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ゆるやかな坂道になっていた。
男はアクセルを踏みっぱなしである。
車はぐんぐん加速して行き、すぐにスピードメーターが100を指した。
異変を知って、竜夫はすぐに追いかけたが、
容易に追いつくことができない。
どんどん引き離されていった。
美樹はまるでジェットコースターに乗っている気分だった。
一番高いところからくだって行くようで、胸が圧迫される感じがする。
とても息苦しい。
兄の背中につかまって、バイクに乗っているのとは全然違う。
男は前を向いたまま、一言も話さない。
この人、ひょっとして、・・・・・・おかしい。
言いようのない恐怖がわいてくる。
美樹は、なんとかして男を落ち着かそうとした。
「このままじゃ、すぐに白バイにつかまるから」
男は、何の反応も示さない。
美樹は話し方を変えてみた。
「あんた、ほんとにあたしと付き合いたいの」
なんとかして笑顔を作ろうとしたが、途中で顔の筋肉が
ひきつり、泣き顔になった。
それでも、男は無表情をくずさない。
美樹は男の右手にふれてみた。
ぶるっと手が動いた。
よしっとばかりに、次の行動をおこす。
手をぐっとつかむと、ひえっと小さく叫んだ。
とたんに、がくんとスピードが落ちた。
美樹は、思い切って上体を男に持たせかけた。
右手を男の背中にまわす。
ハンドルを持つ男の手が震えている。
「ねえ、あの角を左に曲がって」
車はかなり減速している。
「どうしたんだい」
「トイレに行きたいの」
男は目をつりあげて、
「どうせ、逃げるんだろ」
ぐっと美樹をにらんだ。
「あたしが好きなら、言うこときいてよ」
これ以上ない、やわらかな言葉を耳もとでささやいた。
車が左に曲がった途端、美樹は男から体を離した。
ふううと長いため息をついた。
標識に真田の里とあった。
真田真之や幸村が生まれ育った地である。
なだらかな坂道になっている。
道幅が狭く、ようやく対向車が通れるくらいだ。
道の両側には畑が続いている。
年輩の男の人が仕事の手を休め、こちらを見ている。
赤いスポーツカーがめずらしいのだろう。
黄色やピンクや白い花が目を楽しませてくれる。
菜の花、桃、りんご。
美樹は知っている木の名前を脳裏に浮かべた。
「ねえ、きれいな所ね」
自然と口からでた。
美樹は、男の左手に両手をからませている。
「もう自分をいつわるのはやめな」
男がぽつんと言った。
「ええっ、今何て言ったの」
「あんた、男なんだろ。俺は鈴木喜八郎っていうんだ」
ふいに車が道の真ん中でとまった。
美樹は、男の顔を正面から見つめている。
なんと答えたらいのか、とっさに思い浮かばなかった。
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短編集
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この男の人は、何の、目的で美樹ちゃんを くどいたりしたのでしょう・・
それが わからないのに・・おにいちゃんは 美樹ちゃんを
置いていったのかしら?
2012/5/28(月) 午後 11:50
ももさん、いつもコメントありがとう。
うううん、おしゃること、ごもっともです。
さて、どうなることやら。
2012/5/29(火) 午前 9:19 [ けっさん ]