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桜子 その24

 桜子は店の奥で、ドアをじっと見つめていた。
 栄一の会社の人が三人来ただけで、あとは、
 客足がとだえている。
 チャリン。
 桜子は、威勢良く声を上げようと、身構えた。
 黒いサングラスをかけ、茶系のジャケットを
肩にかけただけの男が、入ってきた。
 口髭を生やしている。
 背に虎の顔を描いたジャンパーを着て、青い
ジーパンをはいた若い男が、あとに続いた。
 うしろのポケットに両手をつっこみ、ハの字
を描くように歩く。
 「いらっしゃいませ」
 桜子が声をかけたが、途中で声がしぼんだ。
 ふたりは、カウンターの止まり木にすわった。
 「ありがとうございます。ようこそいらっしゃい
ました」
 桜子は、わきに行って、頭を軽く下げた。
 「いい店だな」
 サングラスの男が、ジャケットのポケットから
タバコを出した。
 桜子は、袂に手を入れ、ライターをつかんだ。
 男が口にくわえると同時に、タバコの先に火を
点けた。
 深く吸い込んだ煙を、桜子の顔めがけて、
はき出した。
 ゴホン、ゴホン。
 桜子はせきこんだ。
 その筋の人だと思うけど、一度も見たことが
ないわ。
 バーテンのかずさんに、要注意だと、目で合
図した。
 チャリン、チャリン。
 桜子の表情が、ぱっと明るくなった。
 小説家のKだった。
 手に花束を持っている。
 「いらっしゃいませ」
 今度は、終わりまで、しっかりと発声ができた。
 「さくらちゃん、おめでとう」
 赤いバラが、二十本はある。
 「すてきなお花。ありがとうございます」
 「歳幾つだっけ、さくらちゃん。少なめに持って
来たよ」
 Kは、無遠慮に言った。
 桜子は、微笑んで、頭を下げた。
 「花輪まで、飾っていただきまして」
 と、奥の席に案内しながら言った。
 ガチャン。
 後ろで、ビンの倒れる音がした。
 久美が、かずさんの後ろで震えていた。
 「よお、ママよ」
 桜子が、ふりむいた。
 サングラスの男が、カウンターにのった灰皿を、
棚に投げつけたのだ。
 「ここじゃ、なにか。客によってサービスに
差をつけるんか、ええっ」
 立ちあがって、すごんだ。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

いやしの姫 その5

 放送室の戸締りをしようと、Mは鍵穴にキー
を差し込んだ。
 体育館のライトはついているが、黒幕が垂
れているせいで、あたりが暗い。
 ドアについた小窓から、明かりがもれている。
 あれ、誰かいるのかな。
 ドアが開くと同時に、室内は暗くなった。
 淡い光を放った玉が、ドアの下からすっと外
に出て行くのに、Mは気づかなかった。
 不審に思い、懐中電灯で隅々まで照らした。
 何も変わりはなかった。
 マイクがのっている机の上に、高さ三十セン
チくらいのケースに入った人形があった。
 大昔のお姫様をかたどったものだ。
 いつ見ても、可愛い顔をしてるな。
 Mは、笑みをもらした。 
 はてな、この人形。どこかで見たような気がす
るんだがな。
 Mは、腕組みして考えこんだ。
 いや、そんなわけないか。
 あわてて、打ち消した。
 「よし、異常なし」
 Mは、外に出ると、ドアの鍵を閉めた。
 人形の目が、大きく開いた。
 優しい表情が、恐ろしい形相に変わっていく。
 放送室のわきにグランドピアノが置いてある。
 ピアノの後ろが、淡く光っていた。
 Mは、ステージの階段を降りようとした。
 「おじさん」
 聞き覚えのある声だった。
 「なんだい」
 ふりむいて、暗がりに声をかけた。
 「びっくりしないの」
 「しないね。この間の子だろ」
 「当たり」
 ぴょんと、ピアノの陰から飛び出した。
 「何か、用事があるのかい」
 「ええ、そうよ。おじさんの力を借りたいの」
 「年寄りだから、何にもできないよ」
 「あのね、このピアノを、時々弾く女の子
のことなんだけど」
 「その子がどうしたんだい」
 「ひどいいじめにあっているの。あたしだ
けでは、どうしようもないのよ」
 「詳しく話してみて」
 Mは、真剣な表情になった。
 
 
 
 
 
 
 
 

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