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「優香さん、雅(みやび)さまがいらっしゃったので、お部屋にお通ししておきました」
なんだか、疲れる。1つ嫌なことがあると続くとはこのことか。修羅と喧嘩し、家に戻ってみたら、今度は雅(みやび)が来ているのだという。
雅にはなんの罪もない。しかし、姉がいるというのに、なぜ、私なのだ。家の都合で、無理やり許嫁だなんて。後継者なら姉で十分ではないか。
部屋に入ると隅っこの方に申し訳なさそうに座っている雅の姿がみえる。女らしい名前にふさわしく、背丈が低く、柔和な面立ちをした少年。そんなに申し訳なく思っているのなら、来なければいいと思うのだが、私と雅の両親に言いくるめられ、そうもいかないらしい。これで、向こうも私のことを好きじゃなければ、なんとかなるのだが。
「女の子の部屋に勝手に入ってくるなんて随分じゃない」
仏の優香さまも、あほの子も撤回。ここは強めの態度を取らねば。しかし、どうやら、そうした態度は逆効果だったらしい。
「あの…えと、えと、ごめんなさい」
あたふた、あたふた、あたふた。そんな擬音が聞こえるかのように、雅は申し訳なそうに小声で謝りつつ、手足をばたつかさ、立つことができないでいる。
「…………」
うーん仕方ない。待つか。私もそこまで鬼じゃない。1秒、2秒、3秒、4秒。さー落ち着いたでしょ、怖くないわよ。取って食うわけじゃないんだから。今度こそ立って。
「…………」
しかし、いくら待てども雅は立たない。なぜなら身体が緊張して、固まっているからだ。固まるな。動け。
「私は着替えたいの」
ホント、型にはまったような臆病者だ。さぞかし、学校ではいじめられてるんだろう。それで下手に美形だから、女の子に助けられるタイプだ。『あーあー、雅おんなに助けられてやんのー』とでもいわれているんだろう。それで助けた女生徒は、『●●は雅のことが好きなんだ』とでも囃したてられでもしてんだろう。目に浮かぶようだ。まったく、私じゃなくて、その救出した女生徒でも好きになりゃいいのに…………。いるんだろう、そういう女性がさ。
「優香さん」
だから私じゃなくて。
「僕を助けてくれたのは優香さん」
…………私だった。
確かに、いじめから救出したのは私だった。だから具体的に想像できるんだ。
だけど雅くん。それは中学時代の話だ。あのときはクラスがたまたま一緒で、弱い者いじめが嫌いな私が助けていただけだ。高校時代のきみにはほかに…。
「いないよ」
なんでさ。
「進学校だから、とくにいじめもない」
そういえば頭は優秀でしたね。それにしても、私の考えにいちいち答えてくるが、あんたは超能力者なんですか。
「だって口に出していってるから」
そういうことはいえよ。というか、気弱なくせに、的確なツッコミで返してくるなよ。
「とりあえず雅くん。私はあなたのことが嫌いじゃないけど、ほかに好きな人がいる」
「健一くんのことが好きなのは知ってる」
「そう、修羅健一。中学がいっしょだから雅も知ってるでしょ、2人はアツアツの関係なんだ。雅くんが入る隙間なんて、コンマ1ミリも残ってない」
「でも健一くんは迷惑してるって」
「迷惑なんてしてるわけないでしょ」
「本人が僕にいってたから。早く、優香をおれから引き剥がしてくれって」
気弱なくせに、どうしてそんな酷いことをずかずかといえるんだ。それじゃー私はいままで修羅のストーカーだったとでもいうつもりなのか。
「いや、ストーカーとまでは」
「ほんっと、あんたって奴は。このこのこのー」
こうなったらDV女、ここにあり。殴る、蹴るの暴行はさすがに気がひけたから、後ろからはがいじめにして、こちょこちょとしてやる。
「あなたはいま、即刻、ここを立ち去るべきなの。雅くん、わかった? わかるまで、こちょこちょし続けるぞ。私はしつこいんだ」
はて、これってもしやスキンシップ。男の雅に刺激がすぎたか。と思ったときは、時すでに遅し。
キーン、そんな不協和音が聞こえてきたかと思うと、とてつもない、振動を胃の中に感じた。なによ、これ、凄く気持ち悪いんだけど。
私の“こころ”の中に、とてつもない奔流がなだれ込む。雅の力が発動したと気づいたのは随分、あとのことだった。
※天災は忘れた頃にやってくる。不人気企画の創作小説ですが、とりあえず書き続けてます。20万PV突破時には完結したいと思ってます。
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