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家から、よくない知らせが届いた。 親父が入院したという。 そのメールは、あまりよくない病状を伝えていた。 ジャマイカから、日本にいる嫁や妹に、連絡を取った。 親父は、激しい頭痛を訴えて救急車で運ばれた。 親父の脳に、腫瘍が発見された。 3cmほどの大きさのと、それ以外にいくつかあるらしい。 精密検査をしなければなんとも言えないが、質の良くない腫瘍の可能性が高い。 それをぼくに伝えた妹は、電話口で泣いていた。 こういうとき、海外にいることがほんとうに悔しい。 飛んで帰りたいが、距離がある。仕事がある。 通信事情があまりよくないので、連絡さえ、まともにとれない。 突然届いた悪い知らせ、さらにそれを増幅し、相次いで具体化していくような恐ろしい報告。 悪い夢を見ているようだ。 これはほんとうは夢なんじゃないか、と血の気が引きながら思う。けど、現実だ。 いても立ってもいられない、けど、何もできない。 14年前、母を亡くした。やはり癌だった。 そのとき、こういう思いはもう二度としたくないと思った。 そう思ってずっと来た。 そして、この先、もしそういう思いをするにしても、もうちょっと先のことだろう、と勝手に思っていた。 突然、来た。 人の気持ちの隙を突いたように、突然入り込んで、とてつもなく深く黒く心を覆った。 正直に言って、今、相当動揺している。 今やるべきこと、これからやらなければならないこと、わかっているつもりだ。 でも、どうしようもなく落ち着かない。動揺している。 ほんとうに情けない話だが、心がおろおろしている。
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先日、ジャマイカに戻ってきた。 秋めいてすっかり涼しくなった日本からこちらに来ると、やっぱり暑いなあと思う。 おそらく30度とか31度ぐらいの、真夏の東京の苛立ち猛激暑に比べればかわいいかわいいと頭をなでてやりたいぐらいの優しい気温のはずだけど、秋国から夏国への突然の環境の変化と気温の変化に身体がついていかない。 夜もそれなりに暑いから、ぐっすり眠れないというのも体に堪える原因のひとつだ。 さらに14時間ある時差により、頭がずーっとぼーっとしている。 そんな状態で昼間太陽の下をクーラーのない車で移動し現場をまわっていると、頭がぐらぐらしてくる。 しかし時差ボケというのは、なかなか辛い。 14時間の時差というと、まるっきり昼と夜が逆転しているから、体がなんか変な感じなのだ。 昨日は夜8時に寝て、夜中の2時に目が覚めた。 それから眠れず、そのまま朝事務所に行くと、朝の光がなんだか夕日のように見えてくる。 一瞬、ほんとうに「あれ夕方かな」と思ってしまう。 それぐらい頭がぼーっとしている。 そんなわけだから、朝からすごく眠い。 どうも時差というのは、1日2時間ぐらい治るらしいから、14時間の時差だと7日で治ることになる。 あるいは、14時間の時差ということは、24時間単位で考えれば10時間の体内時計のずれとも言えるので、ひょっとしたら5日ぐらいで治るのかもしれない。 確かにこれまでのジャマイカ日本往復経験からいうと、5日あればだいたい治る。 今日は朝4時に目が覚めたから、やはり1日2時間ぐらいのペースで治っていっているようだ。 しかし、仕事によっては毎日のように海外を飛び歩いている人もいるだろうし、そういう人は時差ボケ対策をどのようにしているのだろうか。 週に何回も日本とアメリカを往復する商社マンとか証券会社のエリート切れ者サラリーマンとか、いると思うのだ。 ジャマイカに来るときは一度アメリカでトランジットする必要がある。 ぼくはニューヨーク経由で来ているのだけど、飛行機に乗っている乗客をそれとなく観察していると、やはり旅慣れた人は、機内でリラックスできるようズボンなどを履き替えたりしている。 