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『海と毒薬』  遠藤周作   講談社文庫   1958/2011
 
 

ちょっと前、

ナインティナインの矢部さんが「気胸」になったという。
 
私は、「気胸」と聞くと、まず一番に
遠藤周作の『海と毒薬』を連想する。
高校生の時、この作品で「気胸」という単語を
始めて知ったということもあるが、仮に初でなかったとしても、
この小説での「気胸」のインパクトは大きかった。
 
そこで思い立って、高校以来、もう一度読んでみた。
高校生の時に読んだのは、ちょっと早すぎたかなと

常々思っていたので、タイミング的にもちょうど良かった。

 
 
まず端的に言って、中高生には少々刺激が強すぎる
という当初の印象も正しかったと思う。しかし今、
大人向けとして読んでも、生理的・倫理的に
居心地が悪い作品だという感想に変わりはなかった。
年齢に関係なくあまり人にはお勧めしにくい作品だと思う。
 
私はあまり小説は読まないが、あまりにも露悪的という気がする。
古典小説にはありがちなのかもしれないが、
完全フィクション(ファンタジー)ならともかく、
リアリズムを装っているだけに、非常に引っかかりを覚えてしまう。
登場する人物がことごとく性格最悪であり、
まるで共感することができない。
考えるに、ありえる一つの解釈としては、
「戦前戦中の劣悪な社会・異常心理状態の告発」
という前提テーマを設けることだろうが、
作者の意図および解説によると、
そういう読み方は誤りらしい。
 
 
本作品の理解が困難である理由は、
医師であり作家である夏川草介氏の解説を読むとよくわかる。
夏川氏の解説に本作への私の違和感が凝縮されていると
いっても過言ではない。
 
夏川氏の解説の要旨はこうだ。
 
 「本作のテーマは“戦時中の異常心理”などではなく、
“良心一般”の問題である。」 
 
   ↓
 
 「一神教の西洋社会には、ゆるぎない良心がある。」
 
   ↓
 
 「多神教・無宗教の日本人には、良心といえるものが存在しない。」 
 
   ↓
 
 「最近の若い人は『海と毒薬』を読んでも意味がわからないらしい。」
 
   ↓
 
 「日本人の良心の荒廃は、憂うべきほど進行している。」 
 
以上である。夏川氏の個人的信条とはいえ、
なんとも爽快な偏見思想じゃなかろうか。
紋切り型で恐縮だが、キリスト教やイスラム教が歴史的に
どれほど人権無視の諸行をおこなってきたことだろう。
近現代の西欧社会でも、人心荒廃や非道犯罪の事象など
いくらでもあると思うのだが、一体どう位置づけるのだろうか。
 
一方で、“日本人には良心といえる道徳律がまるでない”とは、
なんとも日本人・東洋人を馬鹿にした言い分である。
とどのつまり、夏川氏の見解の行き着く先は、
「日本人も良心を持つためには、全員、キリスト教(一神教)に
帰依すべきである」ということになりかねない。
道徳哲学や倫理学の歴史ってそんなに単純だったのだろうか。
暴論だと思わざるをえない。
 
 
そんなことをあれやこれやと考えていたが、
新潮文庫の方を引っ張り出して、
その佐伯彰一氏の解説を読んでみたら、
これが説得的な名解説であった。
本作の長所も短所も的確に指摘されている。
『海と毒薬』を読むのであれば、
やはり普通に新潮文庫がいいということらしい。
 
それにしても解説一つでここまで本編の読後感に
影響が出てしまうとは、たかが解説されど解説だと
知ることになった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『カラー版 北斎』  大久保純一   岩波新書  2012
 
 
 
葛飾北斎の入門書。
 
葛飾北斎に関する本はすでに無数にあるようだが、
定番といえる入門書は何かあるかというと、
意外とそう見つかるものではない(こういう状況はうんざりするほど多い)。
 
図版に重点を置いた便利な一冊というと、
平凡社・別冊太陽『北斎 決定版』があるが、
コンパクトな読み物とはいえないという弱みがある。
 
新書でしかも、カラー版となればありがたい。 
 
 
評伝風に生涯を解説しながら、
図版も60点ほど収録している。
 
本書の特長は、
葛飾北斎に関する珍奇な雑学的エピソードは少なめにして、
その画業に焦点を絞り、その画風の変遷、
他の画家との相互の影響、出版業界との関係などに比重を置いて、
オーソドックスかつ丁寧に説明しているところにある。
 
