華麗に舞った剣士たち

剣道で記録と記憶に残る少年〜青年〜中年剣士を追いかけます

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華麗なる剣士 東永幸浩 〜静かなる挑戦者6〜


2000年春、中大を卒業した東永幸浩は、
埼玉県警の門を叩いた。

「警察の練習がこんなきついとは」

鹿商工、中大と厳しい練習を積んできたつもりであったが、
そして学生時代に、警察にも出稽古をお願いしてきたが、
いざ、そこに身を置いて、改めて警察の厳しさが骨身に染みてわかった。

加治屋速人監督は、かつて自分がそうしてきたように、
選手たちを徹底的に鍛え抜いた。

東永は、稽古後しばらくは吐き気を催し、
飯が喉を通らない日々が続くことになる。

しかし、肉体的なキツさだけではない。

特錬部員の中は常に競争である。
生きるか死ぬかの結果をいつも突きつけられているような、精神的なキツさだ。

精神的苦痛は肉体的苦痛を凌駕する。

考えてみれば、高校・大学とお金を貰う立場ではなかったが、
今度はお金を頂戴して、そして剣道もやらせていただいている。

そう考えると、今までとは根本的に構造が違うということに改めて気づくのである。

特錬部員はある意味プロ。
プロのプロたる所以は、全ては結果に集約される。
「頑張っています」は何のエクスキューズにもならないのだ。


当時の埼玉県警には、
井口清、菊地博之、藤田利美、高柳宜正、奈良龍仁、米屋勇一など、
そうそうたるメンバーがズラリと揃う。
名前を見ただけでも目がくらむが、
その稽古の激しさには圧倒された。


そんな中で、とにかくガムシャラに頑張ることだけが、
自分の生きる道だと言い聞かせた。

そして、努力の人、東永は1年目からレギュラーに抜擢された。


「若い頃の自分は、今よりもっと積極的に技を出しまくりました。
 特に団体戦では、勝負の結果だけでなく、次に続く試合をしなければなりませんので」

とにかく積極果敢に攻める。
これが若い東永の団体戦における戦い方だった。



2002年、県警奉職3年目

東永に転機がやってきた。
全国警察選手権で、埼玉代表の3人に選ばれたのだ。

初出場である。

ちなみにこの時の覇者が、埼玉県警の先輩、井口清(32歳)だった。
また、東永は都道府県大会にも出場し、
東京に決勝で敗れるも準優勝に輝いた。

東永の大躍進はここから始まる。



2003年、東永はついに、ついに、夢にまで見た全日本選手権の切符を手にした。

初戦で、同じ鹿児島出身の1年先輩、肱岡明洋(大阪府警)と対戦。
「舞い上がってしまった」というが、
残念ながら初戦敗退を余儀なくされた。

また、全国警察大会(団体)は、
昨年屈辱の2部から1部に復帰したばかりであるが、
3位入賞を果たした。
準決勝で埼玉を破ったのは平均身長180cmの大阪。
警視庁が優勝した。



2004年
東永は、全日本選手権、警察選手権ともに埼玉代表に選ばれた。

いずれも2度目の出場である。

10月15日に行われた全国警察選手権では、
27歳の東永が次々と勝ち上がり、なんと準々決勝では、
翌年全日本選手権者となる原田悟(警視庁)を下し、
ベスト4に進出するという大活躍を見せた。

準決勝で、佐賀の笹川哲平に敗れるも3位。
警察官になってから初の全国入賞を果たす。


そして、全日本選手権。

この大会、中大時代の盟友、あの小野田(長崎県警)も、苦労して苦労した挙句に長崎県を制して、
初の出場を決めていた。

東永は、小野田の出場を心から嬉しく思った。

そして、発表された組み合わせを見て、
二人は驚きを隠せなかった。

なんと、東永と小野田はトーナメント表の隣り合わせ。
2回戦でぶつかるではないか。

こんな確率ってありえない。
偶然ではなく必然だったのであろう。

「組み合わせを見た瞬間、嬉しさがこみあげてきました」
小野田は心の底からそう思った。

しかし、1回戦の相手は、東永は竹中淑浩(滋賀東レ)。
小野田は高坂雄介(静岡県警)。

いずれもかなりの強豪である。

二人は何が何でも1回戦を突破し、
全日本選手権という最高の舞台での再会を固く誓った。

そして望みは叶った。

さあ、再会決戦だ。

本気で戦うことが相手に対する礼儀だし、
力を出し切ることだけが悔いを残さない唯一の方法である。


結果は、東永がメンを2本先取して勝利を収めた。

東永は勝負の後、
「小野田、大学時代お前がいたから、今のオレがあると思っている。
 今日は最高の舞台でそのお前と精一杯試合ができてとても嬉しかった」
と言った(に違いない)。


東永はその直後、千葉県警の蒔田直人に敗れた。
優勝したのは、千葉県警の鈴木剛だった。



◎発声談義

剣キチ「今回の全日本では、東永選手の発声が短くなった感じがするんだけど。
    何か変化があった?」

東永「自分ではあまり意識してということもないのですけど、
   昔は、審判の『はじめ』の号令とともに、『うりょーあー』と
   できる限りの声を出していました。しかもけっこう長〜く」

