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一夫は夢を見た。
見あげると、木々のこずえが夜空をかくしている。
満月が出ているのか、ずいぶん明るい。
バサッと音をたてて、ムササビが飛んだ。
フットライトのように淡い光が樹間に差しこみ、一夫の顔に当たっていた。
まぶしくはない。
やわらかな感触だ。
手足を動かしてなんとか立ち上がろうとする。
しかし、びくとも動かない。
耳をすますと、こぽこぽこぽと音がする。
泉が近くにあるのだろうと思った。
ふいにザブッと音がした。
ザクザクザクと足音が続いた。
砂地を踏みしめている。
一夫は恐怖にかられ、逃げだそうともがいた。
なにしろ正体が判らないのだ。
すぐわきでそれは立ちどまった。
一夫は思わず目をつむった。
ぽつりぽつりと滴が顔にたれる。
何者かが、一夫の顔をのぞきこんでいる。
皮膚がぴりぴりと震えた。
暖かい息が顔にかかって、こわいもの見たさに目を開けた。
一夫はわっと驚いて、体がびくりと動いた。
あの女の顔がまじかにあったからだ。
ようやく夢からさめた。
女は目をつむっているので、よく観察することが出来た。
まったく化粧をしていないようだ。
雷に打たれたせいか、顔色が悪い。
切れ長の目をして、鼻筋がとおっている。
唇は上下とも薄い。
知的だが人情味に乏しいといえる。
もっとも人間なみに占っていいものか、疑問はある。
白い歯を見せて、女が口を開いた。
鋭い八重歯が気になる。
「いつまで寝てるのよ」
ふいに女は自分の胸元を見て、あれっ、と叫んだ。
おとなしくなり、そそくさと部屋を出て行った。
早苗そっくりの言い方に、一夫はあきれた。
若いだけに早苗より魅力がある、と思う。
ドアが開くと、早苗が立っていた。
一夫は一瞬びっくりした。
「何よ、そんなに目を丸くして」
女が早苗の服を身に付けていたのだ。
「起きてよ、しょうがないわね」
一夫は、いつの間にかあのメガネをかけていた。
倒れた時に、外れていたのだ。
この女の体。
ひょっとして生身じゃないか、と思う。
まさかそんなバカなことって、とすぐに打ち消したが、
一度思いこんだことは簡単には消えない。
夢中になって、一夫は女の体をさわったりもんだりし始めた。
女は嫌がったが、それほど抵抗しない。
抱いてほしいと求めるほどだから、うれしいのだろう。
初めの頃はさわろうとしても素通りしてしまい、
これはもののけのたぐいだ、と思いこんだくらいだった。
ところが、一夫になつくにつれて、人らしくなってきた。
女性らしくなった。
気持ちはともかく、姿形まで人間に似て来るとは。
内容が伴ってくるとは・・・・・・。
機械の妖精のくせに。
今に神様のバチが当たるのじゃないか、と一夫は恐れた。
さてと、早苗をこのまま放っておくわけにもいかない。
どうやってよりを戻すか。
一夫は起き上がり、腕を組んで思案しはじめた。
ぎっくり腰が快方に向かっていた。
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