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A中学校の体育館。
月曜日の朝礼がはじまった。
教頭先生の開会の挨拶が、終わった。
音楽の先生が、ステージの下に行って、
「今日は、小林百合子さんに校歌を弾いて
もらいます」
と、全校生徒の前で話した。
どよめきが、起こった。
ええっ、なんでえ。
えこひいきだあ。
なんで、ゆりこなんだよお。
口々に言いたい放題だ。
「静かに」
と、教頭先生が一喝した。
「小林さんは、県のコンクールで優勝し、
全国大会に出場します。小さい頃からの
努力のたまものです。本人だけではなく、
我が校にとっても名誉なことです。みなさ
んもそれぞれの持ち味を生かして、頑張っ
てほしいと思います。学校としても先生方が
一丸となって、皆さんの長所を引き出すよう
に努力します。良い結果が出れば、これか
らは、みなさんの前でどんどん色んな形で、
発表していくつもりです。頑張ってください」
事前に担任の先生から話があったものの、
百合子の心は、穏やかではなかった。
陰湿ないじめを受けていたからだ。
「百合子、良かったわね」
隣にいる親友の恵子が、ささやいた。
「ちっとも良くないのよ」
「どうして」
「ねたまれるし、いじめの標的になるし」
「そうね。善し悪しよね」
「ばっちり練習してきたんでしょ」
「うん、この一週間は、夜遅くまでね」
小林先生が、そばに来た。
「じゃあ、百合子、お願い。私がそばにい
るから」
「ゆりこ、がんばって、応援してるから」
と、恵子が言った。
百合子は、うんと、うなずいた。
小林先生に従って、うつむき加減で、ステ
ージにのぼって行った。
ピアノの前にすわった。
「ゆりちゃん、がんばって」
かすかな声を耳にして、百合子は振り返った。
誰もいなかった。
後ろは、放送室だった。
おかしいわ、だれか、中にいるのかしら。
恐ろしくはなかったが、気味がわるかった。
百合子は、背筋がぞくぞくしはじめた。
「さあ、みなさん。私がタクトを振りはじめ
たら、歌ってください」
タクトが、動きはじめた。
ピアノの音が、響かない。
百合子の手が、震えているのだ。
鍵盤を前にして、泣きはじめた。
じょうずにひける腕は、持っている。
だが、弾けば弾いたで、必ずひどい目にあう。
いじめられるより、先生に叱られる方がいい。
百合子は、そんな気持ちになった。
小林先生がかけよって、彼女の肩を抱いた。
「どうしたの」
「ちょっと、気分が悪いんです」
百合子は、手で頭をおさえた。
「しかたないわね。私が弾くわ」
百合子は、元の位置にもどって行った。
放送室の中にいる人形姫の目からも、涙が
こぼれていた。
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