夢で逢えたらシリーズ

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花燃ゆる

 週末になると樹里はカメラを片手に郊外に出かける。
 近い所だと自転車だ。
 ペダルを踏むと心地良い。
 体の芯があたたまった。
 うつうつとした気分が晴れた。
 
 「A町の淡墨桜が見ごろよ」
 会社の同僚の利香が教えてくれた。
 「あなたも一緒に行かない」
 「あたしはちょっと約束があるの」
 「あらそう。残念」
 自転車じゃ行けない。遠いわ。
 車で半時間くらいかかりそうだわ。
 明日早速行ってみよう。
 花が散る前に撮らなくちゃ。
 
 朝から雨が降っている。
 春の雨だ。
 ひとしきり強く降った。
 止んだ。
 まるであたしのヒステリーのようだわ。
 カーッとくるけどすぐに収まる。
 Fがいなくなってから、症状がひどい。
 五年も付き合ったんだもの。
 忘れられない。
 夢でいいから、出てきてくれないかな。
 
 RV車で向かった。
 お寺の裏に休耕田がある。
 そこに車を止めた。
 ワゴンが一台あった。 
 年輩の夫婦が三脚を後ろから取り出している。
 「こんにちは。雨が上がって良かったですね」
 「こんにちは。晴れないのが残念だけど、それなりにいいのが撮れるわね」
 「はい、私もがんばります」
 同じ趣味を持つ人は、だれでも友だちである。
 
 桜の木の下に向かった。 
 中年の男とすれちがった。
 Fに似ている、と感じた。
 あたしは、ふっと笑顔になった。
 男は怪訝な表情を浮かべた。
 あたしってだめね。気をつけなくっちゃ。
 まだFのことを、あたしは。
 木の根元に立った。
 古木である。
 根元に大きな空洞があった。
 こんなになっても、いっぱい花をさかせようと頑張っている。
 いとおしく感じた。
 かあって、内側が燃えるのかしら。
 人間なら赤くなるのは分かるわ。
 血が赤いから。
 木を切ると、赤い樹液が出るのかしらね。
 ほんとに不思議。
 こんなに淡い紅色の花を咲かせるなんて。
 幹に耳を当ててみる。
 かすかにサラサラと、音がしたように思った。
 樹里は、体の芯がほてってきている。
 
 「こんにちは。いい写真が撮れましたか」
 突然男の声がした。
 先ほど道で逢った人だ。
 「これから撮るんです。今木に挨拶をしていました」
 「ええっ挨拶ですか」
 「ええ、被写体になってくれてありがとうって」
 「なるほど」
 男は納得したような顔をした。
 「きれいですねえ」
 男は手を幹に触れた。
 さすっている。
 生きているんだよなあ。
 男でもこんな人がいるんだ。
 樹里は思う。
 男が樹里の顔を見ないでいった。
 「桜が話したら、どうでしょうね。なんて言うかな」
 「どう。お気に召しましたか、って」
 樹里は思わず笑った。
 男も、声をあげて笑った。
 
 「初めて逢った人に変な話をするんだけどね」
 「ええ、なんですか」
 男は迷っている。
 「どうぞ。何でも言ってください」
 「真夜中に、この桜の木の下で女の人が手を振っているのを見た人がいるんだ」
 「ええっ、怖いお話ですね」
 「うわさだけどね。ほら、あれ。お墓があるでしょ」
 「火のない所に煙は立たないって、いいますよ」
 男が十メートルくらい先を指差した。
 「本当。気付きませんでしたわ」
 角柱の石で囲まれた大きな墓地がある。
 「怖いけど、なんだか素敵なお話ですね。未練があるから、そうやって出て来られるんでしょう」
 「そうだろうね。男の幽霊が手を振ったって騒がれないだろうけど」
 「色気がないわね」
 ふたりはいつのまにか、気持ちが通じあっている。
 
 あたしだって、彼に逢いたいわ。
 手を振って招いてくれるんだったら。
 一緒にあの世に行くのは、いやだけど。
 ゴーストって映画を見たわ。
 素敵だった。
 ハートがじんじんしたわ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閉じる コメント(2)

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桜に男より女を感じるのは男だけなのでしょうか汗
女性に是非聞いてみたいところです笑

最後まで貫いた部分がとても好きです。

2011/4/10(日) 午後 6:00 [ 竜次 ]

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こんばんは。
そうですね。
そういう物の見方は大切ですね。
父けっさん

2011/4/10(日) 午後 9:32 [ けっさん ]


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