|
2
修羅は不機嫌だ。いったい何が気に入らないというのだろう。仏頂面で私を無視し、そそくさと歩く。
「はやいよー、修羅」
「ったく不愉快だ」
「不愉快って、なにが不愉快なんだよ、修羅」
「おまえの存在そのもの」
ぐさっ。酷い。サディスト。
だいたい仏の優香様に、その言葉はないんじゃないですか、修羅。かわいい顔して、口調が悪魔。これで単なるツンデレなら、かわいげもあるものだが、根っからの悪魔。長年、付き合ってる私に、こんな悪態を平気でいえるほどの悪魔だ。
「仏、仏ね。優香、きみは“知らぬが仏”という諺をしってるのか?」
知らぬが仏というなら、悪態も表だって私につかないで欲しい。
「さっきの行動が気に食わなかったの?」
「いいや、優香のおバカさんぶりはいまにはじまったことではない。想定されていた行動だ」
おバカさんときたか。いいですよー、どうせ私はあほの子ですよー。
「優香が止める前に、あの少女を殺すべきだったんだ」
「へっ?」
「優香があの少女の死を食い止める前に、殺すべきだったんだ」
なっ。
「ちょっと修羅マジでいってんの。ファミレスにいっしょに行かなかったからふくれるのはわかるけど…」
まったく、どこまでも、ひねくれている。ファミレスに行かなかったら、少女は助からなかった。私がそういう弁護をすると思ったから、そういう言い方になるんだろうけど、それにしたって、言っていいことと悪いことがある。
電車が近付くなか、踏切を乗り越え、線路で立ち止った彼女を助けた。その行為自体に異議を申し立てることなんて、けっして許されないことなのだ。
「優香の能力には感心する。おまえの記憶のなかでは、部屋の中に閉じ込められた少女ではなくなっているわけだ」
「えっ」
「いいや、なんでもないさ。おまえがどう思っているかはわかる。人の生死にかかわることについて、何てことをいうんだってね。でもな、あいつは人じゃない。悪霊に取り憑かれた人形を……」
ほんとうに仏の顔も三度までだ。
「悪霊とか、そんな魑魅魍魎な話題は知りもしないけど。あきれた。修羅、ふざけんな。あんた、そんな感じで付き合ってたら、友達なくすよ」
「友達になってくれなんて、誰にも頼んだ覚えはない。おまえに対しても」
そんなにいうなら……。
「勝手にしてればいいじゃない」
「勝手にしてるさ。だから追いかけてきてみたり、腹を立てたりするのもやめてほしい。友達なんて欲しくもなければ作りたくもない。そもそもオレの親友は3日前に死んだんだ。おまえに何を話そうが理解されないだろうがな」
「修羅に親友なんて。誰もいないじゃない。5歳の頃から付き合ってるけど、変わり者の修羅を相手にしてくれる人なんて、私くらいしかいないし……」
修羅は私の怒り声に反応せず、歩を早め、遠ざかっていった。しゅたしゅたしゅたと。とぼとぼとぼと。
実際に、そんな音などするわけないのに、私の耳にはそんな擬音が確実に届いていた。
|