エッセイ集 小鹿桂司作品集

NHK文化センター名古屋 エッセイ入門「オアシス」に収載されてtます。愛知県図書館名古屋市立図書館に収蔵されています。

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初恋

初恋や孫を ( いだ )きて水温む
 
 
 
 私の住んでいるマンションの近くに「アズパーク」というショッピンングセンターがある。
食料品のアオキスーパー、衣料品の「あかのれん」、ミスタードーナッツ、マクドナルド、すがき屋、おもちゃの「トイザラス」、家電の「エイデン」、アイスクリームの「サーティーワン」など文字通りなんでも買い物ができる「AからZまで」の「AZ ( アズ )パーク」である。
土曜日になると私は一週間の疲れを癒すため、エイデンで「お試し用」マッサージ機を使うことが習慣になっている。
いつものように土曜日の午後、エイデンへ行き、マッサージ機に身体をゆだねて瞼を閉じて愛用のウオークマンで大好きなベートーベンの「田園交響曲」を聴いていると、自然と眠くなる。
「K君」
女性の声で目を開けた。私のことを「君」で呼ぶような女性は、そう多くはない。
眠い目をこすりながら辺りを見ると、私の目の前に「初恋の女性」が、にこやかに赤ん坊を抱きながら微笑んでいる。
「ああ、ジュンちゃんか」
私もいつものように名前を言ってしまった。
彼女とは小学校五年、六年、中学校三年と同じクラスであった。それに住んでいる「長屋」が近くでもあった。一〇〇メートルも離れていなかった。
四十五歳の時に「中学校卒業三十周年」の同窓会が大々的にあった。同窓会の案内が届く前に、私のマンションの電話を調べてかけてきた。
「よくわかったね」
「うん。K君の実家の電話番号は昔のまんまだねえ。お母さんに聞いたんだわ、どうしても一緒に行こうと思ってさあ」
同窓会の当日、わざわざ車で迎えに来てくれた。彼女はお酒が飲めない体質だった。
同窓会は三次会までつきあったが、二人はずっと一緒にいた。そして帰りは、遅くなったのに家まで送ってくれた。今、彼女と私の家の距離は車で十分ほどだった。奇妙な縁である。
中学の同窓会の以前にも、小学校のクラス会も三度程あって、必ず顔を合わしていた。その時もずっと一緒に話していた。
およそ二十年ぶりの「中学校卒業三〇周年」で再会してから、週に一度は電話をする間柄になっていた。電話をしていると、いつの間にか中学三年生の二人に戻っていた。
「K君」
「ジュンちゃん」
呼び方は全く変わらない。
彼女のことを「初恋」の相手と意識するようになったのは、六年生の後半、席替えで私のすぐ前の席に座る頃のように思う。髪を肩より長めにした、細身で「ちあきなおみ」によく似ていた美少女だった。ちあきなおみの歌声を聴いたり、インターネットで姿を見かけると、「ちあきなおみ」は「ジュンちゃん」に替わってしまう。
中学一年の時、私は三組で一階、彼女は十組で三階だった。
中学一年の時にはもう二人とも「お互いを意識する」仲になって、同級生のなかでも「公然」の噂になっていた。
クラブ活動では、彼女がバレーボール部、私は剣道部。週一回だけ剣道部と、女子バレー部が一緒に体育館を二つに仕切って、練習することがあった。剣道部の同級生達が「気を遣ってくれて」わざと私を勝たせてくれた。あの頃のことは話した記憶はないが、多分彼女は「それなりに」意識していたと信じている。ポニーテールにした彼女は、他の女子バレーボール部員より可愛いと思った。
彼女には二つ上に「アニキ」がいた。このアニキが変わっていて、学校内や子供会の集まりの時に、私のそばまで寄って来て、
「おい、俺の妹に気があるヤツゥー」
用事もないのに近づいてきて、声をかけてニヤニヤ笑って去っていくということを繰り返していた。だから、余計に意識するようになった。
しかし、二人でゆっくり話ができるようになったのは中学三年生の時になってからであった。それまでは、とても恥ずかしくて一緒にいられなかった。もちろんデートなんてしたことはなかった。電話もしたことがなかった。
三年生になり、同じクラスになったら急に親密になり、放課後やクラブ活動中も平気で話すようになった。一緒に帰ることもよくあった。
どんなことを話したか全く今では記憶にないがほとんど彼女が話し、私が頷いていたような気がする。時々は勉強のことも話した、ように記憶している。
高校生になってからも、お互いの文化祭に呼んだり、呼ばれたりした。
彼女は高校を卒業して会社に勤め、私は浪人して大学に入学した。私の父が大学二年の時に亡くなって、私たち家族がそれを機に引っ越し、同じ町内でなくなった。そして私が大学を卒業し、群馬に赴任してしばらくすると自然に音信不通になってしまった。彼女が結婚したことも、子供が生まれたことも随分あとになってから聞いた。でも、特にショックはなかった。
だが、ふとした時に彼女のことは思い出した。大学生になって新しい女友人達ができ、社会人になって仕事に没頭し、「夜の蝶」を追っかけていた頃も、なぜか彼女の顔だけは忘れることがなかった。
二十年ぶりに中学校の同窓会で再会した時には、とても「美少女」とは言えない体型になっていたけれど、表情は相変わらず「美少女」だった。私も彼女のことを言えた「体型」ではなかったが。
私はちょっと酔った勢いもあって、
「俺さ、ジュンちゃんが初恋の人だったよ」
「あたしも、K君だったよ」
初めての告白だった。もっと早く言えていたらなあ、いくらでも機会はあったのに。
でもすごく自然に告白し、お互い笑いあえた。
変わらず「ジュンちゃん」であった。
今年の年賀状に、
「孫二人に癒されています」
ああ、もう「ジュンバア」と呼ばなければならないかと思った。
「今日はトイザラスに来たのよ」
孫をお嫁さんに渡して、隣のマッサージ機に身体を沈めた。
そして、時間が経つのも忘れマッサージ機のリクライニングを倒し、長々と世間話をしていた。
孫を抱っこしている姿に、過ぎ去った時間を感じた。でもしゃべりだすと、タイムスリップしたように中学校の同級生に戻っている。
ようやく暖かくなった、三月十九日。小学校の卒業式に着ていたパステルピンクのツーピースと長い髪は今でも瞼に残っている。
卒業式が終わり家に帰って、買ってもらったばかりのベートーベンの「田園交響曲」のレコードをぼんやりと聴いていた。その第五楽章を聴くと卒業式を思い出し、ジュンちゃんの姿が目に浮かぶようになった。この曲は私の「初恋」の音楽になった。
ちあきなおみの「星影の小径 ( こみち )」もいいかな。
二人ともいろいろ変わってしまったけれど、私の「初恋のジュンちゃん」は全然老化しない。
今年も、もうすぐ三月一九日がやってくる。

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