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鳥居峠を越えた。
しばらく急なくだり坂がつづく。
竜夫は奥歯をかみしめた。
曲がり角がこわいとわかっているから、
スピードをうんとゆるめてまわる。
乗用車とならんだ時は、なおさら注意が必要だ。
きゃあきゃあ騒いでいた美樹が静かになっている。
朝食をたらふく食べたうえに、車にゆすられた。
竜夫の背中に胸をおっつけたまま、眠っているようだ。
妹みたいな弟のあつかいに、竜夫は困っている。
しかし、弟はかわいい。
兄が行くところには、どこへでもついて来たがる。
それは幼いころから変わらない。
いい加減、異性の友達を見つければいいのに、と思うが、
本人が興味を示さないのだから手の打ちようがない。
最近は両親もあきらめたようだ。
自分の人生なんだから好きに生きれば、という。
その代わり近所の手前もあるから、と家を追い出された。
ひとまず、渋川にある兄のアパートに転がりこんでいる。
美樹は美形といえる顔立ちだ。
ハンサムと言うと、本人は真っ赤になって怒るから、
竜夫は、ほかの言い方を考えた。
きれいだね、今日は可愛いよ、なんて言うと、にっこり笑う。
末っ子の美樹は、小さい頃から女の子みたいに育てられた。
男ばかり三人で、女の子がひとりほしいという親の願いはかなわなかった。
マルコメ頭の美樹にスカートをはかせたりした。
本人はかなり困惑したようだが、幼いながら気をつかった。
思春期は、大過なく通りすぎた。
しかし、それ以後が大変だった。
身体は男性だが、心は女性だと竜夫に訴えた。
竜夫はなんとなくわかるような気がした。
美樹は鼻筋がとおり、切れ長の目をしている。
肌は白く、きめがこまかい。
薄い口びるに真っ赤なベニをぬっている。
口からほほにかけてきれいに髭はそっている。
青くなった地肌はなかなか隠せないから、
気のすむまでファンデ―ションを入念にほどこす。
今朝アパートを出る前もずいぶん化粧に時間がかかった。
竜夫はあせっていたが、美樹は知らん顔で鏡の前にいた。
五時起きなんて、まったく失礼しちゃうわ。
ブウブウ文句を言った。
初夏の日差しが照りつけている。
長い髪の毛がヘルの中で窮屈にちじこまり、
顔じゅう汗まみれになっている筈だった。
そろそろ一休みしようと、竜夫は、
「おい」と呼びかけた。
返事がない。
「こら、美樹っぺ。寝るんじゃない」
竜夫が上半身をゆする。
「もうなによ、せっかくいい気持ちでいるのに」
と、おかんむりである。
「おめえな、もうちょっと離れろよ」
「いいじゃないの、たったん」
舌足らずの物言いをした。
「離れろっ、つうの」
竜夫は上半身をゆすった。
美樹はそれでもしがみついてくる。
「気持ちわるいんだっての」
「だって、あんちゃんこと、大好きなんだもの」
ゴムまりがブラの中から下に落ちそうになっている。
「コンビニがある。あそこで一服だ」
竜夫は左に重心を移した。
「よお、おねえちゃん、乗ってかないか。こっちの方が楽だぜ」
ふいに男が声をかけてきた。
赤いオープンカーが、駐車場に入って行くバイクに寄り添ってくる。
竜夫のバイクのとなりに停まった。
運転していたサングラスの男が美樹に近づいて来る。
この野郎、今に吠えづらかくな。
竜夫は、ちょっと様子を見ることにした。
美樹がヘルをとって、大きく頭をふった。
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美樹さんって、弟さんだったんですね〜
どおりで、野太い声で・・って初めにあったから・・
なんだか、楽しみやわ・・美樹ちゃんが、どうするのか・・
2012/5/25(金) 午後 1:36
ただのラブストーリじゃ面白くないので、ちょっと筋書きを変えてみました。どうなることやら、先が真っ暗です。まあ、なんとかなるでしょう。かえって、重い課題をかかえてしまいました。応援ありがとうございます。
2012/5/25(金) 午後 4:40 [ けっさん ]
あら、読者の予想を裏切る展開ですね。
なかなか心をつかむのがうまいです。
さて、どうなっていくのかな……。
2012/5/25(金) 午後 6:04
こんばんは、imokoさん。いさぎよく、一度で書けないで、申し訳ないです。どうもこのところ、かっこ悪いことばかりで。頭がちゃらんぽらんで、すみませんです。
2012/5/25(金) 午後 8:02 [ けっさん ]