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桜子は、栄一と手をつないで歩いた。
「おかげさまで、夢がかないました。本当に
ありがとうございます」
栄一はつないだ桜子の手を、ぐっと握りし
めた。
初めは、桜子を自分のものにしたくて、ひ
いきにしてきた。
いつの頃からだったろうか。
自分の気持ちが、大きく変わり始めた。
年老いたせいもあるのだろうが・・・。
親身になっている自分に気が付いて驚い
た。嵐山で逢った時、店を持たないかと言っ
た。からだがほしいだけなら、そこまでする
必要がなかった。
桜子が、バイクにぶつけられて、病院に
運ばれたことがあった。
彼女のために何ができるだろうかと、必
死に考えた。
神にも、仏にも祈った。
栄一は、桜子を愛しはじめたのだ。
彼女の母親と話した時に、それは決定的
になった。
桜子のことを、いろいろと聞かせてもらった。
彼女の人間性を、より深く理解できたのだ。
桜子も、栄一の変わりように驚いていた。
以前は、すぐにからだに触りたがった。
人の気持ちなど、まったく考えなかった。
まるで栄一のおもちゃだった。
傍若無人な振る舞いにあきれた。
心の中で軽蔑していた。
栄一の事業が順調になったのもうなずける。
人の心を、必死で受けとめようとしてきた賜物
だった。おかげで、部下やお得意様の心をつか
むことができたのだ。
まあ、今でも、昔のクセが出ることがあるけど。
それは、ご愛きょうだ。
聖人君子じゃないんだから。
勝手口で、栄一が、
「疲れたろうから、今日はこれで帰る」
と、言った。
桜子は、ふりかえって、目をつむった。
栄一は、桜子を思い切り抱きしめ、口づけを
した。
了
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花シリーズ
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