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ルルルルルンルンルルルルルルン。
ポケットの中で、メールの着信音が鳴った。
A子は運動場わきのテニスコートにいる。
右手でラケットを持ち、素振りをしている。
夏の大会に備えた練習をしている。三年生にとっては最終試合である。
後輩のF子が近寄って来た。ジャージの上着を持っている。
「先輩。ケータイに着信があったようですよ」
「ふうん。ありがとう」
上着を受け取り、椅子にすわった。
タオルで汗をふく。
ケータイを開いた。
親友のE子からであった。
これは不幸の手紙です。
そこまで読んだ。表情が曇った。
何でこんなメールをわたしによこすの。いつも仲良くしてるのに。一体どうしたというのよ。信じらんない。
ふざけてるの。自分は冗談のつもりかもしんないけど、送られた者は冗談じゃすまないわ。
それとも、あたしを本気でいじめるつもり。どちらにしても許さないからね。
今はやりの新こっくりさんね。
ゲーム感覚でやっても、人は傷つくのよ。
体を傷つけるよりも、その心を苦しめるほうが、その人に与える害は大きいのを知らないのかしら。
こんな手紙を他の誰かにまわせるわけないでしょ。
A子は、親友に裏切られたと思った。
涙がこぼれた。
このメールをなんとか処理できないかしら。
たとえケータイを壊しても、手紙にこめられた悪意は生き残るように思った。
そのとおりであった。手紙に込められた邪悪な意志がA子をとらえようとしていた。
そうだわ。新任の先生に相談しよう。それが一番いい。
A子は制服に着替えた。
職員室わきにある保健室を訪れた。
トントン。トントン。
「はあい」
すぐにH先生が返事をした。
A子が戸を開ける。言い出しにくそうにしている。
両手で髪の毛をいじっている。
先生は彼女の気持ちを了解した。
「さあ、何も心配いらないわ。気楽にしてね。どこか具合が悪いの」
「はあ、いえ。あのうS先生はいらっしゃいますか」
「ああそうね。いらしゃるわ。おとなりよ」
A子の表情が明るくなった。ホッとした。
ガラッ。
茂が戸を開けた。微笑んでいる。
A子は嬉しかった。今までは誰かにいじめられても、相談する相手がいなかった。友だちも先生も親にさえも心を開けなかった。辛い日々を過ごしてきた。自分が嫌になるときもあった。
「さあどうぞ」
椅子を勧められた。大切にしてもらえる。そう感じた。
「どうした」
S先生は、太陽のように明るい笑顔である。
A子は、事情を存分に話した。
「そうか。よく話してくれたね。ありがとう」
A子は泣いている。過去の辛い思い出も、きれいに洗い流された。
川の瀬に滞っていた小枝や木の葉が、新たに降った雨水に流されていくようであった。
茂はA子のケータイを銀色のホイルに包んだ。
F不動尊に向かう。一刻を争う。
時間が経つにつれて邪気が大きくなる。手がつけられなくなる前に粉砕しなくてはならないのだ。
首都高速に乗った。ラッシュ前であった。
空いている。
A子のケータイが、自ずから震えている。
発信の操作をする準備に入っている。だが、ホイルに邪魔されている。
発信出来ないでいる。
お不動様は、もうすぐだ。
茂は心のなかで祈った。ホイルが破られないようにと。
着いた。
ご本尊様のまえにすわった。目を閉じて、一心に祈った。
ノウマクサマンダバサラダン。
呪文が聞こえた。
辺りが、パッとフラッシュがたかれたように明るくなった。
ケータイが光に包まれている。
「茂よ。もう大丈夫だ。邪悪なモノは取り除いた。ご苦労じゃった。ケータイは子供に返すがよいぞ」
「ありがとうございました。お不動様」
「いつでも来るがいい。食魂鬼は、如来様のお力で引き下がったぞ」
「真に感謝いたします」
了
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