猫瓶

8/20本日をもって、休止とさせていただきます<(_ _)> が、今日8/24みたいにうpすることも^^

ヒユの界 (凝縮世界から)

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全7ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

[ 次のページ ]

  どれぐらい時間が経っただろうか。レアとイルメヤを乗せた宇宙艇が、無事にどこかへ着く。
  二人はそのことに気づくと、酔いが醒めたように急いで服を着て……出口へと向かった。




  二人で一緒に扉を開く。次の瞬間、一面に広がった光。おもわず目がしらに手をやる二人。
(朝? 朝の匂い、でしょこれ?) 
  だんだん目が慣れてきて、二人の視界に外の光景が浮かび上がる。
「きれい……」
「ほんときれい」
  思わず口走った二人。
(あれ、言葉が戻ってる……それも幸せな気分で)
  お互い顔を見合わせて、そんな自分たちのことをクスクス笑い合う。
「言葉、もう使わないんじゃなかったの?」
「そうだったね。……でもしょうがないよ。『き・れ・い』なんだから」
「うん。ほんと『きれい』な世界」
「出よっか?」
「うん」

  言葉が二人に戻る。新たな生の感動のうちに。
  以前、言葉は「エゴの道具」にすぎなかった……でも、一度体を一つにした二人にとって言葉は……

  宇宙艇の機内で激しく愛し合う二人。飾った言葉など忘れて、お互い素のままで欲望に溶けあう。と同時に外ではステーションコロニーからの迎撃で、次々に「仲間」の機体が閃光をあげて消えていった。
  レアは大好きな少年の、あのきれいな顔の動きを身体に感じながら、すべての思考を止めて、ただひたすら感覚を研ぎ澄ませていた。自分たちが今、死の縁をさまよっていることなどまるで関係ないように……。愛に遊ぶ二人。



「ちょっとそこ! 取り逃したよ!」
「やばっ! ダメだ、もう次の来た」
  迎撃オペレーターの女性がいらいらしながら仲間に言う。
「神経もたない」
「だれかさ、『自動迎撃システム』とか考えてくれないのかなぁ」
「そうね。私たちの仕事って、べつに『職人技』とか要らないんだから」
  別のオペレーターからの声。
「もうそろそろこの一波も終わりだよ。……でもさ、いつも不思議なんだけど」
「何が?」
「あの中で、敵のカップルって何やってんのかなぁって」
「そんなの、決まってるじゃない」
「じゃあ……あれ?!」
「そうよ、そのためにカップルで宇宙艇に乗るんだから」
「マジで? こんな死と隣り合わせの中を?!」
「たぶん、あいつらも外のことなんかよくわかってないわよ。仲間が撃ち落とされてるなんて、それも『あれ』の最中に……」
「何それーっ」
「うらやましい?」
「……ってかマジ引くんだけど」
「そうだよ、ほんとあいつら何考えてんだか」
「ぶっちゃけ、そう思ってる?」
「……」
「イクときに死ねたら……どう?」
「……ちょっと、羨ましいかも」

  レアはイルメヤを広大な建造物の中へ誘う。
  少年の視界に、いきなり飛び込んできた広い廊下と、そこを行き交う無数の女性の姿。
  レアは時々ふり返りながら、その中を進んでいく。
  明るい構内。靴音や剣が鎧と擦れ合って出る音以外は、ほとんど音がしない。
  もちろん話し声もなかった。そんな中を、ただ女性ばかりが通り過ぎる。
  まもなく、少年はホールのような開けた場所に出る。
  するとレアは、近寄ってきて少年の手を優しく握ってきた。
  見つめ合った二人。停止している思考の奥で、少年を捉えたある種の直感……。
  気づいたら、ホールには数機のロケットが並び、カップルたちが案内の女性の誘導で、先端部にある小型宇宙挺に乗り込んでいる。
  少年のすぐ横でレアが微笑みかける、無言のまま……。ボーっと見つめ返す彼を、レアは優しく抱擁する。レアの体温を感じる少年。彼女は、温かかった。少年の中で、あの直感が確信へと変わる。
  そして、案内の女性たちが二人のところにもやって来た。
  キスをしていた二人は、連れだって女性たちの後について行く。
  無言の中で、なにも躊躇(ためら)うことなくすべてが進む……。
  二人はロケットにたどり着いて、中へと乗り込んでいった。愛を確かめあうために……。



