怪奇小説

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さびしい その13

 小さな手が、S子の肌にふれた。
 「ねえ、くすぐったいわ」
 マリモは、S子の顔を見あげて、
 「ごめんなさい」
 と言った。
 S子は、マリモに顔を近づけ、
 「私の息子のごきげんはいかがですか」
 と、たずねた。
 マリモは、目をまるくした。
 「だって、あなたが教えてくれたのよ、男の子だって。こんな大事なこと。忘れるわけないでしょ。
忘れんぼさん」
 「誰にも黙っていてくださいね。あたしが言ったっていうことが、みんなに知られたら、困るんです」
 S子は、にっこり笑った。
 マリモのことが、分かるのだろうか。
 おなかの子が活発に動いている。
 マリモは、小さな右の手のひらを、そっとおなかにおしあてた。
 何かをつぶやきはじめた。
 S子には、理解できない言葉だ。
 「ちっち、ちちちちっ」
 おなかの子がじっとして、動かない。
 じっと、耳をかたむけているようだった。
 三分くらい続いた。
 「ねえ。もうそろそろ上着をおろしてもいいかしら」
 S子が遠慮がちに言うと、
 「あっ、ごめんなさい」
 と、マリモは手をひっこめた。
 「赤ちゃんは、とっても元気です。あと二十日たつと、出てくるそうです」
 マリモは、自信ありげに言った。
 「そうなんだ。良かったわ。でも、そんなこと、よくわかるわね」
 マリモは、S子の顔を見つめて、ちちちっと言った。
 「何が何だかわからないわ。意地悪なのね、あなたは」
 マリモが、ぺろっと舌をだした。
 ほほ笑みながら、右手で手招きした。
 「赤ちゃんと、お話をしたんですよ」
 と言った。
 「ええっ。そんなこと、できるの」
 マリモはうなずいた。
 「どうやるの。わたしにもできるの」
 マリモは、両手を横にひろげた。
 「できないんだ」
 小さな頭を、左右に何度もふった。
 「あたしはできるけど、かあちゃができるかどうかは、わからないわ」
 「それができれば、とっても嬉しいわ」
 「やってみますか」
 「ええ」
 「じゃあ、あたしのマネをしてください。まずは、手を合わせて、目をつむって」
 S子は、急に笑いだした。
 「だめです、笑っちゃ」
 「ごめんなさい」
 「赤ちゃんとお話がしたいと、本気で願わないと、だめなんです。神様なんです。赤ちゃんって」
 「神様なんだ」
 「そうです。だって、出産って、とっても不思議だと思いませんか」
 「そりゃそうだけど。学校で教わったわ、精子と卵子が出会って、そして」
 「それは科学でしょ」
 「科学じゃいけないの」
 「科学は、自然を理解するひとつの方法にすぎません」
 マリモは、神妙な顔つきになった。
 「どういうことか、よくわからないわ」
 「大きな力が働いているのです」
 S子は、真剣な表情になった。
 ふいに、勝手口の戸が音を立てた。

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