北斎は誰から学び、北斎に誰が影響を受けたかの
相関関係が比較的詳しくわかるように配慮されている。
また、出版時の広告など出版状況もバランスよく触れられている。
 
 
この本で改めて学んだのは、
北斎が日本を代表する「画家」の一人であるということ。
一般的認識の「浮世絵師」という狭い範囲ではとうてい収まらず、
その画業の守備範囲は想像を軽く超えて多彩であり、恐ろしく豊富である。
世界にも通用する人物であることがよくわかった。
 
なかでも幾何学的なデザイン構成を意識的に研究していて、
遠近法の説明図まで独学で作成していたことには驚かされる。
 
 
画風,役職,住居など何物にも縛られることなく自由に生き、
90歳まで向上心を維持し続けた生き様は、尊敬したくすらなる。
 
 
入門書としては良書、広く読まれるべき一冊だと思う。
浮世絵師や日本画家だけでも、
まだまだ世に広く知られるべき人は無数にいるはず。
これからも岩波新書カラー版で人物評伝をどんどん出してほしい。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
『徳政令』   笠松宏至   岩波新書    1983/2007
 
 
一見してわかるとおり日本の歴史に関する本なのだが、
同時に、勝俣鎮夫『一揆』と同じく、
“中世日本の法律”に関する一冊でもある。
こちらもとてもおもしろい。
法律を勉強している人にもぜひ薦めたい。
 
 
「徳政令」という歴史上の事実を一つ取り出し、
そこから掘り起こして、中世の法文化について
様々なことが描き出されている。説明は順を追って丁寧であり、
古文書から歴史を紐解いていく過程を一部疑似体験することができる。
著者は「吾妻鏡」など中世史研究の権威の一人なので、
その見識も確かなはずである。
 
 
歴史学の本ながら、取りあげられる事件は生き生きと、
臨場感にあふれていて、飽きさせない。
中世鎌倉の人々が、どのように法律を使い、
訴えを起こし、主張立証をしていたかなど、
なかなか他では見ることのないエピソードが豊富。
利息の決め方や質権の考え方などにも触れいてる。
 
 
その上で徳政令がいかに日本の中世法の中で
特異であったかが説明されている。
徳政令は誰が見ても“非合理で、理解困難な法令だ”という
常識的な発想から出発して、にもかかわらずそれが
圧倒的な存在感を持ちえた理由を、
時代背景,社会背景から丹念に解き明かしていく。
やや言葉が難しかったり、叙述が錯綜して読みにくいところもあるが、
そういうのは適宜流して読んでも、
概ね興味深く面白いのではないかと思う。
 
 
安達泰盛の司法改革にも触れられている。
公平と迅速という、現代にも共通した目標を掲げる
民事訴訟改革が中世日本にもあったことには驚かされることだし、
それを途切れ途切れの数少ない古文書から読み解く作業も興味深い。
 
 
なぜ徳政令などというものが効力を持ちえたか、
なぜここまで人口に膾炙するまでになったのか。
すっきり正答が得られるものでもないし、
かなり限定された問題設定にとどまるが、
法制史学のおもしろさを端的に素描した
おもしろい一冊だと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
『ふしぎなキリスト教』  橋爪大三郎・大澤真幸  講談社現代新書   2011
 
 
中央公論の新書大賞2012において、
2位以下を引き離してぶっちぎりの一位を獲得した作品。
特に興味はなかったのだが、圧勝1位ということで
さっそく購入して読んでみた。
 
 
この論者二人で“キリスト教”というのが
まずちょっと違和感を感じるはずのところだが、
当のお二人はきわめて強気である。
大澤氏は橋爪氏を「日本でもっとも信頼できる宗教社会学者」
と賞賛し、自身も知識を多く持っていると自負する。
そしてできあがった本書は、“初心者から知識人まで納得できる”
“まちがいなく面白い本”と言ってはばかるところがない。
そして本の目的は“無知な日本人に対して、
近代の常識をお教えする”というものなのである。
ここまで自信満々な本はなかなかないのではないか。
 
 
しかし、好調な売り上げに反し、
聞くところによると専門家からの評判はすこぶる悪いらしい。
「橋爪大三郎が宗教社会学の第一人者だって?、なんぼの者だ!」
と反発があがることは、素人目に見ても大いに同感である。
ただ、キリスト教をまじめに、でも宗教者との軋轢に
屈することなく論じるのはかなりやっかいなことであって、
なかなかそんな人はいないのも事実。宗教者になることなく、
社会学として宗教を語れる人は誰かと消去法で探していくと
橋爪氏しか残らないということだろう。
大澤氏が、「痛快で笑ってしまった」というのは
そんな“しがらみのなさ”にあるのかもしれない。
 
