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性ホルモンのひとしずくが、ポトリと落ちた。
胸の乳首がうずいた。
声帯が痛んだような声がでた。
勉は、体の中で、大あらしが吹き荒れているのを感じていた。
心が、急激な身体の変化に、ついていけなかった。
突きあげて来る生理的な衝動に、いらいらするばかりであった。
親にも話せなかった。
軽い足音が、階段をあがってくる。
部屋の前で、とまった。
ママだった。
「つとむ、おやつを持って来たわ。開けてもいい」
勉は、だまっていた。
ママは、僕のことが分からない。
分かろうとしない。
自分のことばかりだ。
最近、前よりおしゃれして、水泳教室に出かけるようになった。
気になる男性コーチが、いるのかな。
大人って、いやだな。
妄想がわいた。
「ここへ置いて行くわね。お勉強がんばってね。お兄ちゃんみたいに、私立高校に入学できればいいね」
勉は、机の上を、こぶしでドンとたたいた。
ガチャン。
母は驚いて、お盆を落としたらしい。
父は、いつも帰りが遅かった。
残業だ、つき合いだ、と言いわけを繰り返した。
勉は、男同士の話がしたかった。
お父さんの中学二年生の頃はどうだったの、と聞いてみたかった。
父と母は、よく口論をした。
時には、大声をあげた。
「どうして、カッターシャツの襟に、口紅がついてるのよ」
「香水の匂いがするわ」
「遅くまで、誰といっしょだったの」
父は、母の一言一言に、理由をつけて話していた。
ふたりの間に、思いやりがなくなっていった。
アラ拾いばかりするになっていた。
妹の百合が、可愛そうだった。
泣いてばかりいた。
もう、うんざりだ。
子供がいない所で、ケンカをしてほしい。
ママもパパも大好きなんだ。
とりつくろってもいい。
家庭では、仲良くしてほしかった。
夏休みに入った。
勉は、JR新宿駅のプラットホームにいた。
表向きは、母の実家を訪ねる。
心の中では、家から少しでも逃げ出したかった。
松本駅で、祖父が出迎えてくれた。
「つとむ、よく来たね。部活はどうした。夏休みでもあるんだろ。大丈夫なのか」
「ぼくは文化部だから、わりと、フリーなんだ」
「お母さんは、元気か」
「うん、元気だよ。元気過ぎるくらい」
勉は利口だった。
祖父に心配させるようなことは、一言もいわなかった。
「いられるだけ、ここにいるといいよ。東京より涼しいしな。お城や名所旧跡がたくさんあるぞ」
「ありがとう。思い出をいっぱい作ろう、と思ってるんだ」
秘密を胸にしまいこんで、祖父の家に向かった。
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2011年06月11日
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女が戻って来た。
白い襦袢姿であった。
一郎は恐縮して、部屋の隅にいた。
「これはこれは。私としたことが、何という失礼なマネをいたしまして」
女は何もいわずに、微笑んでいる。
「お茶をいただいたまでは、覚えていたのですが。その先のことは」
「何も知らないと、おっしゃるのでしょうか」
女は、ちらっと布団を見た。
この布団の乱れた様子を見れば、わかるでしょう。
言葉にせずとも、女は態度であらわした。
「本当に、何も分からないんですよ」
一郎は、躍起になって否定した。
「まあね。こうなった以上は、私にも覚悟があります。無理に体を奪われました、と訴えることもできますから」
女は、高圧的にでてきた。
一郎は弱腰になった。
俺は、会社に勤めている。
この不祥事が、上司に知られたら、大変なことになる。
ようやく就職できたばかりだ。
やめたくなかった。
とりあえず、女のもくろみを最後まで、見届けることに決めた。
「分かりました。私はどうすればいいのでしょうか」
「私のいうとおりに、していただければいいのです」
一郎は、下着を身につけはじめた。
上着のポケットから、煙草をとりだした。
口にくわえ、ライターで火をつけた。
シュッと音がして、小さな炎があがった。
女は、一瞬しりぞいた。
一郎は、女の弱点をつかんだと思った。
火に弱い。
覚えておこう。
最後の切り札だ。
助かるかもしれない。
女は、上着を預かります、と繰り返していった。
肌寒いので、着せておいてくださいと、一郎は、言い張った。
老女が、座敷の前まで、廊下を歩いて来た。
「食事の用意ができました」
「あい、わかったよ。いますぐ行きます」
「それでは、あとについて来てください」
食わせるだけ食わして、あとは。
女の餌になるか。
