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第10段
すまい(住居)というのん、問題にして見ますかいな。 「すまい」 もうこれで結構やと、言うところまで、考えてみましてんけど、、 「けど、、、、」 この身は浮世の仮の姿、すまいは仮の宿とは思うておりましても、 「、、、、、、」 これがなかなか面白うて止められしまへん。 「住居なあ!」 良いお人が、まっとうに住みならしておるとこは、 「とこは」 さしこむ月の色かて、ひときわ味わい深う見えるもんでっせ、 「偏見ちゃうか?」 今風のイキの良さからは離れておりましてもデス。 「つまり古い!」 周りの木立は神さびて、風格というのんがあります。 「風格です」 庭の草さえもが、ワザトらしゅうない、心がある。 「草の心平」 濡れ縁から垣根までの関わりかて、味が深まるばかりです、 「、、、、、、」 置きはってる調度品なんかでも、違いまっせ、 「タンスやとか」 昔から使いこんだあるさかいに、安らかに馴染んで、心憎いほど、、。 「古いだけ」 大勢の職人を使うて磨きたてて、やれ唐の、やれ日本のと、 珍しい、手に入れ難い調度品ならべて置いてデスワ、 「エルメスやとかグッチとか」 盆栽の枝まで、珍妙に切りそろえては、見る目も苦しおますし、わびしい。 「わびしい」 こんなんは、長生きしてもしょうがないデス。 「長生きの問題やない」 また、時の流れに煙と消えてしまうのにと、見た途端に思いまっせ。 「途端になあ」 おおよその事は、つまり、すまいを見ただけで、推定できるわけのもんです。 「推定」 後徳大寺の大臣さんなあ、家の屋根に鳶が居る言うて、 「言うて」 縄を張り巡らしてんて、 「縄を張りましたか」 それを西行が見てデスワ、 「あの西行法師が見て、、」 「トンビが居て、なにが苦しおますやろかいな、この殿さんの心、見えた」 と言うて、そのまんま帰ってしもて、2度と行きまへなんだ。 「鳶の縄で秋の夕暮れ」
綾小路の宮さんの居てはる御殿の棟に、いつやったか、縄張ったあるさかいに、 その西行をば、思い出してしもうて、 「思い出しましたによって」 聞いてみましたがな。 「サア、何と言いました?」 「トンビが仰山いて、池のカエルを捕りよるんだ。それを見てるんが辛うて、」と 宮さんが言うてんて、庭仕事してはるお人が、言いましたでぇ。 「蛙ですわいな!」 これを聞いてからに、さあ偉いもんやないかいな。 徳大寺さんかて、何かそんなんで訳があった、やも知れまへん。 「ほんまになあ」 第11段
神無月のころに、くるす野という所を過ぎて行きまして、 ある山里へ訪ね入ってしもうた事があるんです。 「山里なあ」 遥かに苔の細道を踏み分けましたらば、、、 「細道の奥にあった物は」 心細い暮らしをしとる感じの、小庵がありましてん。 「それで?」 木の葉に埋もれて流れて落ちるカケイの雫のほかに、 つゆおとなう物もないと、見えましたが、それでも、、。 「なんかがありましたか?」 閼伽の棚に菊、紅葉なんどを折り入れてある、その散らしようは、 これはかなりの人が住んではるゾト、、。 「散らしようが、只事ではありまへん」 こうゆう事があるさかいに、世の中は捨てたもんじゃありまへんのですと、 その儚きまでの美意識に感じ入りまして、ふと見たらば、、。 「何が見えたです?」 かなたの庭に大きなミカンの木、なんと枝もたわわに実がなってる、 「おミカンです」 そやけど、その回りを厳しう囲いがしてありますのや、 「盗られたらいかん」 この木さえあらしまへなんだら、と、冷めました。 「なあ、そうでっせ!!」 第12段
心のかよいあう人と、しみじみと静かに話しをしてですわ、おかしい事や、 世の儚い事なんぞを、裏も表もなしに言うて慰み合うのんが、 「傷を舐めあう」 こうゆう事が嬉しい事ですのに、そんな人がおらんからいうて、 「そら、いてへんです」 お互いが、ちょっとでも違うたら許さんぞと、向かい合っての睨み合い、 「睨まんでえな」 こんなんは、一人で居てるより心地が悪い。 「そら、悪いやろ」 お互いに、言いたい事を「ほんまやなあ」と、聞く甲斐があると思ううちに、 いささか違いがあると「私はそう思いまへんなあ」と、はや喧嘩腰ですわ、 「これが早い」 「そうですか、さぞさぞ、、」と、内語らうんやったら、暇つぶしの浮世の慰め、 ほんまのところ、少しは友達ですさかい、私と同じ意見でのうても、 「意見が違っても」 たいがいの事やったら、適当に言うて置けば済むんです。 「適当に、これが良ろし」 それにしても、仲の良え心の友にくらぶれば、デス、 「くらぶられて」 はるかに隔たっておる、これがわびしいでんなあ。 「わびしい、わびしい」 第13段
