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大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづる kemukemu
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少年Aの精神鑑定主文

文芸春秋2015年5月号「家裁審判決定(判決)」全文」、1999年『「少年A」この子を生んで・・・』より


・・・・

主     文


      少年を医療少年院に送致する。


             理     由


(略)

 少年は母乳で育てられたが、母は生後10月で離乳を強行した。具体的な事は分からないが、鑑定人は、1才までの母子一体の関係の時期が、少年に最低限の満足を与えていなかった疑いがあると言う(少年が決して親に甘えないとか、遊びに熱中できないとか、しつこい弟苛め等から推認)。

(略)


(一連の非行時における少年の精神状態、心理的状況)
 
1 年齢相応の普通の知能を有する。意識も清明である。

2 精神病ではない。それを疑わせる症状もなく、心理テストの結果もそれを示唆する所見がない。

3 性衝動の発現時期は正常であるが、最初からネコに対する攻撃(虐待・解剖)と結び付いた。その原因はわからない。自分の中にありながら、自分で押さえられないネコ殺しの欲動を魔物と認識し、その人格的イメージに対し、酒鬼薔薇聖斗と名付けて、責任を分離しようとした。

4 ネコ殺しの欲動が人に対する攻撃衝動に発展した。現実に他人を攻撃すれば罰せられるため、性衝動は2年近く空想の中で解消されていたが、次第に現実に人を殺したいとの欲動が膨らんで来た。

5 他人と違い、自分は異常であると分かり、落ち込み、生まれてこなければよかった、自分の人生は無価値だと思ったが、次第に自の殺人衝動を正当化する理屈を作り上げて行った。

6 それは、自分が無価値なら他人も無価値であるべきである、無価値同士なら、お互いに何をするのも自由で、この世は弱肉強食の世界である、自分が強者なら弱者を殺し支配することも許されるという独善的な理屈であった。


 以上は、鑑定人■■及び鑑定人■■の鑑定の結果に基づき認定した。認定を補足する為、鑑定書(185頁)の鑑定主文1及び2を掲げる。

鑑定主文1 本件一連の非行時並びに現在の精神状態

 非行時、現在ともに顕在性の精神病状態にはなく、意識清明であり、年齢相応の知的判断能力が存在しているものと判定する。

 未分化な性衝動と攻撃性の結合により、持続的かつ強固なサディズムがかねて成立しており、本件非行の重要な要因となった。

 非行時ならびに現在、離人症状・解離傾性が存在する。しかし、本件一連の非行は解離の機制に起因したものではなく、解離された人格によって実行されたものでもない。

 直観像素質者であって、この顕著な特性は本件非行の成立に寄与した一因子を構成している。また、低い自己価値感情と乏しい共感能力の合理化・知性化としての「他我の否定」、すなわち虚無的独我論も本件非行の遂行を容易にする一因子を構成している。

 また、本件非行は、長期にわたり多種多様にしてかつ漸増的に重篤化する非行歴の連続線上にあって、その極限的到達点を構成するものである。

*注:直観像素質→瞬間的に見た映像をいつまでも明瞭に記憶できる



鑑定主文2 精神医学的に見た本件一連の非行の心理学的状況および背景

 家庭における親密体験の乏しさを背景に、弟いじめと体罰との悪循環の下で、「虐待者にして被虐待者」としての幼時を送り、“争う意思”すなわち攻撃性を中心に据えた、未熟、硬直的にして歪んだ社会的自己を発達させ、学童期において、狭隘で孤立した世界に閉じこり、なまなましい空想に耽るようになった。
 思春期発来前後のある時点で、動物の嗜虐的殺害が性的興奮と結合し、これに続く一時期、殺人幻想の白昼夢にふけり、食人幻想によって自慰しつつ、現実の殺人の遂行を宿命的に不可避であると思いこむようになった。この間、「空想上の遊び友達」、衝動の化身・守護神、あるいは「良心なき自分」が発生し、内的葛藤の代替物となったが、人格全体を覆う解離あるいは人格の全面的解体には至らなかった。また、独自の独我論的哲学が構築され、本件非行の合理化に貢献した。かくして、衝動はついに内面の葛藤に打ち勝って自己貫徹し、一連の非行に及んだものである。


(略)


処     遇

再犯の防止

 少年は、表面上、現在でも自己の犯行を正当化していて、反省の言葉を述べない。しかし、描いた絵の幹が千切れていたこと、恐ろしい夢を見たこと、入り込んできた被害者の魂により苦しめられていることからすると、心の深層においては良心の芽生えが始まっているように思える。

 しかし、今後、表面上反省の言動を示し始めても、それだけで即断せず、熟練した精神科医による臨床判定(定期的面接と経過追跡)と並んで、熟練した心理判定員による定期的心理判定を活用すべきである。例えばロールシャッハテストによると、現在は、他者への共感力に乏しく、他者の存在や価値を認めようとせず、対人関係に不安・緊張が強く、人間関係の維持が困難であり、TAT(絵画統覚検査)所見は、現在は、他者に対する被害感が強く、裏腹に強い攻撃性と完全な支配性を持つ(人間関係は、攻撃するかされるか、支配するかされるかの関係である)が、これらに、表面上だけでなく、好ましい方向への根本的変化が現れつつあるかどうかを追跡し、判定の慎重を期すべきである。


(略)


結     論

以上によると、医療少年院送致が相当であることが明らかである。
よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文の通り決定する。

                     平成9年10月17日






(kemukemu)
*平成9年:1997年
*事件当時、神戸家庭裁判所の担当裁判官の井垣康弘氏によると、精神鑑定のうち一人は精神科医・中井久夫氏(当時は神戸大学を退官し甲南大学教授)だったという。


最近の日本での深刻な状況(家庭内虐待・ネグレクトなど)の増加を受け、あえて掲載した。





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