日々是好日日記

心にうつりゆくよしなしごとを<思う存分>書きつくればあやしうこそものぐるほしけれ・・・・、

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2014年入学式式辞

今日、ここに山梨県知事代理平出 亘副知事、山梨県議会棚本邦由議長、本学アドバイザリーボード委員東京銀座資生堂元社長弦間明さまをはじめ本学関係各界のみなさまのご列席を賜り、国際政策学部103名、人間福祉学部90名、看護100名、以上3学部合計293名、および大学院看護学研究科看護学専攻修士課程8名、総数301名の新入学生を迎え、第10期入学式が挙行できますことは、本学教職員ならびに在学生にとりまして大きな喜びであります。
みなさんを今日まで育んでこられたご家族をはじめ関係する全ての皆さんに、心からお慶び申し上げます。
 
さて、今日は、私がみなさんの在学中にぜひ読んでいただきたい一冊の本を紹介します。それは;…「きょう、ママンが死んだ。」という有名な書き出しで始まるアルベール・カミュの小説『異邦人』です。
アルベール・カミュについては皆さんもよく知っていることでしょう。1913年、フランス植民地時代のアルジェリアに生まれた小説家。『異邦人』をはじめ、『ペスト』・シーシュポスの神話などの作品で44歳の若さでノーベル文学賞を受賞。しかし、その3年後、自動車事故で死亡。その死を悼むように、カミュは今でも世界中で最も多くの読者をもつ作家の一人です。
小説『異邦人』は、アルジェに住む主人公ムルソーが、母親の死を告げる養老院からの電報を受け取ったところから始まります。ムルソ−は皆さんと同じほどの年齢ですが、すでに小さな商店で働いています。
彼はその翌日、母の葬儀のためにアルジェから80キロほど離れたマランゴという町の養老院に行きます。その晩は通夜のため、母親と親しかった入所者たちと共に一夜を明かすのですが、この折、彼はタバコを吸ったり、ミルクコーヒーを飲んだり、居眠りすら致しました。
翌日の葬儀の時も、母の死顔を見るわけでもなく、寂しさとか悲しさとかいう特別の感情を動かしているようには見えませんでした。埋葬が済むや彼は早々にバスに乗ってアルジェに戻っていきました。
母の葬儀の翌日、ムルソーは彼に好意を寄せる元職場の同僚女性マリーにばったり遭いました。二人は、映画を見、食事をした後ムルソーのアパルトマンに帰って一夜を明かし、翌日は二人連れ立って海水浴に行きました。これら一連の行動が後々大いに問題になります。
ある日、同じアパルトマンに住むレエモン・サンテスという男がやってきました。レエモンはいわゆる女衒、俗に言う「ヒモ」で女性を食いものにするヤクザです。彼は、「女に逃げられて困まっている、ついては彼女にわび状を出したいが、字が書けないので一通書いてもらいたい」とムルソーに頼みます。早速、謝罪文を書いてやるとレエモンはその文章が「大いに気に入った。お礼をしたい。海辺のヴィラに友人が住んでいるからそこで海水浴をしよう」と誘います。その週末、レエモンに誘われるままムルソーはマリーを連れてヴィラに行きました。そこで大事件が勃発します。
友人の家についたムルソーとレエモンはさっそく海辺に出かけます。地中海の素晴らしい海です。しかしそこに例の女の兄であるアラビア人二人が来ていました。彼らはアルジェからレエモンの後をつけてきたのです。彼らの手に握られたジャックナイフが海辺の強い太陽に照らされてキラキラと光っていました。乱闘が始まりレエモンが刺されます。彼は倒れ、隠し持っていたピストルをポケットから出そうとしますが、ムルソーはこれを使わせないように奪い取ります。アラビア人たちは逃げていき事なきを得ました。
二人は友人のヴィラに戻ります。しかし、ムルソーはさっきの海を見たいと再び海岸に出ていきました。すると逃げたはずのアラビア人が今度は一人だけ岩陰で寝転んでいました。太陽は暑く、空気はドロッと澱んでいました。ムルソーが近づくと男は起き上がり、太陽にギラギラ光る匕首を抜いて近づいてきました。ムルソーは先ほどレエモンから奪い取ったピストルを発射します。アラビア人は倒れました。ムルソーは、倒れた男に向かってなお弾丸4発を撃ち込みました。後に法廷で、なぜ死体に向かって4発撃ったのか?という判事の問いに対して、ムルソーは「あまりに太陽がまぶしかったから」と答えました。これは陪審員たちの心象を大いに害しました。
以上が『異邦人』の前半「第一部」を窪田啓介訳の新潮文庫版で紹介しました。
 
つづいて「第二部」はムルソーの裁判。予審判事の訊問から最終判決までが描かれています。大急ぎで結論を話せば、判決は「死刑」。その死刑判決への論理は「殺人罪」とは全く無縁な次のようなものでした;
l  母の葬儀に参列したムルソーが、母の年齢を知らなかったし、悲しそうに見えなかったばかりか、通夜の席上タバコを吸ったり、ミルクコーヒーを飲んだり、居眠りをするなど当事者意識が人々にまったく感じられなかったこと。
l  母の死の翌日にマリーと海水浴に行き、映画を見に行って笑いころげたり、二人でアパルトマンで一夜を明かしたという検事の陳述も判決に強い影響を与えずにはおきませんでした。
l  予審判事はムルソーが神を信じているかと尋ねましたが、彼は、あまり神について考えたことは無いと答えます。そのことから、死体に向かって4発発射したことが信仰心の欠如であり、それこそが断罪されるべきものとされました。
こうして、ムルソーは20歳の若さで断頭台の露と消えました。以上がこの小説の大急ぎでたどったあらすじです。
 