一郎は、自分をあざけるような笑いをもらした。
まだ救いがある。
望みを捨てずに、最後まで戦うことだ。
そう思った。
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車内は、閑散としていた。
ふたりは、窓際に向かい合わせにすわった。
B子が、ビニール袋から、缶ビールを二個取り出した。
窓枠においた。
「ほら、これ飲んで」
「うん」
B子が、かんぱあい、といった。
Hは、彼女の気持ちに逆らわなかった。
「おなかも空いたでしょ」
パックに入った、大きなおにぎりと、黄色の丸いたくあんを三切れ、Hの膝の上においた。
「でかいな」
Hは、目を丸くした。
「どうもありがとう」
Hは、しだいに、冷静さを取り戻しはじめていた。
「まあね。いいよな。小旅行だ。駆け落ちじゃないだろうから」
B子が、Hの目を、きっとにらんでみせた。
「案外うたぐりぶかいのね。あたしの、好きに、疑問符がついたのね」
Hは、微笑んでいる。
B子は、窓外を見つめた。
目に涙をためている。
女の涙に弱いのは、男だ。
誰でもだ。
俺のような田舎者で、農家の跡取り息子を好む者が、いるわけがない。
いたとしたら、何か魂胆があってのことだ。
今まで自由奔放に暮らしてきた人が、窮屈な田舎の生活に満足できるはずはない。
お互いに、相手のことをよく知らなかった。
B子は、不意に立ち上がった。
Hの隣に、すわった。
自分のコートを、ふたりの膝の上にかけた。
胸元まで、引き上げる。
B子の右手が、Hの左手をつかむ。
自分の胸にもっていった。
Hは、驚いた。
手をひっこめた。
B子は、あきらめなかった。
もう一度、同じことを繰り返した。
彼女に恥をかかせるのも、気がひけた。
彼女の愛を受け入れることにした。
ふたりは、心ゆくまで、お互いを愛撫した。
車内放送が、無粋に聞こえた。
「間もなくうえのお。上野でございます。お忘れ物のないようにお降りください」
わかってるよ、言われなくても。
子供じゃないんだから。
Hは、ぽつりと言った。
B子は、満足した表情で眠っていた。
肩を揺すって、起こした。
「終点だよ」
「うううん」
「どうすんだよ。これから。誘ったんだろ」
「おりる」
B子は、ふらつく足をホームにおろした。
「浅草に行くのよ。地下鉄に乗り換えて
B子は、腕を組んできた。
Hが、ハンドバッグを持っている。
コートを、肩にかけてやった。
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メイが地球に来てから、十八年たっていた。
乗って来た飛行船は、ほとんど元の姿のままだった。
アガペットを加工した船である。
メイは、地面に平らになっている船に入って行った。
まるで我が家のようである。
操縦席にすわった。
ヘッドホンが下りた。
耳につける。
ノイズが入り、すぐに人の声が聞こえた。
「メイ。聞こえる。ママよ」
「ママ。聞こえるわ。無事なの」
「残念だけど、とうとう最後の砦が破られてしまったわ。メイのおじいさんが司令官だったのよ」
その言葉の意味がわかったので、メイは涙があふれてきた。
「どうなるの。わたしたち」
シューシューという音が、ひっきりなしにしている。
男の人の声がした。
「今、地球に向かっているところだ。メイ。パパだよ」
「パパ」
メイは、泣き出しそうになった。
「大丈夫だからな。心配するな。お前の力を借りなくてはならん時が近づいている」
「わたしの力。できるかしら」
「できるさ。無傷のX星人は、もはやお前独りだ。頼りにしている」
「うん。がんばるわ」
ママが、かわった。
「あと一日で、地球に着くわ」
「わたしは、何をすればいいのかしら」
「できれば、その森の地下に、街を作りたいと思っているの」
「ええっ」
「メイは、何も心配しないで。ママたちのいう通りにすればいいのよ」
飛行船ルイは、暗い宇宙を高速で飛んでいく。
窓からは、星が見えない。
光の渦の中を落ちていくようだった。
乗り組んでいる人や生物たちの体調は、安定している。
不意に、ルイは動かなくなった。
宇宙空間に浮かんでいる。
前方に、青い星が見える。
水の惑星、地球だ。
月も見えた。
リーダーたちが、会議室に召集された。
地球移住計画の最終プログラムが検討される。
白熱した討議が行われた。
すぐには、地球に行かないことになった。
X星人、メイに偏見を持つ人がいることが、ネックになった。
地球をめぐる衛星の月に、まず降り立つことになった。
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