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 「刑事、あの人は。美人ですね」
 持ち場に戻る後姿を見ながら、茂は言った。
 「おいおい。和ちゃんがいるじゃねえか、おめえには」
 気が多いなあとあきれた表情をして、Kは持っている書類で、茂の肩を軽くたたいた。
 
 「誤解しないでください。和ちゃんは俺の宝物ですから」
 「そうかい。あの子が何か」
 「いやちょっとね。ピピピッと俺のアンテナが受信しましてね」
 「へえ。アンテナが、あるんだ」
 「はい。不審なものなら何でも感じるんです」
 「俺にもそれがあったらいいんだがな」
 
 Kは事務をとり始めた美子を見つめた。
 「名前は何というんですか」
 「よしこだ。よしは美と書く」
 「美しい人ですね。名は体を表すか」
 「それじゃ、お忙しいところを、長くお邪魔しました」
 「じゃあな。何かあったらすぐ連絡くれよ。待ってるぜ」
 
 美子は、二十八歳。独身である。つき合っていた男性はいたが、別れたようである。
 署から十分くらい歩いたところにアパートを借りている。 
 その日の夕方、彼女は五時十分に帰宅した。
 鍵穴にキーを差し込み取っ手をまわす。
 にゃあっ、と中から、猫の鳴き声がした。
 「ただいまあ。寂しかったでしょ。おいで」
 そっと抱きしめる。
 
 シッポが生き物のようにくねくね動いている。
 にゃあにゃあと甘える。
「すぐご飯をあげるわ。おなかすいたでしょ」
 靴をぬぎ捨て、台所に向かった。
 皿にフードを入れる。コップにミルクをそそいだ。
 
 Kと一緒だった男が気になっている。
 あたしをずっと見ていたわ。変な目だった。でもいいか。あたしの美貌には、どんな男だってまいってしまうんだから。それとも、もう一人のアタシに気付いたのかしら。だとしたら、要注意だわ。それほど敏感かしらアイツ。
 
 にゃあ。
 美子の足元にまとわりついている。
 「もっとほしいの。はいはい」
 犬は嫌いだ。従順すぎる。たたいてやりたくなる。もっと自分を主張しろと怒鳴りたくなる。その点猫はわがままである。そこが気に入っている。餌さえもらえば、後は好きなようにふるまっている。
 
 押入れを開けた。
 布団のわきに、たくさんの女性用バッグが置いてある。一つ一つビニール袋に入っている。
 隅に宝石箱がある。
 蓋を開ける。イアリングやネックレス。指輪がある。ほぼいっぱいである。
 蛍光灯の光を受けてきらめいている。
 蓋を無理に閉めた。
 うっとりしている。
 
 鏡に向かった。
 ファウンデーションを整える。眉を書きなおす。
 メイキャップをしている。
 「どこへ行くと思う。ミミちゃん」
 猫に問いかけている。
 鏡面には、美子の姿のまわりに何か妖精のようなものが、ふわふわ浮かんでいるのが映っている。
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