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鬼火 その9

 哲夫は悩んでいる。
 妻を心から愛しているからであった。
 頭上に浮かんでいた火の玉。
 あの光景が脳裡に焼き付いていた。
 何かにとりつかれているとしか考えられなかった。
 
 哲夫は、ばあちゃん子であった。
 祖母は、この辺りのことは何でも知っている。
 「そうか、やっぱりじゃ」
 案外驚かなかった。
 「大昔の女御の霊じゃ。わしも嫁に来たころにとりつかれて難儀した。じい様がわしのために骨おってのう。世間には相手にされずに、ひっそりと暮らしておられた祈祷師の所へいったんじゃ。こんな科学万能の時代だからな。無理もない。お祓いをしていただいて、ようやく退散してもらったんじゃ」
 「今でもそのようなことがあるのかな」
 「まあ、目には見えない世界のことじゃ。何にもはっきりしたことは言えん。わしらがこうして当たり前のように生きておることだって、不思議といえば不思議じゃ。死んだらどうなるか。体は腐って土に返る。でもな、こうしてしゃべってるこのわし、この心はどうなってしまうんじゃろう。若いころからそんなことを考えておった」
 「ばあちゃん。哲学してたんだよ、それは」
 「へえ。難しい事はようわからん」
 「可愛い嫁じゃ。哲夫、お前の力で何としてでも、助けてやるんじゃ。わしらにはどうにもできん。お前の強い想いだけが頼りじゃからな。なっ、哲夫、頑張るんじゃぞ」
 
 夫婦は一心同体である。妻の苦しみは夫の苦しみである。
 哲夫の脳裏にひとつの光景が浮かんだ。
 真理子の心の鏡に黒雲が映っている。その中に十二単衣を羽織った若い女性がいる。
 愛しい殿御が忘れられず、体が朽ち果てても魂がこの世にとどまっている。
 哲夫は、カノジョのやりきれなさを思いやった。
 女の黒髪は象をもつなぐという。
 生きているときは美人の誉れが高くても、死後は未練にさいなまれる。
 そのとき魂は、ヤシャのココロに変わるのだろう。
 哲夫は、自分のなすべきことの重大さに身震いした。
 真理子を助けるだけではなく、可愛そうな霊も成仏してもらわなくてはならない。
 「京の母」といわれる占い師を知っている。
 よく当たると評判である。
 哲夫は、まずはその人に逢ってみようと思った。
 

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