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先ほどから、剛は運賃メーターばかり見つめている。
深夜料金が気になる。
かちゃ、かちゃと音がするたびに、胸がどきっとした。
運賃表示が四千円になった。
「ここで降ろしてください」
運転手に、きっぱりと告げた。
「あれっ、こんな所でいいんですか。お茶ノ水は、まだ先ですよ」
中年の男は、心配そうな顔を向けた。
アパートは、まだ遠い。
実をいえば、剛は空腹なのだ。
仕事を終えてから、食べ物を口にしていない。
コンビニに立ちよって、おにぎりでも食べたかった。
「ちょっと歩きたいんです」
「そうですか、わかりました。気をつけて下さいよ。
街にはいろんなのがいますから」
と、後部座席のドアを開けた。
剛をひと眼見て、おのぼりさんだと分かったのだ。
近頃は、田舎から東京に出稼ぎに来る人が多い。
週末には、帰宅する。
この運転手も、その一人らしい。
お金を受け取ると、「くれぐれも用心して」と、念を押した。
余計なお世話だ、と剛はちょっとカチンと来たが、
「ありがとうございます」
と、応じた。
去って行くタクシーのテールランプを、じっと見つめている。
道はまっすぐに続いていた。
人の良さそうな運転手の車は、すぐにほかのタクシーにまぎれて、
見えなくなってしまった。
両側には、ビルが建ちならんでいる。
黒っぽく、汚れた空気がよどんでいた。
歩道を歩いている人はいない。
何か黒い物が、通りを横ぎって行く。
猫が一匹、あとにつづいた。
タクシーが急ブレーキをかける。
あっ、あぶない。引かれるんじゃないぞ。
剛は、猫に声援を送りたい気持ちになった。
あれ、おれ、ちょっとおかしいぞ。
ホームシックにかかったのかな。
剛は、両のポケットに手を突っこんで、苦笑いを浮かべた。
ポケットの中の千円札を、ぎゅっと握りしめた。
うつむき加減で歩いて行く。
すぐわきを何かが通りすぎて、風が巻きおこった。
黒い上着をきた男が、自転車に乗って走り去って行く。
あぶねえ、野郎だな。
怒鳴りだしたい気分になった。
あたりは、すぐに静けさをとりもどした。
剛の靴音だけが響く。
ふいに、M子が店で渡したメモのことを思い出した。
何が書いてあるか、おおよその見当はつく。
今更読んでも仕方がない、と思うが・・・・・・。
後ろのポケットに手をやり、汗のにじんだ白い紙を開いてみた。
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