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哲夫は悩んでいる。
妻を心から愛しているからであった。
頭上に浮かんでいた火の玉。
あの光景が脳裡に焼き付いていた。
何かにとりつかれているとしか考えられなかった。
哲夫は、ばあちゃん子であった。
祖母は、この辺りのことは何でも知っている。
「そうか、やっぱりじゃ」
案外驚かなかった。
「大昔の女御の霊じゃ。わしも嫁に来たころにとりつかれて難儀した。じい様がわしのために骨おってのう。世間には相手にされずに、ひっそりと暮らしておられた祈祷師の所へいったんじゃ。こんな科学万能の時代だからな。無理もない。お祓いをしていただいて、ようやく退散してもらったんじゃ」
「今でもそのようなことがあるのかな」
「まあ、目には見えない世界のことじゃ。何にもはっきりしたことは言えん。わしらがこうして当たり前のように生きておることだって、不思議といえば不思議じゃ。死んだらどうなるか。体は腐って土に返る。でもな、こうしてしゃべってるこのわし、この心はどうなってしまうんじゃろう。若いころからそんなことを考えておった」
「ばあちゃん。哲学してたんだよ、それは」
「へえ。難しい事はようわからん」
「可愛い嫁じゃ。哲夫、お前の力で何としてでも、助けてやるんじゃ。わしらにはどうにもできん。お前の強い想いだけが頼りじゃからな。なっ、哲夫、頑張るんじゃぞ」
夫婦は一心同体である。妻の苦しみは夫の苦しみである。
哲夫の脳裏にひとつの光景が浮かんだ。
真理子の心の鏡に黒雲が映っている。その中に十二単衣を羽織った若い女性がいる。
愛しい殿御が忘れられず、体が朽ち果てても魂がこの世にとどまっている。
哲夫は、カノジョのやりきれなさを思いやった。
女の黒髪は象をもつなぐという。
生きているときは美人の誉れが高くても、死後は未練にさいなまれる。
そのとき魂は、ヤシャのココロに変わるのだろう。
哲夫は、自分のなすべきことの重大さに身震いした。
真理子を助けるだけではなく、可愛そうな霊も成仏してもらわなくてはならない。
「京の母」といわれる占い師を知っている。
よく当たると評判である。
哲夫は、まずはその人に逢ってみようと思った。
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