【正義】と【平和】

英雄千人をランキング。『千人の英雄伝』連載中。

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 カエサルは、第十軍団の集結した、マルス広場の演壇上に立つと、呼びかける言葉も、前置きもなく、「何が望みか」と言った。
 
 兵士達は、「退役させてもらいたい」と答える。
 
 それに対し、カエサルは、「退役を許す」と返した後、次の言葉を続けた。

 「市民諸君、諸君の給料、その他の報酬の全てを、約束通りに支払う。

 ただし、それは、私が、私に従ってくれる、他の兵士達と共に戦闘を終え、凱旋式まで共に祝い終わった後、約束を果たす。

 諸君はその間、どことなりと安全な場所で待っていれば良い。」

 カエサルと深い絆で結ばれていた、第十軍団の精鋭兵達は、カエサルが、自分達に対し、「戦友諸君」ではなく、「市民諸君」と呼びかけたことで、既に、意気消沈した。

 彼等は、カエサルが、自分達との絆の切れた、普通の市民として、他人扱いされたと感じた。

 第十軍団の兵士達は、最初から、退役するつもりなどなかった。

 彼等は、次の戦場が、北アフリカになること、カエサルが、自分達を必要とすることを確信していた。

 そのため、退役を要求すれば、カエサルは、報酬の値上げを約束するなど、妥協すると思っていた。

 しかし、カエサルの口から発せられたのは、「退役を許す」という、意外な言葉であった。

 第十軍団の精鋭兵達は、カエサルとの深い絆を誇りとしていたため、他人扱いに対して、怒るどころか、泣き出し始めたのである。

 最早、従軍拒否も、報酬の値上げも無かった。

 第十軍団の兵士達は、「兵士に戻してくれ」「カエサルの許で戦わせてくれ」と、口々に叫んだが、それに対し、カエサルは、何も答えなかった。

 次の戦場である、北アフリカに行くための集結地が、シチリア島のマルサラに決まった後も、第十軍団には、行軍命令は、発せられなかった。

 彼等は、他の軍団の後を、意気消沈して、従いて行くしかなかった。
 
 カエサルが、第十軍団に対し、参戦を許したのは、二カ月近くが過ぎてからであった。

 カエサルの傘下の兵士達が、従軍拒否や報酬の値上げを要求したのは、初めてではない。

 マッシリアの陥落後には、第九軍団が、従軍拒否を表明し、賃上げを要求した。

 しかし、カエサルは、その度に、一切の妥協をしなかった。

 そして、兵士達は、自分達自身の意思によって、再び、カエサルの許で戦うことを、否、「戦わせてもらう」ことを、懇願したのである。

 カエサルの許で、共に戦うことは、それほどまでに、彼等にとっては、誇りであった。

 同時に、それは、カエサルの統率力が、非常に優れていたことを意味する。
 
 カエサルの不在の間、アントニウスは、もう一つ、失策を犯していた。

 「若き過激派」の抑制に失敗したのである。

 キケロの婿である、その年の法務官のドラベッラと、キケロの愛弟子で、護民官のカエリウスは、「借金全額帳消し」の法案を可決してしまったのである。
 
 金を貸しても、それが、返済されないのであれば、貸す様な愚か者はいない。

 必然的に、投資と消費は鈍り、経済活動全体が停滞する。

 「借金全額帳消し」は、一見、社会的弱者の救済策にはなり得ると思われるが、経済の原則を無視した、余りに急進的な法案であった。
 
 アントニウスは、この法案を無効にするために、カエサルの帰国まで、新法の成立は、全て、凍結するという手段で対抗した。

 しかし、借金全額帳消しが、現実化する可能性のある状況で、返済する者はおらず、ローマの経済は、停滞してしまったのである。


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