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時論公論 「悪質運転なくす法整備を」2013年03月21日 (木)

渥美 哲 解説委員
悪質な運転で交通事故を起こした場合の罰則を定めた法律が、大きく変わろうとしています。先週(15日)、法制審議会が答申した内容を受けて、法務省は、飲酒運転や無免許運転など、悪質な運転による事故の罰則を強化することなどを盛り込んだ法律の改正案を、今の国会に提出することにしています。
今夜は、どのような法改正が行われようとしているのか、悪質な運転による事故をなくすために何が求められているのかを考えます。
 
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/image/saved/2013/04/j130322_00mado-thumb-350x196-325153.jpg
まず、交通事故で人を死傷させた場合、今の法律の規定がどうなっているのかをみてみます。
平成13年に新設された危険運転致死傷罪と、平成19年に作られた自動車運転過失致死傷罪のどちらかが適用されます。
危険運転致死傷罪は、「危険な運転行為」を故意に行って人を死傷させた場合に適用され、刑の上限は懲役20年です。自動車運転過失致死傷罪は、過失、つまり注意を怠って起こした事故に適用され、刑の上限は懲役7年です。
ところが、危険運転致死傷罪は適用されるケースがきわめて少なく、遺族や被害者にとって、いわば高い壁があります。
おととし、交通事故で人を死傷させたとして起訴された6万人余りのうち、危険運転致死傷罪で起訴されたのは、0.35パーセントにとどまっています。
なぜ壁が高いのか。刑法に定められている「危険な運転行為」の要件がきわめて限られているからです。
酒や薬物の影響で、正常な運転が困難な状態で車を走行させて人を死傷させた場合や、車の進行を制御する技能を持たずに走行させていた場合など、5つの類型に限定されています。
たとえば、去年、京都府亀岡市で、無免許で運転していた少年の車が小学生らの列に突っ込み、10人が死傷した事故がありました。少年は、繰り返し無免許運転をしていて、事故当日も友人らと二日間にわたって運転を続け、居眠りをして事故を起こしました。
この事故でも、無免許であっても、長時間、運転ができていて、「車の進行を制御する技能は持っていた」として、危険運転致死傷罪は適用されませんでした。
また、おととし名古屋市で、無免許で、酒を飲んで運転していた男が、一方通行を逆走して、自転車の男性をはねて死亡させ、そのまま逃げるという事件がありました。
このケースでも、酒は飲んでいてもまっすぐ走行していて、「正常な運転が困難ではなかった」、また無免許でも「車の進行を制御する技能は持っていた」として、危険運転致死罪は適用されませんでした。
亀岡市や名古屋市の事故の遺族などは、「無免許運転を繰り返していたために運転技能をもったもので、より悪質なのに危険運転致死傷罪が適用されず、逆に刑罰が軽くなるのは矛盾している」と訴えています。
また、名古屋市の事故の遺族は、「無免許運転を繰り返した上、酒を飲んで運転して事故を起こし、しかも救護もしないで逃げた男が危険運転致死罪にならないのは納得できない」と訴えています。
現在の法律には、こうした矛盾や穴があるのです。
こうした訴えを受けて、去年9月、刑法を所管している法務省が罰則の整備について法制審議会に諮問し、先週15日、法改正案の要綱が法務大臣に答申されました。
それでは、答申を元にして法務省が検討している法改正の原案は、どのようなものでしょうか。
一つは、危険運転致死傷罪の適用要件に、一方通行の逆送など、通行禁止道路を高速で走行して事故を起こした場合を追加します。
また、危険運転致死傷罪と自動車運転過失致死傷罪の刑の上限の差が大きいため、その間に「中間の罪」を新たに設けます。酒や薬物、一定の病気の影響で、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転した場合に適用するとしています。病気については、てんかんなどで意識を失う恐れがある場合などに限定するとしています。
さらに、「逃げ得」と呼ばれる問題を防ぐための罪を新設します。酒や薬物の影響で事故を起こした後、そのことが発覚するのを免れるために逃走した場合などが該当します。逃げて飲酒していたことなどをわからなくすると刑罰が軽くなるという、「逃げ得」の問題に対応する規定です。
これらの改正点を、どう捉えたらいいでしょうか。
