生まれ変わり

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孫 その1

 夕食が終わった。
 М夫妻だけが、台所にいる。
 「良かったわね。光男が、あんなにあなたと話をするようになって」
 「ほんとだね。嬉しいよ」
 
 いつからかは、分からない。
 光男は父がいる所へは、努めて行かなくなってしまった。
 まるで父と息子の間に、高くて固い壁ができてしまったようであった。
 光男自身も何故だかよくわからなかった。
 嫌悪感が、心の深いところに充満していた。
 降った雨が地面に浸みこんで行き、長い月日をかけて、地下に蓄えられたかのようである。
 光男は、男ばかり三人きょうだいの真ん中である。
 母は「お父さんは、誰にでも分け隔てなく接してきたわ」と言う。
 それにしては、この気持ちは、どうだろう。
 父を好きになれない。
 ほんとは、好きになりたいのに。
 
 光男が三歳だった。
 二階のベランダでひとりで遊んでいた。
 「パパ、遊んで」
 ガラス戸を小さな両手で、ようやく開けた。  
 父は部屋で仕事をしていた。
 「忙しいんだ。ひとりで遊んでいなさい」
 大きな声で言われた。 
 光男は、泣きそうになった。
 「ぼうちゃんだけ」
 あとの言葉は、出なかった。
 幼児に理屈は分からない。
 本能で何かを感じ取っていた。 
 大きくなって、物ごころがついた。
 兄と弟が喜んでいる時でも、心から喜べなかった。
 辛かった。
 父の自分に対する接し方が気になった。
 
 光男が小学六年生になった。
 「あなた、光男がね。あたしに打ち明けてくれたわよ」
 「何を」
 「父ちゃんは、僕のことが可愛くないんだ」って泣きながら言ったわ。
 「へえ」と言って、Мは頭をかかえた。
 ガツンと棒でなぐられたようであった。
 Мは、若い頃を振りかえった。
 婿に来た。
 家風に長く慣れなかった。
 義父を嫌っていた。
 光男は彼に似ていた。
 それだけの理由で、辛く当っていたのかもしれない。
 自分の子であるのに。
 「父ちゃんが悪かった。勘弁しておくれな」
 光男は、心の中に長い間沈殿していた物が、サッと流れ去るのを感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閉じる コメント(4)

お久です けっさんさん 頭を抱えてしまいますです。ポチっとな

2011/4/15(金) 午後 9:11 [ 木肌美人 ]

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今晩は。
コメントとポチをいただきまして、ありがとうございます。
お元気でしたか。
父けっさん

2011/4/15(金) 午後 9:21 [ けっさん ]

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まだ弱い者は愛情の過多に敏感ですね。☆

2011/4/15(金) 午後 9:42 [ 藤花 ]

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いつもありがとうございます。
冷や汗をかきながら、この作品を描きました。

2011/4/15(金) 午後 10:17 [ けっさん ]


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