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街にネオンが灯りはじめた。
О駅の改札口を抜けた人々の一群が早足になった。
パチスロ店に吸い込まれるように入った。
剛は、店内を巡回している。
「おい、玉出ねえぞ」
一番通路の中ほどで男の声がした。
黒いサングラスをかけた紺のスーツ姿の男がパチンコ台のガラスを叩いている。
「おい、新入り。お前、行ってみろ」
店長が剛に命じた。
腕っ節の強いのが気にいられている。
田舎者である。
怖いもの知らずだった。
「はい。どういうことでしょうか」
タバコの煙を剛の顔面に吹きかけた。
くそっと思った。
こらえた。
「この穴に玉が入ったわけなんだが、出ねえぞ」
「ちょっとお待ちください。調べます」
裏に回った。
玉は、ひとつも入ってはいない。
何かある、と感じた。
ケータイで店長に連絡した。
「玉は入っていません。何かたくらんでいる可能性があります」
「よし、わかった」
店長は、ほかの通路に店員をさしむけた。
店員Aが二番通路を警戒しはじめる。
剛は、男の言う通りにした。
玉を二、三個、穴に入れた。
「すみませんでした」
「わかりゃいいんだよう」
足を小刻みに揺らしている。
十分くらいの出来事だった。
四十がらみの茶髪の女が、二番通路で左手をガラスに当てている。
マグネット。
Aは直感した。
玉は磁力で穴に引き寄せられている。
上部のライトが点滅を繰り返していた。
「店長、やられました」
「仕方ない。警察を呼ぼう。女からも目を放すな」
「はい」
剛は、店の前で待機している。
警官の到着を待っている。
男が出てきた。
女が寄り添っている。
逃げ足がはやいな。
剛はためらわなかった。
「あのう」
声をかけた。
「なんだ。何か用か」
すごんでいる。
「ええ、ちょっと。こちらへ来てもらえますか」
男がこぶしをつくった。
剛の顎をねらった。
サッとよけた。
フットワークが軽い。
手をつかむと、男を投げた。
チャリンと音がした。
ナイフが路上に転がった。
男を押さえつけた。
女が背中をバッグで叩いている。
警官が二人、かけつけた。
ひとりが男の手に手錠をかけた。
「大丈夫ですか」
年輩の警官が尋ねた。
「はい」
「あとでО署まで来てください」
店長が出てきた。
「剛、大丈夫か」
「ナイフを持っていました」
「よくケガをしなかったな」
「体は鍛えてありますから」
「大事な体だ。もう荒い仕事はさせないからな」
「ええ」
「事務室で女の人が待っているぞ。大事にしろよ、あの子」
「はあ」
事務室に入った。
体の前で、両手に黒い鞄を持ったユリがいた。
表情が暗い。
「ユリちゃん」
「つよし」
剛を見たとたんに表情が明るくなった。
「あたし、今朝ね。胸騒ぎがしたの。ほんとになっちゃたわ。授業が終わったらすぐにかけつけたのよ」
「心配させてごめん」
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2011年04月15日
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夕食が終わった。
М夫妻だけが、台所にいる。
「良かったわね。光男が、あんなにあなたと話をするようになって」
「ほんとだね。嬉しいよ」
いつからかは、分からない。
光男は父がいる所へは、努めて行かなくなってしまった。
まるで父と息子の間に、高くて固い壁ができてしまったようであった。
光男自身も何故だかよくわからなかった。
嫌悪感が、心の深いところに充満していた。
降った雨が地面に浸みこんで行き、長い月日をかけて、地下に蓄えられたかのようである。
光男は、男ばかり三人きょうだいの真ん中である。
母は「お父さんは、誰にでも分け隔てなく接してきたわ」と言う。
それにしては、この気持ちは、どうだろう。
父を好きになれない。
ほんとは、好きになりたいのに。
光男が三歳だった。
二階のベランダでひとりで遊んでいた。
「パパ、遊んで」
ガラス戸を小さな両手で、ようやく開けた。
父は部屋で仕事をしていた。
「忙しいんだ。ひとりで遊んでいなさい」
大きな声で言われた。
光男は、泣きそうになった。
「ぼうちゃんだけ」
あとの言葉は、出なかった。
幼児に理屈は分からない。
本能で何かを感じ取っていた。
大きくなって、物ごころがついた。
兄と弟が喜んでいる時でも、心から喜べなかった。
辛かった。
父の自分に対する接し方が気になった。
光男が小学六年生になった。
「あなた、光男がね。あたしに打ち明けてくれたわよ」
「何を」
「父ちゃんは、僕のことが可愛くないんだ」って泣きながら言ったわ。
「へえ」と言って、Мは頭をかかえた。
ガツンと棒でなぐられたようであった。
Мは、若い頃を振りかえった。
婿に来た。
家風に長く慣れなかった。
義父を嫌っていた。
光男は彼に似ていた。
それだけの理由で、辛く当っていたのかもしれない。
自分の子であるのに。
「父ちゃんが悪かった。勘弁しておくれな」
光男は、心の中に長い間沈殿していた物が、サッと流れ去るのを感じた。
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