法改正の原案は、悪質な運転による事故の遺族や被害者の要望に応えようとしたものです。遺族などの中には、これまでなかった「逃げ得」を防ぐための規定が設けられる点などを評価する声があります。
しかし、不十分な内容だと受け止める人が数多くいます。
また、規定がこれまで以上に複雑で、わかりにくくなっていて、本当に悪質な運転をなくすことにつながるかどうか、危惧する声もあります。
どんな点が課題なのでしょうか。
一つは、危険運転致死傷罪の適用範囲の拡大がごく一部にとどまっていることです。京都府亀岡市の事故などの遺族らが強く求めている、一度も運転免許をとったことのない者による事故などは含まれていません。
また、新たに作られる「中間の罪」などの規定が明確でなく、わかりにくいという指摘があります。
たとえば、「中間の罪」の適用要件になっている「酒や薬物などの影響で、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転」して起こした事故という規定は、危険運転致死傷罪の適用要件の「正常な運転が困難な状態で走行」して起こした事故とどう違うのか、区別がつきにくいという指摘です。
こうした点については、法制審議会の審議の中でも、警察や裁判官、弁護士のそれぞれの立場から疑問視する意見が出されていました。
これについて遺族などからは、規定が曖昧でわかりにくくなっていることで、本来、危険運転致死傷罪にあたるものが「中間の罪」になり、刑罰が軽くなると危惧する声があります。
一方で、弁護士らからは、処罰の範囲が広がりすぎる懸念があるという意見が出されています。
こうした曖昧でわかりにくいままでは困ります。
国民が、どういう行為が新たに処罰の対象になるのかがわからなければ、悪質な運転を抑止することにもつながりません。
国は、今後、適用の範囲などを明確にする必要があります。
そして、改正の内容を、国民にわかりやすく説明し、周知することが必要です。
また、てんかんなどの病気の影響による事故を、法律で処罰の対象にするのは今回が初めてで、患者団体などから強く反対する意見が出されています。病気の人の差別などにつながらないよう、適用の範囲などを慎重に検討する必要があります。
一方、今回の法改正の原案では、無免許運転による事故について、危険運転致死傷罪の対象にはしませんでしたが、罰則を強化する新たな規定が盛り込まれています。
「中間の罪」や自動車運転過失致死傷罪、「逃げ得」を防ぐ罪など、それぞれに該当する事故を起こした者が無免許だった場合には、罰則を大幅に引き上げることになっています。
また、無免許運転をめぐっては、これまでみてきた法務省が所管する刑法を改正する動きの他に、警察庁も、罰則を強化するための道路交通法の改正案を、今の国会に提出することにしています。
無免許運転をしたり、それを命令したり、容認したりした場合に、罰則を大幅に引き上げます。
さらに、これまで道路交通法では禁止の規定がなかった、無免許運転をした者に車を提供した人や、無免許の人に、要求したり依頼したりして同乗した人についても、新たに罰則を設けることにしています。
これは、かつて飲酒運転について、車を提供した人や要求して同乗した人なども罰することになったのと、同じような規定を設けるものです。
こうした罰則の強化、厳罰化による効果はあるのでしょうか。
こちらは、飲酒運転による死亡事故の推移です。
平成13年に危険運転致死傷罪が作られ、悪質な運転の厳罰化が行われました。さらに、飲酒運転の罰則が引きあげられたり、命令や同乗した人などの罰則が作られたりしました。こうしたなかで、飲酒運転による死亡事故は、大きく減ってきています。
ただ、こうした減少は、法改正での厳罰化だけによるものではありません。
当時、飲酒運転による痛ましい事故が相次いだことで、国民のなかに飲酒運転をなくそうという社会的な機運が高まり、関係する業界などが様々な取り組みを進めたこと。
そして、罰則が厳しくなったことを、国民に周知し、取締りを的確に行うこと。様々なことが相まって、飲酒運転が減ってきたのです。
今回も、無免許運転など、悪質な運転による事故が相次いだことを受けて、法律を整備するとともに、国民へのわかりやすい説明や周知、的確な取締りを行うこと。
そして、社会全体で、悪質な運転を許さない機運を高めていくことが必要です。
様々な取り組みを進めて、悪質な運転による痛ましい事故をなくしていく。そのことがあらためて求められています。
(渥美哲 解説委員)

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