福永「そりゃあ、だめだ。
   声を出している最中に打たれたらおしまいだからね。
   俺だったら、相手が気合を出し切って息を吸い込もうとする寸前に打突するよ(笑)
   息を吐いている(しかも吐き終わり際、空気が肺に少くなりかけた)時は、動けないものだよ」

剣キチ「なーるほどね」

東永「今は、例えばはじめの号令で立ち上がって、1分間声を出さない時もありますね。
   そして、いよいよ気合が充実した時に、自然に発生しているという感じです。
   今年の発生が短く感じられたということは、それが自分にとって自然だったんだと思います。
   いずれにしても、試合中にあまり意識したことがないんです」



その後、東永は、

2007年に、全国警察大会(団体戦)3位!
(準決勝ではまたまた大阪に敗北)、

2008年の全国警察選手権で3位!
(準決勝で大阪府警の寺本に敗北)。

コンスタントに活躍し続け、
「埼玉に東永あり」と言われるようになった。

「いやあ、米屋先輩にはまだまだかないませんが・・・」

と謙遜したものの、東永が目指すのは常に頂点だ。




◎スピード談義

剣キチ「今回の全日本では、東永選手の打突のスピード半端じゃなかったと思う。
    34歳にして、年々スピードが上がってない?」

東永「自分はそんなに速い方ではないと思います。
   まあ、スピードが速い選手が勝つとは言えませんが、
   でも内村なんかは僕よりずっと速いですよ」

剣キチ「そうかなあ。。僕には東永と内村のスピードの違いがわからないけどなあ。
    ところで、史上最も速いメンを打ったのは誰だと思う?
    僕は全日本優勝した時の近本巧選手だと思うんだけど」

東永「そうですね。確かに近本先生のメンは早かったですね。
   愛知県警の選手は総じてメンが綺麗で速いとう印象です。
   私が今まで一番速いと思ったのは、安藤先輩(戒牛・愛知県警)です」

剣キチ「その安藤選手に、全日本決勝戦でメンのガチンコ勝負を挑んで、2本勝ちした
    近本選手の方が速いということにならない?」

東永「そうなんですけど、いつだったか警察大会で、神奈川と愛知が当たった時の
   安藤先輩のメンはそれはそれは凄まじかったです。
   高鍋先輩のあの光速メンと勝負をして、安藤先輩が獲ったんです。
   さらに高鍋先輩が出るところに合わせた安藤先輩が2本目も獲りました。
   本当に素晴らしかったと記憶してます」

剣キチ「なるほど、そうだったんだ。その日のコンディションにもよるかな。
    いずれにしても、野球のピッチャーと同じで、スピードだけじゃ勝てないけれど、
    でもやっぱりスピードはあった方が、変化球も生きるし、断然有利だよね。
    ただ年齢を重ねていくと、スピードに頼らない剣道が求められるから難しいとこ
    ろだよね。スピード談義は無意味ってことかな」



2011年11月3日 全日本選手権

東永は7回目の出場を迎え、気力・体力ともに充実していた。

初戦は同学年の古澤庸臣(熊本県警)だった。
これは難敵。学生時代の全日本決勝戦の苦い思い出が蘇る。
しかも東永は古澤に一度も勝ったことがなかった。
「でも、この壁を突破しなければその先はないんだと、自分に言い聞かせて臨みました」

古澤の気合は凄まじかったが、東永も決して負けていない。
東永、目にも止まらぬ抜き面!
いぶし銀の技ありだ。


2回戦は乘本志考(鳥取)。
乗本は昨年BEST8に活躍を見せた、史上最強のドクターであるが、
東永は危なげなくメンで退けた。


3回戦。これに勝てばBEST8だ。
東永は、川上有光(茨城)にド・メの2本勝ちを収めた。

このあたりからか、

「ん?今日の東永は違うぞ。ひょっとしたら」と思った人も少なくないのではないか。

私もその一人である。
打ちが速い、鋭い、豪快。
気合が入っているが、落ち着いている。
どっしりとした構えからは想像を超えるスピードで繰り出すメン、そして逆胴。


今日の東永には隙がない、
なんだか負ける気がしない。


(文中敬称略)

                               次回へ続く

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閉じる コメント(3)

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つくづく日本人だなーと思わせてもらいます。
柔道なども好きなのですが、オリンピックとかでは、
世界ルールになって、日本の柔道では無い気がしてしまって
不満が多くストレスになります。

剣道だけは、このままであって欲しいものです。
続き楽しみです

2012/4/26(木) 午前 7:53 uu 返信する

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uuさんの仰る通り!
剣道だけは変わって欲しくないと
私も切に思います(^ー^* )

2012/4/26(木) 午後 11:05 [ 剣キチ ] 返信する

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東永選手の試合をじっくり見たのが昨年の全日本選手権が初めてでした。「やー!」「それー!」「とりゃー!」といったような気合いに慣れていた自分にとって東永選手の短い発声は耳に残ったのですが、そういう意図があったんですね!気合いの発声まで考えて剣道してなかった自分です(T_T) 削除

2012/4/28(土) 午後 10:46 [ ケンケン ] 返信する

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