山梨県 武田勝頼公資料室

武田勝頼公は悲惨な最期を遂げた 武田滅亡の軌跡

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【勝頼夫人の願文 穴山の裏切り】史跡を尋ねて『武田勝頼公は生きている』より 著者 平山三郎氏(大和村田野出身)
 天正十一年二月三日には織田・徳川の両軍は、北条軍まで含めた二十五万の連合軍をつくり、甲斐の国を攻略する行動を開始したという情報が流れてきた。
 新府城で戦況を案じながら毎日を過ごしていた勝頼公の夫人は、実の兄である北条氏政までが敵の連合軍に加わり、上州(群馬)口から進撃していることを聞いて沈痛の気持ちを押えようもなく、何かに頼らなければ一時も過ごせない気持ちで一ぱいであった。
そこで二月十九日の辰(たつ)の刻(午前八時)ころ、勝頼夫人は、武田家に輿入れするとき相模の小田原城から付け人として付き添ってきた、剣持但馬守を呼んで、「但馬、城内からも遥かに見える武田家の守護神、武田八幡宮へ祈願に行くから、供をするように」と命じた。これを聞いた但馬守は、「戦況不利が伝えられている折に夫人が城外に出られることは御身の上を案じられます。が、しかしこれによって武田の武運が開けるのならぜひないことと存じます」と言って直ちに祈願の準備にかかった。
 夫人は人目に付かぬようにお忍びで城を出た。但馬守たちは夫人が乗っている輿の周りを厳重に警戒しながらお供をして行った。武田八幡宮は、武田武大神(武田王)を祀る武田家始祖以来の産土神で、新府城からおよそ二キロのところにある。
 この宮は、平安時代に宇佐八幡宮をここに移したもので、新羅三郎義光の孫黒源太清光の嫡男の源信義がこれを祀り、武田家累代の守護神と定めた。したがって信玄は天文十年(一五四一)に本殿を再建して神域を整え、ますます信仰を深めていた。夫人は数多い種類の常緑木で覆われている社前に輿を下ろして神域に入った。
 独りで鳥居をくぐり、神楽殿・拝殿・本殿まで続く一五五段もある急傾斜で長い石段を誰の手も借りることなく一気に登り詰めて本殿の中に進んだ。神前に額いた夫人は、しばらくの間深々と頭を下げて拝礼してから、悲願を込めてしたためた願文を、奉書袋から取り出して紳々とはしているが、透きとおるような声で読み進めた。
 
    「願文」
敬って申す祈願のこと。
 この国の木主として、武田太郎と号せしよりこの方代々護り給う。ここに不慮の逆臣出できたって国家を悩ます。よって勝頼、運を天にまかせ、命を軽んじて敵陣に向う。しかりといえども、士卒利を得ざる間、その心まちまちたり。何ぞ木曽義昌神慮を空しうして哀れ父母をすて奇兵を起こす。これ自ら母を害するなり。勝頼累代の重恩をうけし輩(ともがら)逆臣と心を合わせて国をくつがえさんとす。万民の悩乱、仏法の妨げならずや。そもそも勝頼いかでか悪心あらん。我れも、ここにして相共に悲しむ、涙またとめどなし。神慮天明まことあらば、罪悪人のたぐい、かりそめにも加護あらじ。神慮まことあらば運命このときに至るも、願わくば伶(れい)人力を合わせて勝つことを勝頼一指につけしめ給い、仇を四方に退けん。
右の大願成就ならば、勝頼我れとともに社殿磨きたて廻廊建立のこと、敬って申す。
  天正十年二月十九日                   源勝煩うち
 
願文は、切々として胸を抉(えぐ)り、夫人は奏上を終えるまでに、幾度か絶句して神床にひれ伏した。
 今に通るその願文はやるせ無い心情がひしひしと寵っており、筆を運ぶ折に落とした涙で幾個所か字が惨(にじ)んでいるのを見るにつけても、夫人がいかに甲斐の国を思い武田家の運命を案じたか察するに余りあるものを覚えるのである。
 祈願をして城に帰った夫人は、少しは心が落ちついたけれども、諏訪城に行っている勝頼公の安否が気遣われてならず、いっそ夫の元に馳せ参じて、せめて身の周りのお世話をしてあげようかとも考えてみたが、この際それは許されないことだろうと思って、口にも出せず毎日ひたすら法華経を念じて夫の武運を祈るばかりであった。
 そのうちに頼みとしていた信濃の城は次々に落ちてしまい、掛け替えない血族の者や日ごろの忠臣といわれている者までも離反していく悲報が続いた。勝頼公は諏訪城にいて戦況が慌しいながらも機を窺(うかが)って塩尻峠に布陣し、武田の運命を賭けようと計画を練っていたが、命の綱とも思って甲斐の国の留守を頼んでおいた叔父の穴山信君(梅雪)が、二月二十五日に古府中の館を出て駿河(静岡)へ逃げてしまったことを二月二十七日になって飛脚が伝えてきたことから、これを聞いた勝頼公ほもう施すすべもなく翌二十八日に諏訪城を発って急ぎ新府城に帰ってきた。思わぬ結果に城内は落ち付かず慌しい雰囲気に包まれていた。

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