ひとりで書物を開いて、まだ見ぬ世の人を友達にする、 これがこよなく良えですなあ。 「ひとり慰み」 書物は「文選」のあわれな巻、白楽天の詩、また老子、 ほれから、荘子「南華の篇」。 「何んも、言えませんわ」 我国の偉い人が書きはった物でも、いにしえの物は、 味わいの深い物が多くありますねんで。 「古かったら、何でも褒めるんちゃうか?」 第15段
どこでも良えさかいに、ちょっと旅に出ましたらば、目が覚める心地がします。 そこら辺じゅう、何でも見て歩きまして、田舎のふう、山里なんぞは、 「褒めますか」 余りにも見慣れへん事ばっかしが多いですわ。 「、、、、、、。」 都へ手紙を出してやるのんも、 「手紙に何を書こう?」 「その事も、あの事も、ちゃんと忘れなはんなや」なんてな、 「何やいな」 なんとのう、面白おますやろ。 「面白ない、面白ない」 そんな所に居てこそ、まんべんのう心遣いかてできますねんで、「出来てへんやん」 家の調度品でも、良え物は良え、人のでき、格好の良さでも、 「人でも、、、」 いつもよりは、面白う見えますねん。 「、、、、、、。」 お寺や神社なんぞに、ひっそりと籠るのんも、良うおます。 「ええかも、、」 第17段
山寺に引っ込んで、仏に仕えてこそ、 無聊ものうなって、心の濁りかて清められるかも分からん。 「やりなはるか?」 第20段
なんとかいう世捨て人が、 「今度は世捨て人ですわ」 「この世に未練などは持たん私にも、ただ空の名残のみ、惜しいわ」 こう言いはったんです。ほんまにそうですわ。 「空の暮れていくのんが、、」 第21段
まあ、だいたいがですわ、月を見とりましたら、気持ちも慰みます。 ある人が「月だけ面白いもんは、あらへんし」と、言いましたら、 「誰やいな」 また一人は「露の方がもっと哀れですわいな」と、いがみの権太ですわ。 アホタレさんですねや、折にふれて、何だって哀れを感じさせますわいな。 「そら、そうかもなあ」 月だけやなし、花やったらもっとだす、風かて、人の心に触れてくる、 岩に砕けて清く流れる水を、お見なはらんかいな。 「お見なはるか?」 時を選ぶ事なしにめでたいもんですわ。 「めでた、めでたの、、」 「河の水は、昼も夜も、東へ東へと流れ去ります。愁い人の為に、 ただのいっときも、とどまりしまへんでえ」と、この詩、 「愁い人の為にはなあ」 哀れやないですかいな。 「感心するのんが哀れです」 竹林の七賢の一人かてです、「山沢に遊んで、魚や鳥を見ておれば心楽しい」と、 言いましたやんか。 「言うてますか!」 人からは遠く、水も草も清らかな所に、さまよい歩くだけ、 「鳥の糞ぐらいあっても」 心が慰められますのや。「ほんまにモウ!」 「怒ったらあかんで」 第26段
風も吹きあえずうつろう人の心の花に、「どうです、良え文章ですなあ」、 「名文です」 風さえも吹きあわん、そんな空ろなる人の心に花があってもです、 「何とか訳した」 これまでの慣れる事のない辛い年月に、哀れと聞こえてきた言の葉草、「花に葉ですね」 今ここに草の葉っぱ、一枚、また一枚と見ながら、それらを忘れてやしやまへんでえ。 そんな事から、私かてこの世を去って行くのがならいですやんか、 「急に砕けます」 亡き人を偲んでいても、もはや他人事ではあらしまへんのが哀れ。 「もう近いでえ」 さればですわ、白い生糸がこれから染められるのんさえ悲しい、 「もう何でも悲しい」 畑道が、二つに分かれ道に離れるのんさえですわ、 「悲しいですか?」 嘆きの種になりはる人かて、ありまっしゃろな、という事です。 「嘆きときました」 堀川院さんが百首読んでる歌の中に、 「歌の中に」 昔、好きやった女の家、垣根が荒れてしもうた、 チガヤ混じりに菫だけ。 「菫とはエエです」 さみしさが、手に取るようですわ。そんな事もありましたんやろうなあ。「菫さんですわ」 |

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初めまして。
偶然通りかかりました。
面白い訳で楽しく読めますね。
ありがとうございます。
2014/3/28(金) 午前 8:21