【正義】と【平和】

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 「そう。源氏は、坂東や奥州のみならず、この国全体を変革しようとしておる。しかし、それは無理じゃ。いや、まだ早過ぎるのじゃ。律令制という巨大な官僚機構は、この国全体に深く根を下ろしておる。

 天慶の乱の平将門を見よ。坂東の民の絶大な支持の下、八カ国を瞬く間に席巻しながらも、最後は、朝廷の官位官職に釣られた、同じ坂東の武家どもに、あっけなく討たれてしまった。

 源氏が、この国全体を無理矢理変革しようとすれば、それこそ、この国は、未曾有の大混乱に陥り、乱世が訪れる。しかし、奥州は違う。奥州、特に衣川以北には、律令の定めは根を張っておらぬ。

 奥州は、坂東よりも遥かに容易に、独立を果たせるであろう。我等は、源氏のもたらす混乱に、この極北の地を巻き込みたくないのじゃ。奥州には、朝廷も源氏もいらぬ!」

 経清には、返す言葉が無かった。確かに、頼良の言う通りであった。律令国家の誕生以来、諸国では、数え切れぬ程の叛乱が起きた。しかし、そのどれもが成功しなかった。

 聖徳太子・天智天皇・天武天皇など、日本史上の名君達が、長い年月をかけて樹立した律令国家は、それほどこの国に強固な基盤を築いていたのだ。

 そして、経清は、四年前、常陸国衙で頼義と話した時から、源氏の野望に気付いていた。

 「東国の武家衆に、奥州の蝦夷、そして、黄金と良馬を兼ね備えることができれば、源氏の軍事力は、間違いなくこの国最強となる。」

 頼義の野望は、確実に、この奥州を戦火に巻き込むことになる。今、経清は、ハッキリと気付いた。頼義の存在こそが、この国を未曾有の混乱に陥れるのだ。

 しかし、その変革なくしては、この国の民は救われぬ。このままでは、この国の民は、摂関家と受領達に永遠に搾取され続けることになる。変革のためには、戦乱という痛みが必要なのか?

 経清には、何が正しいのか、わからなくなっていた。そんな経清の苦悩を見て取ったのか、頼良は、先程までとは打って変わった、穏やかな声で経清に語りかけた。

 「経清殿。安心されよ。我等が降伏せずとも、戦は起こらぬ。追討は中止される。」

 「それは、どういう意味ですか・・・?」

 経清は、狐につままれたような表情で、頼良を見つめた。

 「兵法とは、戦わずして勝つということじゃ。数日の間、衣川館に滞在しなされ。永衡殿も、罪には問われぬ。無論、我等もな。あとは、若者達で話し合われよ。」

 頼良と良照は、謎の笑みを浮かべながら、執務室から立ち去った。経清が、その言葉を理解できぬ内に、入れ替わりに、永衡が部屋に入ってきた。

 「永衡殿。ご無事であったか。」

 永衡の無事な姿を確認し、経清は、心の底から喜びを感じた。

 「経清殿。気遣っていただいたようで、誠に申し訳ない。」

 永衡は、久しぶりに会った経清に、嬉しそうな表情を浮かべると、礼を述べた。

 「経清殿。頼良殿の力は、我等の想像を遥かに超えておる。」

 永衡の言葉に、経清は、再び、狐につままれた気分に陥った。

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