飛行機に乗っている時間が14時間ぐらいあるから、寝たりくつろいだりしやすい服装を持ってきているのだ。 到着間際にトイレに行き、部屋着というか機内着から、こざっぱりとした服装に着替えてくる。 いかにも慣れている雰囲気である。 さらに、日本人なのに英語の新聞や雑誌などを読みふけったりしている人がいたりして、さすがニューヨーク便に乗る人は違うなと思ってしまう。 でもその一方で、どうしようもなく日本人的なだらしないオヤジも当然いて、斜め前方に座っていたもじゃもじゃ頭のおっさんは、くしゃみするときに口に手を当てないから、ツバキを周囲に盛大に撒き散らしていた。 隣に座っていた上品そうな白人のおばさんが「なにこの人」というような目で見て、自分の飲み物をその人から遠ざけていた。 狭い機内でそんなツバ撒き散らし型くしゃみを連発されたら、まわりにいる人はたまらないのだ。 そういう人間が海外で働いて、日本人ってこんなふうなんだと思われると、ちょっと辛い。 今日は土曜日で仕事が休みだから、昼間睡魔に負けて眠ってしまうかもしれない。
そうするとますます時差ボケが治らなくて辛いのだけど、忍び寄る睡魔の誘惑に勝てず、ついついうらうらと寝てしまうのだろうなあ。 |
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今週水曜日に帰国するというのに、パスポートを失くした。 紛失に気づいたのが、日曜日の昼過ぎ。 出発まで3日。 もしなければ、再発行しなければならないから、おそらく予定の便には乗れない。 「アチョー!」と大あわてで部屋中をくまなく捜索したが、その結果わかったのは、部屋にパスポートはないということだった。 そもそもパスポートは、いつも使っている仕事カバンの中に収まっているはずなのだ。 焦ってはいけない、見落としているもんだよ、こういうときは・・と自分を励ましつつ、再度カバンの中身をごっそり出して、くまなく調べた。 ぐちゃぐちゃのカバンの中にはなかった。 しかしどうしてカバンの中がこんなに雑然としているのか。 特に、内部に散乱するくしゃくしゃのティッシュペーパーの類はなんなんだ。 使ったどうかもわからない、よれよれのティッシュ。 あっちこっちに散らばっている。 そしてなぜ今までこれを片づけなかったのか。 さらに、カバンの内側にぴとっと貼り付いたオレンジ色の附箋。 実に意義深く貼り付いているが、そこは、なにか大事なのか? あとで見てもらいたいのか? さらにさらに、いつかの資料のきれっぱし、なにかを書きつけたメモ、ばらばらの小銭、輪ゴムなど、混乱を極めている。 こういう状態だから大事なパスポートがなくなるのだ。 もちろん以前からこのカバンの混乱的内情に気付いていた。 けど放置していた。 整理整頓は大事だ。 反省しつつ意味不明のゴミをすべて放り出して、逆さに振ってもパスポートは出てこなかった。 それから再度汗いっぱいかきつつアパート中探したけど見つからなかった。 あと、あるとすれば事務所だけである。 もし、そこにないとなると、どこにあるのか。 最後にパスポートを見たのは、いつだ・・焦る気持ちを抑えつつ、じっと考えた。 ひょっとして、ハリケーン時の、モンテゴベイのホテルか・・。 あそこに置いてきてしまったとすると、厄介である。 そこは今いるキングストンからずっと離れている。 道中のメイン道路が、ハリケーンで土砂崩れになり、通行止めになっている。 山道を迂回して行けないことはないけど、時間と労力がかかる。 「あっ!」 急に思い出した。 銀行だ。 最後にパスポートを使ったのは銀行だ。 両替のとき、身分証明にパスポートを提示した。 そして、それからパスポートを受け取っただろうか・・。 そこからパスポートの記憶がぷっつりと途絶えている。 とにかくその銀行に行ったのは、モンテゴベイから帰ってきてからである。 1週間前のことだ。少しほっとした。 