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 『カエサルを撃て』は、日本人作家の佐藤賢一氏の西洋史小説。

 日本において、日本史・中国史を描いた、歴史小説は多いが、西洋史を描いた作品は少なく、更に、西洋史中心の歴史小説家も少ない。

 本作のタイトルは、『カエサルを撃て』であるが、主人公は、無論、カエサルではなく、ガリア人の王、ウェルキンゲトリクスである。

 本作は、カエサルの『ガリア戦記』の七年目の戦争、ガリア総決起を題材に、敵と味方を入れ替え、ガリア側を主人公とし、ローマ人を敵とした物語である。

 ガリアの王である、ウェルキンゲトリクスが、神々しいまでの逞しさを持つ、若さの象徴であるのに対して、カエサルは、小狡い中年男としての代表として、描かれている。

 本作のウェルキンゲトリクスは、ガリア総決起を実現させた、英雄として描かれるが、それは、文明人の模範的な英雄像とは異なる。

 衆人の前で、平然と女性を陵辱し、卑猥な言葉を並べ立て、下品な言葉で、ガリアの長老達を非難する。

 そして、敵対する者には、容赦なく、残忍な刑罰を下す、「蛮族」に相応しい、「野蛮」な英雄なのである。

 それに対し、カエサルは、禿頭を常に気にし、上辺だけを取り繕い、真正面の敵である、ガリア人とウェルキンゲトリクスよりも、首都のローマの政情ばかりを気にする、小狡い、文明人の中年男である。

 筆者は、カエサルを、世界史上における、第二位の英雄であると考えているが、実際のカエサルは、この程度だったかもしれないとも思えてしまう。

 『ガリア戦記』に記されている通り、ウェルキンゲトリクスは、ローマ軍と戦うための戦術として、徹底的な焦土作戦と、全てのガリア人の決起を促す。

 当時の西方世界では、ローマ軍は、無敵の軍団であり、正面から戦えば、決して、負けることはなかった。

 焦土作戦は、ガリア中の都市を破壊し、畑を焼き払うことで、ローマ軍の兵站、即ち、兵糧を断つ戦術である。

 また、全てのガリア人が、ローマ軍に敵対すれば、ローマ軍は、ガリアでの補給を一切、受けられなくなる。

 しかし、ガリア人にとっても、自らの都市を破壊し、畑を焼き払うことは、多大な苦痛と労苦を伴うことになる。

 アルウェルニ族出身のウェルキンゲトリクスは、厳罰主義によって、ガリア全体に焦土戦術を徹底させ、更に、アルウェルニ族と並ぶ、ガリア最大部族で、ローマの友邦である、ハエドゥイ族を決起させることで、カエサルとローマ軍を追い詰めるのである。

 しかし、本作の前半では、小狡い中年男に過ぎない、カエサルは、ローマ軍の若い百人隊長のマキシムスに殴られ、罵倒され、更に、ウェルキンゲトリクスと対峙する過程で、精神的に大きく成長する。

 「成長」というよりは、若き想いを取り戻し、ローマ人が、文明化によって、失ってしまった、自らの中に眠る、「野蛮」を目覚めさせるのである。

 カエサルとウェルキンゲトリクスの最終決戦、アレシアの包囲戦は、作者の魂が篭った、目が離せない、渾身の迫力で描かれている。

 ウェルキンゲトリクスは、カエサルの行動を見事に見抜いたが、最後の最後で、神は、カエサルに勝利を与えた。

 エピローグにおいて、カエサルは、ルビコン川を渡り、ローマを変革させる。

 その行動の原動力は、ウェルキンゲトリクスとの戦いで目覚めた、「野蛮」さであった。


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