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大道芸観覧レポート モノクロ・フィルムでつづる kemukemu
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中井久夫(1934年生)

「戦争と平和 ある観察」(2005)

*『樹をみつめて』みすず書房(2006)
または『戦争と平和 ある観察』人文書院(2015)から




「 非対称戦争は、(1)価値観の違う軍隊間に起こる戦争である。(2)戦争形式は質的に異なり、敵対者間に共通のルールが生まれる余地が極めて少ない。(3)一般に非正規軍を強く帯びる側は軍事的に劣勢である。(4)非正規性が明確な側は本土防衛戦を戦う側である。(5)一般に劣勢軍のほうが、兵士にまで大義を説き作戦の意義を教示する傾向がある。
 この非対称性は正規軍同士にも見られた。欧米軍は一般に作戦にかんする情報を将校にのみに限定し、兵士には秘密を漏らさず、日記を禁じた。
 日本軍は兵士にも大義を説き、作戦をも具体的に教え、日記を認めた。これは捕虜の尋問の際に不利を生んだ。日本軍が捕虜になるのを禁じたのはこのためもあったというが、日本兵捕虜がもはや一切の面目を失い帰国の道を断たれたと観念して軍の秘密をよく語るようになるという悪循環を生んだ。
 ソ連軍は政治委員を随伴させて指揮官以下の政治教育と政治意識評価を行なった。中国軍は思想教育と共に、軍の行動原理を単純明快な定式にして教育した。ベトナム軍は作戦会議に兵士を参画させ、攻撃目標の実物大模型を密林内に作成して、最良の攻撃法を論じさせ、さらに演習して最短時間で最大効率を挙げるようにした場合もあったという。
 
 以上の概観から、非対称戦争が、絶えざる緊張を生み、戦争法規違反、残虐行為、市民被害を生む確率がきわめて高く、戦闘員の熱狂性を強化せざるをえないことが結論づけられよう。
 おそらく、正規軍同士のクラウゼヴィッツ型戦争は、今後、起こっても稀であろう。原子爆弾の存在がそれを困難にしたことに加えて、ほとんど不可能なほどに正規軍の軍事費が高騰しているからである。
 冷戦の経過を経るに従って、共に水爆を発射する原子力潜水艦と空母を備えるなど、米ソの軍備は互いに相似形となってきた。この対称性ひいては政治軍事行動形式全体が次第に相似ることは、第二次大戦のドイツ陸軍とソ連陸軍、日本海軍と米国海軍、かつてのドイツ軍と戦後のイスラエル軍、ベトナム戦争時の米軍とカンボジャ侵攻の際のベトナム軍など容易に見て取ることができる。この成り行きは、劣勢国の軍備内容を優勢国のそれに追随させ、ついには資源あるいは資金の不足による破綻・自滅を招く。軍備が科学化、電子化し、巨額の資金と頭脳を必要とするようになって、対称戦争の機会はさらに少なくなっているのではなかろうか。世界の軍事力の八割をアメリカが占めているといわれているが、そのアメリカでさえ、兵器の陳旧化と兵員の質低下を抑えることができないという。

 非対称戦争の契機の一つは正規軍の敵本土侵攻であるが、もう一つは内戦である。内戦を明るみに出したならば、手の汚れていない民族はほとんど存在しないのではないだろうか。南北戦争のように正規軍同士の対称戦争に比較的近い内戦もあるが、一般に内戦は、非対称戦争の非正規軍同士の戦闘の様相を帯びる。最初はそうでなくても、急速に、その方向への「戦争の堕落」が起こる。冷戦終了後の内戦の多さとその酸鼻さは極端であり、また国家の態をなさない破綻国家が内戦がらみで続出している。極端な例は1994年のルワンダ内戦である。・・・・」





(もう少しつづく)

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