花シリーズ

[ リスト ]

桜子 その23

 四条大橋のたもとに、物件が見つかった。
 栄一が、知り合いの不動産屋に頼んでお
いてくれたのだ。
 資金繰りにいきづまり、前の経営者が手放
した店だ。礼金、敷金そして三か月分の家賃
を、栄一は、ぽんと出してくれた。
 桜子の実家が近い。
 開店の日。
 店の前には花輪がならんだ。
 「このたびは、えらい娘が世話をかけまして。
こんな立派な店を出してもらいまして、ありが
とうございます」
 お気に入りの年代物の西陣を着て、千代が
栄一に向かって、お辞儀をした。
 栄一は、頭をかきながら、
 「祇園一のママさんとうたわれた、えらい
お母さんに頭さげられたら、かないまへんな。
俺は、土下座せんと」
 と、栄一は床に頭をこすりつけた。
 「このたびは、俺くらいの者が出過ぎたマ
ネをしまして」
 「なっ、なに、しはりますねん」
 千代は、栄一の肩を抱いた。
 「頭、あげておくれやす。さくら、なんや。
だんはんに、こんなこと、さしてたらあかん」
 千代は、本気で怒っていた。
 「お母ちゃん、ごめん」
 桜子は店の奥からタオルを持って来て、
ズボンの汚れを落とした。
 バチャッ。
 表通りで、バケツをぶちまける音がした。
 ホステスが飛び出した。
 戻って来るなり、
 「えらいことですで。玄関のドアに黄色い
ペンキが投げつけられました」
 と、興奮して言った。
 ほんまにもう。
 誰がやらせたかは、だいたい察しがつく。
 桜子は、ドアを開けようとした。
 「待ってたらええ」
 栄一が、にこにこして言った。
 「俺がうまいこと、始末する。あんたは、見
ない方がええ」
 早速、知り合いに電話をかけた。
 栄一は、変わった。
 笑顔を絶やさない。
 「まあ、どうぞこちらへ。特等席があいと
ります」
 千代を、席まで案内しようとした。
 「私は、すわらんでもいいんです」
 昔風の千代は、義理がたい。
 祇園のオキテが、からだにしみこんでいる。
 使い古した割烹着をつけると、掃除を始めた。
 「えらい母ちゃんやな」
 「夏の暑さで、ちょっと体調を崩していた
んですけど、開店という声で、元気になりま
した」
 「そうか、さすがやな。現金なこっちゃ。」
 栄一は、苦笑いを浮かべた。
 桜子は、栄一が特別に作らせた西陣を
着ている。
 インテリアは、匠の技だ。
 棚には、和洋を問わず、ボトルをずらりと
並べた。
 さて、どのくらいのお客さんがおいでやろ。
 美雪ママと、あんな別れ方をしたんや。
 ペンキをぶつけられたことといい、しばらく
は、若いくせに生意気な奴やと、同業者から
目の敵にされるやろ。
 しゃない。しゃない。
 かずさん。五十五歳、独身。
 お母ちゃんの肝いりのバーテンさん。
 新米のホステスさんの久美ちゃん。
 新聞に出した求人広告を見て来てくれた。
 この業界は初めてだという。
 当面は、泥縄式だ。
 三人で、船出することにした。
 バー桜子の灯りが、晩秋の京に点った。
 
 
 

閉じる コメント(2)

顔アイコン

小説いろいろ知らないと駆けないですね。。ポチ

2011/10/12(水) 午後 10:14 [ kotuko ]

顔アイコン

おはようございます。麻さん、私だってそれほど読んではいないんです。日頃、人をよく観察する。通りすがりの人だって、この人はどんな人で、どんな暮らしをしているんだろうかって、想像することは、大事だと思います。スケッチすることです。

2011/10/13(木) 午前 8:05 [ けっさん ]


よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事