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物売りの少年は、まだ10歳ぐらいだった。
イェシュアがソリに1人座って、物思いにふけってるのを、彼は歩きながら怪訝そうに見ていたが、
通りすがりに彼を呼んで、顔を自分に向けさせる。
「ねぇ、大将! そうそう、こっち見なよ。あのさ、この魚、2,500でどう。安いだろ?」
少年はじっと見つめるイェシュアにバケツから出したカレイを見せる。浜辺にできた潮だまりで
捕まえてきたものらしかった。
イェシュアは、なんとなく勘で状況が読めたが、携帯ゲーム機を通して確認してみることにする。
イェシュアが翻訳した結果を少年に見せると、自分の理解できる言語を見付けて、たどたどしく
読み上げ始める。
「このー、・・・この、さ? 魚・・・この魚、いくらで、か?・・・買う?・・あ、分かった・・・
この魚いくらで買う?って訊いたと思ってんだな、このおやじ。」
少年は字がやっと読める感じだった。
彼はがっくりした様子で一呼吸置いてから、イェシュアに大きな声で怒鳴った。
「外国の旦那!!米ドルだったらあるでしょう!・・・特別2ドルでいいよ。」
イェシュアは少年の言葉が理解できなかった。少年は、しきりに指を2本立てて詰め寄るように
迫って来る。しかしそんな身ぶりも、イェシュアにはまったく理解不能だった。
「旦那!ふざけちゃいけないよ、こっちが子供だと思って。ドルだよド・ル!、分かるだろ。
この指見て、そんでドル!」
少年の手に揺れるバケツの中で、カレイたちがぐるぐる泳ぎまくっている。
少年はかなり食い下がったが、さすがにもう無理だと諦めたようで、うつむいてとぼとぼ歩き
出した。
イェシュアはそんな少年を不憫に思って、自分がサンタから渡されていた携帯ゲーム機を、彼に
あげることにする。
少年は夢のようなゲーム機を手にすると、大喜びしてぴょんぴょん飛び跳ねた。
イェシュアはそんな彼に、翻訳の機能も見せて、使い方を実演する。
「へぇー、これすごいや。・・・でも俺は、このゲーム機を高く売って、生活の足しにするよ。
本当は、きちんと読み書きできるようになりたいんだけど。でも学校行く余裕がないし、他に
どうすりゃ勉強できるのかな。・・・まぁ、いいや。」
少年はやっと子供らしい笑顔になって、イェシュアに笑いかけた。
イェシュアはそんな彼の頭を黙って優しくなでた。
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