|
秋の日は、早く暮れる。
美子は、いつもより早く夕食を終えた。
猫のミミを抱いて、しばらくテレビを見た。
K公園にある大時計が、もう少しで十時を打つ。
美子の心は揺れている。
苦しそうな表情をしている。もう一人の自分と闘っているのだ。
オンナ同士の闘いである。
変わった相手だ。二流の神である。人の感情をつかさどっている。
神だから人を負かすことが、しばしばである。
美子が強盗をするのは、そんな時だ。
美子は公園の片隅で、今日のエモノが通りかかるのをじっと待っている。
木陰にいる。
紺のスーツの上に、コートをはおっている。
活動的な服装をすればいいのだが、もう一人の美子、ヴェサイアの美意識が許さない。
美と愛の神ヴィーナスを嫉妬したといわれる神である。
神の世界でも、きれいごとばかりではなさそうだ。
格下の神もいる。人間くさい。妬み。嫉み。憎しみ。負の感情に満ちている。
ヴェサイアはそのひとりだ。
どうやら美子が気に入ったらしく、彼女の心の中にいすわっている。
時折、美子のスピリットといさかいを起こす。
「あなたね。いつまであたしのなかで居座る気なの。早く出ていってよ。おかげであたし、困ってるのよ。あんたは神様の仲間だから、とやかく言われれないだろうけど、無理やり人から物を奪うのは、人間界ではご法度なの」
「ごはっとってなによ」
「なんて言ったらいいのでしょうね。オリンポスの山にいらっしゃるゼウス様が怒るの。わかるでしょ」
「わかった。あんたよく知ってるのね」
「あたしも、光りものが好きよ。女だから。でもね、あんたみたいに人様のものまでほしくないわ。暴力まで使って取るんだもの。あたしその度に心臓が止まりそうになるわ。もう死んじゃいたい」
「いや、しんじゃいや」
「それじゃあたしの言うことをよく聞いて」
「はい」
「あたしは、一生懸命働いてお給料をもらうの。少ないけれど。それをこつこつ貯めて、お店の人に、これくださいって言うの。大きな顔をしてお金と交換するのよ。あんたみたいに、こそこそしないわ。あんたがそこに来てからあたし、調子がおかしくなっちゃったわ。なるべく早く出ていってください。お願いします」
「ううん。考えておきます」
「あんまりひどいことをすると、ギリシャまで行ってゼウス様に言いつけますからね」
「ああ、それだけはやめてちょうだい」
「あたしが警察に捕まったらあんただって困るんじゃないの。ほしいものはもう手に入らないわよ」
美子は、さっさと逃げられるように、運動靴をはいている。
ネズミをねらう猫のような仕草だ。
若い女性を狙っている。
こんなに遅く、ひとりで歩いている女はめったにいない。
今日は収穫ゼロかな。もう帰ろうかな。
すぐわきが、歩道になっている。だれか通りかかれば、後ろから襲いかかるつもりでいるのだ。
南門のすぐ近くに隠れている。
諦めかけた。
一台のタクシーが通りかかった。
歩道に寄って止まった。
後部座席からだれかが下りる気配だ。
身をひそめた。
女だ。
ようし。待っていた甲斐があったわ。あれが今夜のエモノだ。絶対逃がすものか。身構えた。
こちらに向かってくる。
美子は常日頃少林寺拳法を習っている。護身用です、と言っている。
実は攻撃用だ。
辺りは真っ暗闇である。
美子のいるそばに街路灯がある。そこだけが明るい。
ぼんやりと周りを照らしだしている。
美子は猫ではない。暗闇では見えない。
エモノの足が目に入った。
飛びかかろうとした。
ウウウ。ウウウウウウウ。ワン。ワンワン。
犬を連れていた。
美子はのけぞった。後ろに転がった。
「何なの。ジョン。そこにだれかいるの」
女がチェーンの先を、持っている。
犬を止めている。
離されたんじゃ叶わないわ。
よし。今だ。逃げよう。まだ女は気付いていない。
犬は敏感だ。嗅覚も聴覚も超能力の一種である。
日頃の悪口が聞こえているんだわ。犬には嫌われているに違いない。
ここは出直しよ。
出来るだけ音を立てないように公園から離れた。
危なかったわ。今度からもっと注意しよう。
K刑事がそばで一部始終を見ていた。夕方から美子に張り付いていたのである。
茂のカンを信じた。さすがである。本物は本物と認めるのだ。
そこが偉い。
長年刑事稼業をやっているだけのことはある。
ううん。茂の言うとおりだ。まさか同じ職場に犯人がいるなんて信じたくないが、仕方がない。
今日のところは物取りに失敗したようだから、もう少し泳がせておこう。また明日だ。うちの署で逢えるぜ。
俺はちょっと美子が気にいっていた。コーヒーを入れるのがうまい。いつか食事にでも誘おうと考えていた。よく思い留まってくれたよ。現行犯だし、逮捕しないわけにいかないもの。目の前で犯行に及ばれたんじゃ。二度とやらないでくれ。お願いだから。
好きなんだ。
美子は足をくじいた。
アパートに、ようやくたどりついた。
ドアを開ける。
戸口ですわりこんだ。
猫のミミはいない。
夕方帰ってこないので、ドアを閉めてしまっていた。
|

- >
- エンターテインメント
- >
- 超常現象
- >
- 都市伝説



わぁ〜〜〜どうしょう〜〜。。。
。。。困った私足を怪我しました。。☆
2011/2/21(月) 午後 1:12 [ kotuko ]