モンテゴベイからは少なくても持って帰っている。 しかし、もし銀行に忘れているとしたら、パスポートという貴重品なのだから、大使館へ当然連絡が来るはずだ。 ということは、そこにはないということだ。 「ああっ!」 そうだ、ハリケーンの後、水道施設の被害状況を確認するために、ぐちゃぐちゃの山の中に入っていった。 水源の水路が土砂で埋まり、水道管が土砂崩れで破断していた現場だ。 あのとき、カバンを持っていったような行かないような・・ 少なくても、カバンからカメラを引っぱり出して撮影したから、そのときにパスポートがするりと落ちて、どこか山の中に置き去りにしてしまったのか・・。 そうだとすると、もう発見は不可能である。 とにかく、出国まであと3日、もしどこにもなかったら再発行してもらうとして、おそらく1週間ぐらいはかかるだろう。 そうすると飛行機の便をずらして、帰国日を遅らせて・・ 「ああうっ!」 しまった。 あのパスポートには、ジャマイカのワーキングビザの印が押されている。 ビザがないと、次の入国が困難である。 それも再発行しなければならない。 それは一ヶ月かかる。 しかしそれは今回の場合無視しよう。 今度ジャマイカに来たときに、再度交渉だ。 パスポート一冊の影響の大きさにがっくりしつつ、月曜日を待った。 朝一番、事務所の机の周りを捜索したが、5分後にないことが判明した。 あと、可能性があるのは銀行だけである。 秘書のマリッサに電話してもらった。 「先週の月曜日、窓口でパスポートを見せたんですけど、ひょっとしてそこに置き忘れてないでしょうか」 いつもマリッサは冷静である。 祈るような気持ちで返事を待った。 「ああそうですか」 マリッサが受話器に向かって静かに述べた。 そしてぼくの方を見て、冷静に言った。 「あるそうです」 「おーっ!」 すぐさま銀行に向かい、パスポートを受け取った。 探し求めたパスポート。落とさないように、ボタンつきのポケットにしまった。 これで予定どおり日本に帰れるのだ。 しかし、銀行ものんびりしている。 窓口の人がパスポートを預かって、そのまま1週間も経っているんだから、連絡ぐらいよこしたら良さそうなものだ。 普通こういうのは、大使館に連絡するものである。 まったくパスポートの重要性をわかっていないから、困る。 もっともいけないのは、銀行にパスポートを忘れてくる自分なのだが、とにかくあってよかった。
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ボブ・マーリーの曲がカーラジオからずずんっと流れた。 ジャマイカのFM曲だから、レゲエの曲が絶え間なく隙間なくずーっと永遠に永久に流れている。 最近はハードコアといってラップ調の戦闘的レゲエが多く、聞いていて疲れるような、うんざりするようなことが多いけど、そこへ来てボブ・マーリーの質素質朴でざらっとしてうねるようなリズムの曲が流れると、思わず耳をそばだてて聞いてしまう。 ただ騒がしいだけの最近のレゲエと異なり、ぐっと心に突き刺さるというか、鉈で胸をぐさりと割ってくるような肌触りがある。 いわば、ボブ・マーリーは、ジャマイカの神様的存在である。 レゲエ音楽の創始者として、ボブ・マーリーの家を改造した博物館には多くの観光客が集まり、町には銅像があり、土産物屋にはそれ関係のTシャツ、タオルなどがいっぱいある。 もはや音楽だけでなく、ジャマイカの文化や国の地位を向上させた偉人である。 ジャマイカ中のリスペクトを一身に受け、別格的扱いになっている。 おおそれなのに、車の中で、ジャマイカ人の水道職員マクビーンが、 「おれはボブ・マーリーとマイケル・ジャクソンが、世界で一番すばらしいアーティストだと思うな」 と言ってしまった。 一瞬、車の中の空気が固まった。 マ、マイケル・ジャクソン? 「ポーッ!」 マイケル・ジャクソンが、ボブ・マーリーと同列? 同じ車にいたジャマイカ人のプリンスとドウェインが、「はあ?」