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小さな明かりが、揺れながら近づいてくる。
まずい。
少年は、女の体からはなれた。
人が近づいてくるのに、女はまだ気づかない。
両足を折り曲げるようにしてすわりこみ、嗚咽をもらす。
家とは反対方向に、少年は走りだした。
走るのが楽しいのか、タロウはチェーンを力強く引っぱる。
右手に、神社の森がある。
ほかよりも闇が濃い。
あそこで、ちょっと休んでいよう。
おやしろの裏に一時間もいれば、事態が変わるだろう。
少年はそう思った。
タロウが邪魔だが、仕方がない。
木の幹にしばっておこう。
やしろの塀の上から、まわりを見た。
小川の道は、大通りに行きつく。
ライトを照らした車が頻繁に通行していた。
赤いランプを回した車が、小道の曲がり角で停まった。
ふたりの警官と先ほどの女が、ライトの中に浮かび上がった。
あわててもよさそうなものだが、少年は平静だった。
ここは、ぼくの隠れ家だ。
幼稚園の頃から、何か都合が悪くなると、ここに来た。
タロウがクンクン鳴きだした。
無理もない。腹をすかせているのだ。
ポケットには食べる物がない。
早く家にもどらなくては、と思った
少年は、祈るような想いで、曲がり角を見つめた。
パトカーは、いなくなっていた。
それにしても、馬鹿なことをしてしまった、と少年は悔やむ。
昼間なら、絶対にしない。
女の人の身体には興味があった。
友達から、エッチな本を借りては、部屋で読んだ。
裸の写真を見ては、想像をふくらませた。
変なところに手をやっては、こすった。
妙な快感がわいてきて、当惑した。
母の顔がまともに見られなくなっていた。
チェーンを木の幹からはずす。
タロウが、ほてった顔をぺろぺろなめた。
「静かに」
少年はタロウに命じた。
頭やあごをやさしくなでる。
やしろの正面にでて、参道を鳥居方向に進む。
「このあたりには、いないようですな」
ふいに、男の声がした。
少年は、その場にしゃがみこんだ。
見つかれば、どうしようもない。
緊張のあまり、意識が半ば遠のく。
何も聞こえない。
どのくらい時間がたったのだろう。
バサバサという音がした。
サギが木から飛び立ったのだ。
境内は静かになっている。
人の声もしない。
少年は、正気にもどっていた。
いくらか頭が痛む。
ガツンと頭をなぐられたような気分だ。
ここは神域である。
少年は、しでかした事の重大さに気づいた。
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逃げるシリーズ
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