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 今年の夏は、異例の暑さだった。
 体温をしのぐ日々が続いた。
 K子は、体調の異変に気付いたのは、お盆
を迎えた頃だった。
 どこがどうって、いうことはないのだが、何か
が、前とは違っていると感じた。
自分の身体が、若返って行くように思えた。
 五十歳を過ぎてから、自分の身体に気を付
けるようになっていた。
 それまでは、がむしゃらに働いてきた。稼業
の豆腐屋は、ご先祖様からのものだ。固定客
があり、商売に陰りは見えない。夫は、十年前
に、病気で亡くなっていた。
 腰が痛くて、上体が前かがみになっていた。
 今日は、秋分の日である。
 朝早く起きた。
 ぼた餅や煮物を作ろうとした。
 K子は、鏡台の前にすわった。
 肌のつやが、増してきている。
 髪の毛が一か月前より、黒々としていた。
 一体どうしたのかしら。
 歳相応に、生え際なんかに、白髪がめだって
くるのがほんとなのに。
 一人娘のA子が背中に声をかけた。
 「母さん、後姿がなんだか若々しいわ」
 「バカをお言いでないよ。年寄りに向かって」
 「背筋がピンと伸びてるし、体つきもふっくら
してきたわ」
 「おおっ、いやだ、気味がわるい」
 夕食後、好きなテレビも見ずに、寝室に入
った。まるで自分が化け物に変わっていくよ
うな気分だった。
 K子は、心当たりがないか、考えてみた。
 あった。
 例のぱそこんだ。
 一度、パスワードを間違えたことがあった。
 やり直せ、の命令が出るはずだった。
 ところが、どこかのサイトにつながったのだ。
 初めは、画面が真っ暗だったが、しだいに
明るくなってきた。
 見出しに、変わった字体の文字がならんだ。
 異界通信とあった。
 本文は、次のようであった。
 「あなたは、このサイトで、知りたいことを何
でも知ることができます」
 K子は、胸がわくわくしてきた。
 そんなことができれば、どんなにいいだろう。
 何の心配もせずに、済む。
 興奮のあまり、我を忘れたK子は、後記の
注意書きを、よく読まなかった。
 あまりに、小さな字であった、
 サイトの案内の通りに、彼女はpcを使った。
 知り合いの人々の未来を知りたかった。
 F子、C子、D男等等。
 彼らの未来を、先読みしては、喜んだり悲し
んだりした。
 道で、行きあっては、
 「かわいそうに、あなたは、あと五年しか生き
られないのよ」
 電話で、話をしては、
 「娘さんにいい縁談があるのよ」
 と、心の中で叫んでいた。
 K子は、良心的だった。
 他人の不幸を知っては、心の底から哀しみ、
喜びごとについては、我がことのように喜んだ。
 毎朝、鏡を見るたびに、若さを取り戻してい
った。
 娘と母は、二人暮らしで、お風呂を共にす
ることが多かった。
 A子は、二十歳を過ぎたばかりだった。
 そのうち、一緒に入浴するのをやめた。
 自分より、肌がつやつやすべすべしている
のに、気付いたからだった。
 何か言い知れぬ恐怖を感じた。
 ある日の朝、母は、なかなか自分の部屋
から出て来なかった。
 A子は、心配になり、様子を見に行った。
 トントン。
 「かあさん、かあさん」
 物音ひとつしない。
 思いきってドアを押した。
 パソコンが倒れて、母の背中にのっていた。
 母らしき少女が、畳の上にうつぶせになり、
シクシク泣いていた。 

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