小話(気のきく男)
たいへん気のきく家来がおりました。
殿さまは、大そうのお気に入りで、客がくるたびに自慢しております。
「気がつくこと、気がつくこと。朝、起きるとな、すでに洗面の用意ができている。
顔を洗っている間に、茶を汲んできてくれる。たばこをすいたいとおもえば、
目の前に、たばこが出てくる。手紙を書こうかなと思うと、スズリと紙が、すーっと出る。
いやはや、これほど、気がきく男はないわい」
ところが、ある日のこと。
朝起きる前から、殿さまは、どうも気分がすぐれません。
どこか、体が悪いようです。
「はてさて、このような大事なときに、あの男はどこへ行ったのであろう」
と、いっているうちに、帰ってきました。
「これ、そちは、朝からどこへ行っていたのだ」
「はい、夕べからお顔の色が悪くみえましたので、医者を呼びにいってきました」
「おう、よく気がついたぞ。さすがじゃ」
それから殿さまは、四、五日医者の薬を飲んでおりましたが、病気は、一向によくなりません。
「今日はひどく気分が悪い。あの男はいったいどこへ行ったのか」
と、いっているうちに、男が帰ってきたようすです。
「これ、そちはどこへ行っていたのだ」
「はい、昨日から病がだいぶ重そうなので、お寺に行き、葬式の準備をして参りました」
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