|
どしゃ降りの中、ビバリーセンターに行きたがる女
その夜は、雨が降っていました。今年は暴風雨が吹き荒れたカリフォルニアですが、
ふだんはほとんど降りません。冬の日の朝、降ったと思うと午後から晴れ、というの
が降雨パターンです。しかし、この夜の雨はけっこう本降りでした。
私は性懲りもなく、またまたダウンタウンに出かけようとしていました。時間は、9時
過ぎくらいだったでしょうか。ダンスクラブには、いわゆるアメリカンコーヒーしかおい
ていません。そこで私は、スターバックスに寄っていくことにしました。注文も、「doppio
macchiato, Please!」という通好みの渋さでございます。
ちなみに、LAでもスターバックスなどのシアトルスタイルカフェの出現までは、エスプ
レッソは気軽に飲めなかったようです。ご存知Sはこういっていました.。「スターバック
スが、あんだけ流行ったっていうのは、アメリカ人も美味しいコーヒー飲みたかったん
だね。スターバックスができる前って、夜中にエスプレッソ飲めるとこって、ほとんど無
かったっていうの?Café Roma、えーと、そうそうCanon Dr.の。ビバリーヒルズでもあ
そこくらい。信じられる?」
エスプレッソを手にして車に戻り、キーを開けているときです。「すみません」という声が
聞こえます。声の方に目を向けると、助手席側に傘を持った女性がいました。年齢は、
そう30〜40歳くらい。メガネをかけた白人です。「はい、何でしょうか?」、と答えると、
「ビバリーセンターに行きたいんですけど、この雨でしょ?とっても歩けなくて」「はぁ…」
「送ってくれませんか?」「はぁ〜?」
地図をご覧下さい。現在地は★、ビバリーセンターは★です。わたしは、★から下の↓に
向かおうとしていたのです。ビバリーセンターは回り道です。女性といえども、赤の他人。
何が起こるかわかりません。それに少し図々しいと思ったので、「行く方向が違うので、
申し訳ないですが」と断りました。
すると女性は言います、「さっきから、何人か聞いたんだけど、だめなんです」。まぁ、そう
だろうと思いつつ聞いていると、「じゃあ、Wilshireのバス停まで送ってくれない?バスで
行くから」と言い出しました。Wilshireなら、すぐ近くだし何か起こっても大丈夫だろう。その
上、この雨の中で押し問答をするより手っ取り早いと思い、「Wilshireなら、いいですよ」と
答えたのです。
ドアを閉め、シートベルトを締めてエンジンをかけようとしたときです。女性が突然大声で、
「やっぱりビバリーセンターにして!ビバリーセンターに送っていって」と叫ぶように言いだ
しました。車に乗ってしまえば、こっちのものだと思ったかはわかりません。とにかく、突
然豹変したように、大声で言うのです。
「でも、あなたさっきWilshireでいいって言ったでしょ?」「ええ、でもビバリーセンターにして」。
ここで私は、言いました。「ビバリーセンターは断ったでしょ?どうしてもと言うなら、降りてく
ださい」、すると女性は、別段抗うこともなく、素直に車を降りました。
こう書いてみると、別に怖くないかもしれません。でも、あの雨の夜。突然憑かれたように「ビ
バリーセンターにして」と、叫ぶように言いだしたその一瞬、ちょっと怖かったのはホントなの
です。
|