怪奇小説

[ リスト ]

さびしい その15

 それから二十日後に、S子は病院で男の子を出産した。
 「ただいま。今帰りました」
 夫のAが玄関の戸を開けると、赤子を抱いたS子が大きな声で言った。
 「はい、ご苦労様」
 腹の底からしぼりだすような声だ。
 M子が玄関のすぐわきにいた。
 上がりはなに、座布団をしいてすわっている。
 最近、体調が良くない。
 食がほそくなり、ここ数カ月で、体重が五キロ減った。
 ときどきふらつく。
 夫のFが、わきで体を支えていた。
 「まあ、母ちゃん、大丈夫なの」
 S子の顔に、憂いの色が浮かんだ。
 「大丈夫。それより早く孫の顔を見せておくれ」
 「うん。ほら」
 S子が、M子の顔の前に赤子を近づけた。
 「まあ、なんてかわいい」
 久しぶりに見る母の笑顔だ。
 「いい子だ、いい子だ」
 父のFは、赤子のほほをなでた。
 赤子は、口をもぐもぐ動かした。
 「おい、おい」
 Fが呼びかけると、赤子は両目をぱっちり開けた。
 「おまえさん、起きちゃうじゃないか」
 「さあ、おうちだよ。じいちゃん、ばあちゃんだよ」
 S子が、赤子にやさしく語りかけた。
 瞳がきょろきょろ動く。
 「ねえ、この子。分かるのかな」
 S子が言う。
 「生まれたばかりだからな」
 M子が微笑んだ。
 ふいに赤子の顔が真っ赤になった。
 顔をしわくちゃにして、泣きはじめた。
 「おっぱいかな、S子」
 M子がたずねた。
 「さっき、飲ましたばかりなの」
 「おしめは」
 「それも、大丈夫」
 「とにかく座敷にあがれや。ご先祖様に報告してな」
 Fが、にこしこして言った。
 赤子を胸に抱いたままで、S子は仏壇の前にすわった。
 S子が線香に火をつけようとした時、印を結んだ木彫りの
仏像の影で、赤いリボンが動いた。
 

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事