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『民事訴訟法』 長谷部由起子 岩波書店 2014
民事訴訟法の新たな標準的教科書が岩波書店から出版された。
本書は俄然注目されていいテキストである。第一線で活躍する著者が、満を持して、オーソドックスに、単独で執筆したものだからである。民事訴訟法のベーシックテキストはいろいろ出されているが、とりあえずほとんど無視して本書を手に取れば間違いないであろう。著者は5年前に、有斐閣アルマシリーズから3人の共著として標準テキストを出しているが、本書により更新がされ、アルマもスルーしていいことになったといってもいいと思う。
本書の特徴はきわめてオーソドックスだということである。PR文によれば、様々な工夫を図ったと意気込みが書かれているが、一見したところでは、あまりその気配は無い。だがそれでもいいと思う。
本書の注目点として、まず第一に、アルマと違い「訴訟要件」と「多数当事者訴訟」の章が独立に立てられていることである。これは、旧来のマナーに倣ったものであり、これはこれでまちがいないと思う(この方式に戻したということは、アルマの構成は長谷部教授の本意ではなかったということか)。第二に、「非訟事件」や「国際裁判管轄」が最後尾に回されたことである。これは私も念願していたところであり、いいと思う。多くのテキストの冒頭に「非訟事件」や「国際裁判管轄」が置かれていることには前々から違和感を感じていた。なお、手形訴訟は独立の項目としては置かれていない(まあ、手形自体が落ち目なので…)。
あえて難をいえば、第一に、約400ページで、分量がややこころもとないこと。全範囲を扱うなら、500ページ前後くらいあったらよかったと思う。第二に、はしがきで、ご多分に漏れず、「眠素」解消を狙ったと述べられているが、その解消策が不明確であることである。オーソドックスで、民事訴訟法学を面白くするような目を引くところは特にないようなのである。
さて、これで、民事訴訟法学のスタンダードテキストは、有斐閣の「リーガルクエスト」と本書のどちらか、ということに絞られそうだ。両者は一長一短である。「リーガルクエスト」は東大,京大,慶応の先生が書いていることと、内容がかなり充実していることが長所であるが、逆にいえば、共著ものであり、かなり分厚いことが欠点といえる。逆に本書は、有力者の単著であり、シンプルにまとまっているという特長がある。どちらを選択するかは好みの問題だが、この二書以外は、「自分の先生である」という観点を除けば、選択肢には入らないことになりそうだ。
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民事裁判の本
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『やさしい民事執行法・民事保全法』 小林秀之・山本浩美 法学書院
『やさしい民事執行法・民事保全法』がリニューアルされた。
しかしよく見ると、なんと著者が代わっている。
またまた顔を出してきたのは、おなじみの小林教授だ。
せっかくリニューアルするチャンスだったのに、
むしろ、終止符が打たれたように思う。
この法学書院「やさしいシリーズ」の唯一にして最大のウリは、
「とにかく薄くて、あっさりしていること」だと思う。
詳しさ、新機軸、権威付けなどは特にないし、期待もされてはいない。
前任者である飯倉一郎教授のときは220ページくらいだった。
ウリになり得るのはそこだけだが、それがいいところだ。
実際、司法書士試験の予備校テキストなどを見てもわかるように、
司法試験、司法書士試験などの短期まとめ用として、
または、大学生や社会人などの一般教養としては、
200ページ程度があるとけっこう便利なはずだ。
ところが、今回のリニューアル版は、320ページである。
前書きによれば、意図的に標準テキストとして執筆したらしく、
入門書に徹する気はなかったと明言している。
これでは、すでに何冊も出ている類書と何ら変わらない。
ご自分の講義用に整備したのだろう。この出版不況の中では、
講義での使用を手堅くあてこむのはしょうがないのかもしれない。
ただ、教え子ではない身から判断すれば、
ただただ、一般向けとしては台無しになったと思う。
あっちこちに手を出すが、質より数な上に、
執筆のコンセプトが独自すぎる感性によって成り立っているため、
どうもうまくいっているように見えないのが
小林教授の一連の著作だと思うのだが。
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『条解民事訴訟法(第二版)』 弘文堂 2011
日本における民事訴訟法の解説書としては
至高の一品といっていいと思う。
日本の民事訴訟法学を確立した兼子一が1951年に原書を書き、
その後1986年に、弟子である松浦馨,新堂幸司,竹下守夫の三氏が
大幅に改訂したものを、この度、さらにその弟子である
高橋宏志,加藤新太郎,上原敏夫,高田裕成の4氏が
手を加えて成ったのが、このコンメンタールである。
当初からの方針により分冊はせず、条文からはじめて
判例や学説の解説まで、1冊にぎゅっとまとめられている。
何かと情報が分散しがちな社会科学において、
こういうのが一冊作られて、引き継がれている
民事訴訟法学はすごいと思う。
そうそうたるメンバーを見れば一目瞭然だが、
“民事訴訟法の広辞苑”という感じである。
定義や通説的解釈などを知りたければ真っ先にこの本で
調べてみるのが王道とみていいのではないだろうか
(容量の都合上、必ず答えがあるとは限らないが)。
教科書的な重要判例や論点の解説ならほとんど網羅され、
多角的で詳しい解説がなされている。
条文にとどまらず、明文にはない部分の争点も
反対説を交えながらしっかり取り上げられている。
参考文献の注記も多いし、索引も一通り完備している。
1冊の本でできることは全部やっているという感じだ。
どのような本でも「これじゃ足りない」という意見は
不可避ではあろう。もちろん、今後、全5冊とか全10冊とか、
本書よりも詳しい注釈書が出てくることはあるだろうし、
実務家さんや学者さんはそういったものでないと
満足できないかもしれない。ただ、いずれにせよ、
「実務に向いている」とか「この点の解釈が詳しい」とか
「判例紹介が多い」とか、解説書の長所短所を語る上で、
本書がそういった価値評価の中心を担うだろうと推察される。
今後しばらくは、「民事訴訟法の体系書の決め手はどれか」、
「いいものは出ないのか」、などと(私のようにそういった
“不毛な品評会”を趣味にしている人もいるだろうが)
悩む必要はなくなった。
正直2万円もする高い本なので買う人は少ないだろうが、
民事訴訟法のこれまでの総まとめとして、
手元において損はないと思う。
最近、法律情報もどんどん電子化されていて、
紙の本は減少していく運命にある。そんな中でも、
こういうメルクマールとなる注釈書・事典には
末永く生き残ってほしいと思う。
民事訴訟法は本書を含めてコンメンタールは多く、
会社法や刑法も解説書が豊富。『条解破産法』もすごそうだ。
となると、あとは『条解憲法』とか『条解民法』(全3冊くらい)
が出たらいいのになあと強く思うしだいである。
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『新民事訴訟法講義』 中野・松浦・鈴木 編 有斐閣
いわずと知れた、有力な民事訴訟法の
学者先生大集合で書かれた
民事訴訟法の定番教科書です。 この本、実は1998年の
民事訴訟法大改正のときに
大きなメンバーチェンジを経ています。
昔は三編者と同世代の先生方で 書いていたらしいです。 ご覧になってわかるとおり、
主要メンバーは、昭和初期〜25年生まれであり、
今では皆さん本務校を定年退職されています。 そちらを使っている人も多いでしょう。 そろそろ、長谷部由起子教授あたりをリーダーとした、 “第三期・民事訴訟法講義”が出ることを、 期待したいと、個人的には思っているところです。
執筆者一覧 |
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『民事執行・民事保全法』 中西・中島・八田 有斐閣 2010 |


