スコット氏自身の安全などです」

 

宇宙旅行の本当のリスクを知るには何が必要か?

 長期の宇宙飛行が人体に与える影響をさらに解き明かすため、NASAは地上での研究に加え、1年にわたるISSでのミッションを計画している。月面やさらに遠い宇宙など、低軌道よりも遠くで働く宇宙飛行士が、こうした今後の研究に参加するのが理想だろう。また研究チームは、ミッション中に自分のDNAを処理する能力と技術を、将来の宇宙飛行士に身につけさせることができればと考えている。

 

 そして、そんな将来の宇宙飛行士の中にたまたま双子がいても問題はない。

 

文=Catherine Zuckerman/訳=高野夏美

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