ちょうどそのころ、ステーションコロニーの迎撃班の一つが色めき立っていた。
「『結婚飛行』なんて誰が言い出したの?」
「さぁ」
「まったく、ロマンチックな呼び名よね! でもほんとはまるで別物で、マジ迷惑」
「ほら、来たよ次の一波が!!」
「ほんと害虫だよ。害虫はちゃんと駆除しないと……」
  ステーションコロニーで、「結婚飛行」を迎撃する女性オペレーターたちが、迫り来る新たな一波に照準を合わせて見守っていた。

  砂色に朽ちた街なみが続いていたイルメヤの視界に、突然、驚くほど美しい光景が広がった。
  いきなり現れた一面の草原。今さっきまでの乾いた死の街の光景が嘘のようだった。
  前をレアが歩く。絶えず彼女から「癒されている」感覚がする。イルメヤはただ無言で、その心地よさに酔いながら、彼女の後に夢中で付いていった。
  時々、レアが振り返る。フルフェイスは取っているが鎧姿。それは明らかに敵兵のものだった。でも……今のイルメヤにはもうそんなことなどどうでもよかった。
  ただこの癒しがずっと続いてて欲しい……それだけの気持ちだった。
  二人は言葉もなく、一定の距離で緑の中を進んだ。

そうだ……

言葉に何の力があるだろう

人が言葉を使い始めるのは

人を理解するより前に

まず、自分の意思を主張するため。

そして成長すれば今度は

人に自分を認めさせようと

言葉を使ってあれこれたくらむ

人は言葉で傷つき、人を傷つけ

言葉で乗せられ、人を乗せて

自分を生きている

結局、言葉は

自分を生きるために

虚しく消費されていく

エゴの道具にすぎないんだ……



  イルメヤは思考が停止した。
  彼の中の「我(われ)」は「停止」して、言葉の働きも止まったのだった。
  「言葉ーーエゴの道具」から解放された瞬間だった。

  それから数時間がたって、午後の陽も大きく傾きかけていたころ……。
  4人の女戦士たちが、やっと場所をつきとめたような感じで角を曲がってくる。
  それは……ハンナたちだった。あの兵員輸送船で少年と一緒だった……
「どう? 機械に反応はある?」
「うん。私たちの部隊が試したフェロモン用装置と同じものね」
「あれを着けてたのはたしか……」
「『レア・ヒユの界』」
「そう! 部隊本部からの通知にあった。でも、……その人誰なの? ハンナ」
「私、会ったことはないけど噂は聞いてるよ」
「で、誰」
「そうね。『ヒユの界』部隊からすれば裏切り者ね。でも彼女の処遇には、今でも部隊内で異論があるらしいの」
「裏切り者? やばいじゃんその人」
「この現場見ても分かるでしょう。彼女は敵に寝返って、部隊の切札のイルメヤ少年を、ここから連れ去ったのよ。それも、自分が部隊から托されていた新兵器を利用して。つまり、フェロモンで少年のことコントロールして……」
「彼女が私たちのイルメヤくんを!? 許せないそんな女」
「ちょっと……」
「えっ!?」
「あれ、見て」
「砂が覆ってるみたいだけど、……サラ?」
「そう、それに……」
「うん。あれは、戦士の正しい葬り方ね。剣を抜き身にして、仰向けの遺体の上に載せてある」
「そのレアって女がやったのかな?」
「たぶん違うと思う。彼女はイルメヤ君に、サラとの最後のお別れをさせたんだと思う」
「じゃぁ、イルメヤくんは自分でサラを葬ったあとに、承知でレアって女についてったわけ?」
「たぶん……そんな感じだろうね」
「あの子がそんな浮気野郎だったなんて! サイテー」
「フェロモンのせいで、しょうがなかったんだろうけどね……、男なんてみんなそんなもんだよ」
  ハンナが報告のために、携帯端末で現場の状況を淡々と写し始めた。

 

全7ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7]

[ 次のページ ]


.
mentsh
mentsh
男性 / B型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

過去の記事一覧

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事