という顔をした。 ドウェインが助手席から振り返り、ものすごく冷ややかな目線をマクレーンに投げつけた。 あわててマクビーンが付け足した。 「きみたちの意見とは違うかも知れないけどな、少なくても、おれはそう思うな」 プリンスがそれをあっさりと無視した。 「マイケル・ジャクソン?なに言ってんだ?」 ここでまたちょっとややこしいのは、プリンスという名前だ。 車に乗っていたジャマイカ人は本当にプリンスという名前で、けっしてミュージシャンのプリンスではない。 プリンスがハンドルを握りつつ、マクビーンにするどく言った。 「マイケル・ジャクソンのどこがいいんだ!」 車の中で、ボブ・マーリーの枯れた声と、低音ベースがずんずん響いた。 「ボブ・マーリーはシンガーとして、マイケル・ジャクソンはパフォーマーとしてすばらしい!」マクビーンが言った。 マクビーンは自説を曲げない男である。 そこから先は、「マイケル・ジャクソンはボブ・マーリーと並んですごい」派と「おまえアホか」派に別れて目的地に着くまで持論をぶつけあっていた。 すぐに言葉が英語ではなくジャマイカの地元言葉パトワ語になり、ぼくにはまったくわからなくなった。 最後にエルトン・ジョンの名前が出て、ようやく議論が終結した。 おそらくホモ関係あるいは幼児性的虐待方面に話が及んだのだろう。 ホモ、ナベ、オカマ関係はジャマイカでもっとも忌み嫌われるものである。 マクビーンは言葉をなくし、ドウェインとプリンスは胸を張った。 マクビーンは敗北した。 マイケル・ジャクソンは音楽性は高いけど、ボブ・マーリーの精神性と比較したらいけない。 個人的には、ミュージシャンなんだから音楽が良ければ、性的に倒錯していようがなんだろうがいいけど、マイケルのあの顔だけはいかんと思う。 あれは、テレビで映したらいかん顔をしている。 あの顔を見たら、顔ばっかり気になって、音楽を聴いていられない。 ほんとにマイケル・ジャクソンは、ああいう顔になりたかったのだろうか。 それとも失敗してああなっちゃったのだろうか。 失敗だったら鏡見た瞬間に絶対「ポーッ!」って怒るはずだから、あれはマイケル・ジャクソンの理想的顔なのだろう。 音楽センスはあるけど、美的センスがない。 高須クリニックか十仁病院へ行ってもとになおしてもらったほうがいいと思う。 カーラジオの曲は、またハードコア調のうるさいレゲエになり、ボブ・マーリーはマイケル・ジャクソンとともにどこかへ消えていった。
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この人を最初に見たとき、「おっ!ガキデカっ!」と思った。 このでかい帽子、どう見てもこまわりくんなのだ。 規格外の警察的巨帽をかぶっている。 ジャマイカのガキデカ。 生尻出して「死刑!」を期待したのだけど、やらなかった。残念である。 それに、むれむれタマキンを出してジュンちゃんに押しつけたり、ぶりぶりと道で野糞することもなかった。 いいおっさんが巨大もっこり帽をかぶってそんなことしてもらいたい。 残念である。 この手の末端肥大巨大帽を被っている人はジャマイカに結構いて、そういう人はたいていドレッドヘアだ。 長くかさばる髪をこの帽子の中にしまい込んでいる。 じゃらじゃら暖簾みたいな髪型だから、うっとおしいのかもしれない。 顔や体と比較してやたらに頭がでかいのが特徴だ。 ガキデカのおじさんはどうなんだろうとそれとなく接近して何気に髪の行方を観察してみたけど、どうもよくわからなかった。 普通の髪型のような気もする。 ガキデカの隣のにいちゃんは、「いいか、国に帰ったら伝えてくれよ、ジャマイカにはこんなにいい男がいるってな!ジャマイカはいい国だぜ!」と吠えていた。 若いのが吠えているんだから、巨大帽のおじさんにぜひ生尻で「死刑!」とやってもらいたい。
「八丈島のキョン!」でもいいけど、あれは衣装がいるからなあ。 |







