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見える。 その8

 一夫は夢を見た。
 見あげると、木々のこずえが夜空をかくしている。
 満月が出ているのか、ずいぶん明るい。
 バサッと音をたてて、ムササビが飛んだ。
 フットライトのように淡い光が樹間に差しこみ、一夫の顔に当たっていた。
 まぶしくはない。
 やわらかな感触だ。
 手足を動かしてなんとか立ち上がろうとする。
 しかし、びくとも動かない。
 耳をすますと、こぽこぽこぽと音がする。
 泉が近くにあるのだろうと思った。
 ふいにザブッと音がした。
 ザクザクザクと足音が続いた。
 砂地を踏みしめている。
 一夫は恐怖にかられ、逃げだそうともがいた。
 なにしろ正体が判らないのだ。
 すぐわきでそれは立ちどまった。
 一夫は思わず目をつむった。
 ぽつりぽつりと滴が顔にたれる。
 何者かが、一夫の顔をのぞきこんでいる。
 皮膚がぴりぴりと震えた。
 暖かい息が顔にかかって、こわいもの見たさに目を開けた。
 
 一夫はわっと驚いて、体がびくりと動いた。
 あの女の顔がまじかにあったからだ。
 ようやく夢からさめた。
 女は目をつむっているので、よく観察することが出来た。
 まったく化粧をしていないようだ。
 雷に打たれたせいか、顔色が悪い。
 切れ長の目をして、鼻筋がとおっている。
 唇は上下とも薄い。
 知的だが人情味に乏しいといえる。
 もっとも人間なみに占っていいものか、疑問はある。 
 白い歯を見せて、女が口を開いた。
 鋭い八重歯が気になる。
 「いつまで寝てるのよ」
 ふいに女は自分の胸元を見て、あれっ、と叫んだ。
 おとなしくなり、そそくさと部屋を出て行った。
 早苗そっくりの言い方に、一夫はあきれた。
 若いだけに早苗より魅力がある、と思う。
 ドアが開くと、早苗が立っていた。
 一夫は一瞬びっくりした。
 「何よ、そんなに目を丸くして」
 女が早苗の服を身に付けていたのだ。
 「起きてよ、しょうがないわね」
 一夫は、いつの間にかあのメガネをかけていた。
 倒れた時に、外れていたのだ。
 この女の体。
 ひょっとして生身じゃないか、と思う。
 まさかそんなバカなことって、とすぐに打ち消したが、
一度思いこんだことは簡単には消えない。
 夢中になって、一夫は女の体をさわったりもんだりし始めた。
 女は嫌がったが、それほど抵抗しない。
 抱いてほしいと求めるほどだから、うれしいのだろう。
 初めの頃はさわろうとしても素通りしてしまい、
これはもののけのたぐいだ、と思いこんだくらいだった。
 ところが、一夫になつくにつれて、人らしくなってきた。
 女性らしくなった。
 気持ちはともかく、姿形まで人間に似て来るとは。
 内容が伴ってくるとは・・・・・・。
 機械の妖精のくせに。
 今に神様のバチが当たるのじゃないか、と一夫は恐れた。
 さてと、早苗をこのまま放っておくわけにもいかない。
 どうやってよりを戻すか。
 一夫は起き上がり、腕を組んで思案しはじめた。
 ぎっくり腰が快方に向かっていた。 
 

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