|
Mが、pcの前でいち、にい、さん、と数えはじめた。
画面では、お気に入りの女性歌手が、マイク片手に歌っている。
Mは、歌に合わせて、リズムを取っているのだ。
この曲はワルツだから、いち、にい、さん、いち、にい、さんだ。
両手で、指を折っている。
ふんふんふん。
鼻歌も出はじめた。
Mは、幼い頃から歌が好きだった。
おしめをしているのに、テレビで若いグループが踊りながら歌うと、
それに合わせて、自分もすわったままでお尻をうごかしたくらいだった。
いい声だなあ。
うっとりして聞いていた。
ふいに、ソプラノが、アルトに変わった。
それに、ハスキー声になった。
リズムが少しずれている。
画面を見ると、老女がマイクを握っていた。
茶髪だったのが、真っ白に変わっていた。
Mは、腹が立って来た。
ちえっ、イメージダウンだぜ。
若いAは、どこへ行ったんだ。
pcの操作が間違っていないか、確認した。
何のトラブルもなかった。
「こらっ、このぱそこん野郎」
と、怒鳴りたかった。
そう思った時、画面の中の老女が、真正面を向いた。
「そこの、あなた」
右手の人差し指を、Mに向けた。
「おれのこと」
「そう」
「今、あたしを怒ろうとしましたね」
Mは、言いあてられて、頭をかいた。
「なんで、わかるのよ」
「あたしは、人のココロが読めるんです」
「へえ、おれもそんな風になりたいものだ」
「だったら、あんたもこちらへ来てみませんか。一緒に歌いましょうよ」
Mは笑いだした。
「そんなこと、できっこないでしょ」
「そう思うでしょう。ところが、で・き・るの」
「どうすればいいの」
「さっき、あなた、指を折って、数えていたでしょ」
「うん、それがどうしたの」
「まあ、そんなに疑い深くならないで。素直にあたしの言うことを聞いてごらん」
「わかった」
「それじゃ、はじめます。両目をつむって」
「はい」
「声をだして、いちにいさんしいと、数えなさい」
Mは、言われた通りにした。
「いちにいさんしい」
「もっとゆっくり」
「いいちい、にいい、さんん、しいい・・・」
「そうそう、その調子」
Mは、うっすらと、目を開いた。
指の先が、陽炎のようにぼやけてきた。
「目をあけちゃだめ」
怒声が飛んだ。
「もう一度。あたしがいいと言うまで、指を折ってかぞえるのよ」
「いいちい、にいい、さんん、しいいい、ごおお、ろおくう、ななあ、はちい、くう・・・・・・」
いつの間にか、Mがpcの前から消えていた。
画面のなかで、あの老女とハモっている。
真っ白な髪の毛をふりみだしていた。
画面の中から、Mの声が聞こえた。
「来るには、来たけど。なんでこんなに年寄りになるのよお」
「あんたね、指でかぞえた分だけ、歳をとってね、それから、ここに来るのよ」
「ぎゃあああああ」
Mの絶叫が、部屋に響きわたった。
|
手のひらの小説
[ リスト ]




こんにちは。やっぱりこれも面白いです。
読んでて思わず笑ってしまいました。
2011/10/1(土) 午後 3:33 [ キャサリン ]
こんにちは、キャサリンさん。訪問とコメントありがとう。書きだしの所では、結末がどうなるか、自分でも分かりませんでした。そのうちに、登場人物が動きだしてくれたので、何とか、さまになりました。今は亡き、井上ひろしさんでも、たまには、駄作を書かれたようです。怖がらずに書いていきたいと思います。
2011/10/1(土) 午後 4:02 [ けっさん ]