 
ただ、そのように人選を大目に見ても、
はしがきのようなすごい内容にはほど遠いと思う。
文献を多く駆使したり、各方面に取材することにより
実証的に研究した業績というわけでもなく、
二人の社会学者が、ほぼ即興で予想と推理によって
長々と対談しているだけの本だから。現に、
「おそらく…だと思います」とか「…と思われるが、
よくはわからない」という発言がほとんどで、
大澤氏はときにちゃかした感じすらにじませる。
 
例えれば、“東大生の秀才二人が放課後に
楽しくおしゃべりしたものをノートに書き起こした”
ものに近いといっても、あながち間違いではないだろう。
読んでいても、なるほどそういうことかと納得いくわけもなく、
解釈論もそれで本当にあっているのか確信の持ちようがない。
 
 
肝心の「キリスト教を理解せずして、近代は理解できず」
の説明もはなはだ不満足な内容である。というか
ロックとかルソーとかカントとかいった思想家と
キリスト教の関連性が大いに論じられるものと期待していたのに、
それがぜんぜんない。これでよく日本人に近代を教授する
なんていう大仰なコンセプトをぶち上げる気になったのか、
そっちが不思議である。“唯一絶対の一神教”も
“偶像崇拝の禁止”もどんどん例外と応用が投入されて、
一貫性がぐずぐずな宗教にしか見えなくなってしまっている。
 
そして、終盤駆け足で著者の持論が叩きつけられるが、
「キリスト教を知らないとどう社会生活で困るのか」という
当初の趣旨はすっかりぼやけてしまっている。
 
 
確かに西洋近代が歴史的にキリスト教を
下敷きにしていることは否定しえない。
しかし、この本を読んでも、現代社会にキリスト教原理が
津々浦々に決定的影響を保持しているようには思えないし、
日本人が今からキリスト教教義を学習する意味があるとも、
結局思われなかった。
 
 
 
 
 
 

 
 
 
『宇宙は本当にひとつなのか』  村山斉  講談社  2011
 
 
 
『宇宙は何でできているのか』(幻冬舎新書)で
中央公論の新書大賞2011を獲得した村山斉教授が
書き下ろした、最新の宇宙論の入門書である。
ブルーバックスに登場ということでさっそく読んでみた。
これは確かに売れる作家さんかもと納得した。
 
 
とにかくわかりやすいし、面白い。
すごく親しみやすい話題からつなげて、
最新の宇宙物理が紹介されている。
 
数式はぜんぜん出てこないうえに、
数字も小難しいものは避けられている。
難しくなりそうになっても、必ず日常的な事柄に
例えて説明してくれるのが極めて親切だった。
太陽系や天の川銀河の仕組みから説きだして、
そこからニュートリノやら暗黒物質などという
宇宙の果ての研究へと話を進めるのもうまく、
素人でも無理なくわかった気持ちになれるようになっている。
 
模式図やイラストの使い方もぬかりはない。
理数系の本では、せっかく親切で図表で説明してくれても、
その図表すら難しすぎるということがままあるが、
この本ではざっくりと単純化されたものしか使われておらず、
文系にもやさしい。
 
 
細かくて正確なところ、
したがって難しいところには立ち入らず、
ほんとに素人でも飽きないように書いているところに、
文才を感じる。
 
そのため、際限がないのでいちいち挙げないが、
豆知識(トリビア)として役に立つことが
大量に盛り込まれている。
難しい専門議論は、読み手にもわかりにくいが、
さらに読後にそれを人に伝えることも困難ということになる。
だがこの本の表現なら、読者が友人や子どもに
なんとなく感じを伝えることもできるだろう。
 
 
わたしはこの前に、
佐藤勝彦『宇宙論入門』(岩波新書)を読んだことがあるが、
あちらは私のようなド素人にはまだまだ全然難しく、
半分も理解できなかった。
あれは「理系の入門書・ファンの参考書」というべきだろう。
それに比べて本書は本当に、「素人市民のための入門書」
という意味で成功していると確信できる。
手法として、佐藤本がものすごく果てしもないことを
中心に説明するのに対し、本書は身近な話題から
説明している点がわかりやすいのだと思う。
 
 
なお、サイクリック宇宙論に対して
著者は否定的らしい。まだまだ先端の領域は
研究者間で意見はまとまっていないようだ。
 
 
 
 
 
 
 

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