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日本人の生活に忍び寄る「感染症」の怖いリスク 感染症のリスクが高まる人の集まるイベント
2019/08/27 東洋経済オンライン
8月も残すところあと数日になりましたが、まだ暑い日が続いています。総務省消防庁の発表によると、8月18日までの熱中症による搬送者は5万2000人弱と、7月がとくに暑かった去年と比べると少ないものの、この20年で昨年に続いて2番目に多くなっています。
ところで、暑さによる健康への影響について考える場合、熱中症以外に気になるのが、気候変動に伴う感染症の増加ではないでしょうか。今年、海外では、コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱、フィリピンにおけるデング熱の流行などが確認されています。
国内でも、マダニによる重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の感染が毎年確認されていますし、最近もコンゴ滞在歴のある人がエボラ出血熱の感染疑いで検査をしたことが大きなニュースとなりました。
流行するまで話題にならない
これまで日本で話題になることが少なかった感染症リスクが、気候の変動に伴い、ジワジワと押し寄せてきているような気がします。ところが、こういった気候変動に伴って発生する国内での感染については、珍しい感染症であるか、流行するまで話題になることが少ないように思います。しかし、実際は、海外で発症する輸入例を含めると、毎年さまざまな感染症の発症が確認されています。
環境省による「日本の気候変動とその影響」では、気候変動が人の健康に及ぼす影響を、大きく2つに分類しています。
1つは、熱中症のように暑熱そのものによる直接的な影響です。熱中症のほか、呼吸器系疾患、循環器系疾患で死亡リスクが高くなることが知られています。
もう1つは、気候変動に伴って病原体が活動しやすい環境になるなどの間接的な影響です。これまで日本ではあまり話題にならなかった感染症の発生動向が注目されます。蚊を例にとると、降水パターンの変化や気温の変化によって発生しやすくなる、これまで冬季に死滅していた蚊が越冬するようになる、生息域が広がる(日本の場合、北上する)などによる影響です。
どのような感染症が増加するか?
蚊やダニになどよって媒介される感染症は、気候変化の影響を受けやすいと言われています。蚊を媒介とする感染症には、デング熱、日本脳炎、マラリアなどがあります。2016年リオオリンピック・パラリンピックの際、日本でも話題になったジカ熱も蚊を媒介とします。
ダニを媒介とする感染症には、ダニ媒介性脳炎、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)があります。リフトバレー熱、ウエストナイル熱、ハンタウイルス肺症候群は、この10年輸入例を含めて日本での感染は確認されていません。
それでは、蚊やダニなどによって媒介される感染症の日本での感染者数をみてみましょう。ここで紹介する感染症は、感染症法で4類感染症(動物、飲食物などを介して人に感染し健康に影響を与えるおそれがある感染症)に区分され、診断をした医療機関は直ちに保健所に届け出る必要があり、全数が把握されています。
2014年に162人の国内流行があったデング熱
○デング熱
厚生労働省サイト「デング熱に関するQ&A」によると、デング熱の媒介能力をもつ主たる媒介蚊のネッタイシマカは国内につねにいるわけではありませんが、媒介能力をもつヒトスジシマカは、日本のほとんどの地域に生息しています。ヒトスジシマカの生息域は1950年まではおおむね関東地方あたりまでしか確認されていませんでしたが、現在では青森県まで広がっています(国土の40%)。
さらに、2014年に公表された国連による「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書」による最も温暖化が進むシナリオでは、100年後に気温が4度前後高くなると予測されており、その場合に生息域は、ほぼ全国(同75?96%)に広がるとされています(環境省・文部科学省・農林水産省・国土交通省・気象庁「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018?日本の気候変動とその影響?」より)。
デング熱は2014年に、1940年代以降およそ70年ぶりに162人の国内感染が確認されました。海外で感染して発症する輸入症例は、毎年数百人報告されており、その数は増加傾向にあります。治療をしなかった場合に致死率は1%程度とされ、ほとんどの場合は順調に回復しますが、2005年と2016年に、それぞれ輸入例による死亡が確認されています。
○重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
マダニによる「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」は、届出によると、現在のところ西日本で発症しています。しかし、東北に生息するシカやイノシシなどの野生動物からもSFTSに感染したことによってできた抗体が見つかっており、将来は人への感染も北上することが予想されます。
2012年に国内で初めて死亡例が出てからは、今年4月までに届出があった感染者404人のうち65人の死亡が確認されています。これまでの研究とあわせて致死率はおおむね20%程度とされています。
マラリアは減少している
○その他
マラリアも毎年数十人の輸入症例が確認されていますが、近年減少傾向にあります。マラリアを媒介する蚊(シナハマダラカ)は国内にも生息していますが、現在の生活基盤が大規模自然災害などで大きく破壊されない限り、マラリアの流行が起こる可能性は低いと考えられています。
また、コレラなどの水系汚染による感染症は、国内ではすでに上下水道などの基盤が整備されていることから、気候変動による影響は少ないと考えられています(倉根一郎 一般財団法人 国際環境研究協会「地球環境」Vol.14、No2「感染症への地球温暖化影響」より)。
通常、感染症は、気候変動以外に、都市化の人口過密化、森林伐採、降水量、衛生、農薬利用による媒介生物の抵抗力の変化など多くの要因が合わさって流行します。したがって、気候変動だけを理由に、蚊やダニといった生物が媒介する感染症が”流行するリスク”が急増することはないようですが、媒介生物の生息域や活動時期が拡大することで、”罹患するリスク”は上がっていると考えられます。
また、2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。海外からの渡航者が増えるほか、会場などでは人口が密集するため、感染症の発生リスクが高まることが懸念されています。国では、「東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部」において、感染症対策の議論が進めています。
私たちも、風疹・麻疹など予防接種によって対処可能なものはなるべく対処し、現在の日本で流行していない感染症の発生動向には関心を払っていきたいものです。 |
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