この短編小説「異邦人」は古来「社会的不条理」を告発した小説とされています。「社会的不条理」ということについて、カミュ自身が英語版への序文の中で次のように述べています。社会的不条理とは<明晰な理性を保ったまま世界に対峙するときに現れる不合理性のことである>」と。また、「母親の葬儀で涙を流さない人間は、すべてこの社会で死刑を宣告される恐れがある。というのは、お芝居をしないと、彼が暮らす社会では、異邦人として扱われるよりほかはないということである。」とも述べています。
この作品が発表されたのは1942年、つまり第二次世界大戦の戦乱期です。当時のフランスはナチスドイツの進攻にあって混乱の極みにありました。作家カミュの意識の中にナチスドイツのファッシストに迎合する母国ヴィシー政権に対する不満や反感があって、それがこの作品に色濃く反映していたことは間違いありません。
しかし、そういう政治的問題を度外視しても、こういう社会的不条理は小説の中だけの話に止まりません。今の時代、皆さんの身の回りにも十分に充満している「状況」でもあります。
私が今日『異邦人』を主題にしてお話しているのは、最近のメディアが語る一方的な若者像に、この『異邦人』的な決めつけを強く感じているからです。世間では現代の若者について「さとり世代」などという「レッテル」を貼って妙に納得しているようです。
ちなみに、「さとり世代」についてWikipediaを引いてみると次のように書かれています。「『さとり世代』は、「欲が無い」、「恋愛に興味が無い」、「旅行に行かない」、「休日は自宅で過ごすことが多く」、「無駄遣いをしない」し、「気の合わない人とは付き合わない」。物心ついたころには既にバブルが崩壊しており不況しか知らないし、インターネットを利用して育っていることから現実をよく知っており、無駄な努力や衝突は避け、大きな夢や高望みも無く、合理的な行動を心がけている。なお、この言葉は2013年の新語・流行語大賞にノミネートされた。」こう皆さんは断定されているのです。主人公ムルソーを「異邦人」として断罪したように、世間はみなさんを「異邦人」にしたがっているように見えるではありませんか。
評論家の佐藤優氏は、「実証性や客観性を軽んじて自分が理解したいように世界を理解する態度」のことを「反知性主義」と呼び、フランス現代思想研究家の内田樹神戸女学院大学名誉教授は「現代の若者は『反知性主義』的であることを自己決定したのではなく、社会全体によってそう仕向けられているのだ」と述べています(朝日新聞「『反知性主義』への警鐘」(2014.02.19))。カミュの言う『社会的不条理』と佐藤・内田氏らが言う『反知性主義』は同一の概念と見てよいでしょう。
ところで山梨県立大学は、昨年82日、国から「地域の知の拠点」大学(Center Of Community)略してCOCとして全国52の有名大学と共に指定・採択されました。きょう、こうして「地域の知の拠点」大学である山梨県立大学に入学した以上、皆さんはこんな「きめつけ」とは全く無縁に成長していくし、またいかねばなりません。
すなわち、みなさんは上記Wikipediaの定義に反して「現実社会の問題に『強い意欲をもち』、『恋愛にも大いに関心を寄せ』、『熱心に地域社会の問題を研究し』、『休日は自宅や下宿にくすぶることなどせず、社会貢献活動に積極的に参加』し、『主義・主張の異なる人とでもよく議論し、よく付き合い』、『未来に向かって大きな夢を持ち、地域社会を変革する気概を常に持っている』、『グローカルな意識と行動をもった人間』として成長していく。」このように皆さんを教育していくことが「地(知)の拠点」大学としての本学のミッションであります。
メディアが流す薄っぺらな決めつけを散々に蹴散らして、皆さんが座学で基礎をしっかり学び、その成果を実習・演習・サービスラーニングを通じて地域社会に参画・応用・展開して実力を蓄えていく、そういう成長を私達は心から期待しているのです。
 
最後に、「異邦人」の原作者アルベール・カミュの言葉を紹介して、私の歓迎の言葉といたします。
人間は現在の自分を拒絶する唯一の動物である」(アルベール・カミュ)
ご清聴ありがとうございました。
 

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初めましてですね。

コメント初めてかかせていただきました!(◎>∀<◎)

でも書かずにはいられない状態でした(○^▽^○)

日々是好日日記さんのブログって魅力的で、共感する部分があってびっくりしたし



色々私自身凄く落ち込んだり凹んだりしたけど、

日々是好日日記さんのブログからパワーを貰ったりしていたから凄く感謝しています(^−^)



素敵なブログ書く方は凄い素敵な人なんだろうって思ったので日々是好日日記さん自身にも興味をもっちゃったのです

ayundamon@i.softbank.jp



日々是好日日記さん以外の人から連絡きたら怖いけど…一応のせてみました(*´∀`*)

もし迷惑だったらコメントそのものを削除してもらっても構いません!

首を長くして待ってますヽ(*’∀’*)/

2014/12/20(土) 午前 0:15 [ com*r*n45*re ] 返信する

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