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 ふたりは、湯船につかっている。
 「けいこ、あんなところで何をしてたんだい。
寒いのに、あんな薄着で」
 恵子は、真実が言えない。何でも気楽に話
せたら、どんなにスカッとするだろう。
 友子には、この世界に入った時から世話
になっている。それだけに、心配かけたくな
いのだ。
 「ちょっと、湯畑をながめていたの」
 「りょうといっしょにかい」
 「うううんっ」
 「なんだか、にえきらない答え方だね。おで
んをたくさん買ったようだし。ひとりぶんじゃな
いだろ」
 恵子は、涙がこぼれそうになった。
 急いで、顔を湯であらった。
 「りょうと、うまくいってないんだね」
 こらえきれずに、恵子は後ろを向いた。
 友子は、それ以上は何も言わない。
 恵子の胸のうちがわかるからだ。
 亮の金使いの荒さは、まわりの者みんなに
知れ渡っていた。
 みんな、大変なのだ。
 複雑な事情をかかえて、一日一日を過ごし
ているのだ。
 恵子も、自分で、なんとか解決する以外に
方法がなかった。
 女のところへ行ったに違いなかった。
 「ばあちゃん、お風呂代がないの」
 「心配しないで、あたしが誘ったんだから。
湯からあがったら、おいしい物を食べよう」
 「ほんとにありがとう。きょうのこと、一生忘
れないわ」
 「この子ったら、大げさだねえ」
 恵子は、アパートに帰りつくと、荷物をまとめ
はじめた。
 あたしがいないとわかったら、亮は真剣にさ
がしてくれるだろう。
 今までは、べったり亮にくっつき過ぎていた。
 甘やかしてしまった。
 あんなにプータローになったのは、あたしにも
責任がある。
 アルバイトをしているとはいっても、遊び金ほ
しさだ。生活費は、全部私がだしていた。
 恵子は通りにでると、タクシーを拾った。
 
 
 ピンと張った糸が、切れそうになっていた。
 青色のカーテンが、朝日に照らされている。
 午前八時。
 陽一は、まだベッドにいる。
 学校へ行くのなら、とっくに起きていなけれ
ばならない時刻だ。
 「よういち、どうするの。じかんよお」
 階下から、何度もママの金切り声が聞こえ
ていた。 
 頭のなかが、もやもやしている。
 おなかが、痛くなってきた。
 そうとう神経がまいっているんだ。あんなに
奴らにいじめられるんだもの。
 ママが、あがってきた。
 ドンドン。
 ドアをたたいた。
 「ようちゃん、学校、どうするの」
 「おなかが痛くて、我慢できないんだよ」
 「しょうがないわねえ。連絡しとこうか」
 「うん、あしたは行けると思うから」
 「ママは、仕事に出かけるけど、ご飯の用意は
してあるからね。気分が良くなったら、食べなさい」
 「ありがとう」
 陽一は、ほっとした。
 また、眠りについた。
 夢をみた。
 家の近くの林の中に一軒の古い屋敷があった。
 あばら家である。
 雨どいが壊れて、たれ下がっている。
 つる草が壁をつたわって、家をおおっていた。
 真っ暗な夜道を、陽一が懐中電灯の明かりを
たよりに、その家を訪ねていくところだ。
 昼間みた家とは、趣が違った。
 立派なお屋敷である。
 玄関をあけると、女中がでてきた。
 応接間に通された。
 しばらく待っていると、奥さんがあらわれ、
 「ちょっとこちらへ」
 と、さそう。
 あとについて行った。
 台所に子供たちがいた。
 数えてみると、十人いる。
 出されたごちそうをいっしょに食べることになったが、
なぜか、陽一の前には、からの皿があるだけだった。
 ほかの子供の前には、ごちそうが山盛りだ。
 奥さんがわきに来て、
 「あなたは、どうして食べないの」
 と、きく。
 だって、何もないもの、といいたかったが、なぜだか
言えない。 
 「さあ、今夜のとびきりのごちそうよ」
 奥さんが、両手で、陽一のからだを持ち上げ、まな板
の上にのせた。
 すごい力だ。
 子供たちが、服を脱がしにかかった。
 目をみひらいて、まわりを見た。
 家族が、すべて鬼に変身していた。
 口のなかが見える。
 とがった歯だ。
 よだれをたらしている。
 舌なめずりをしている。
 べちゃべちゃ、音がした。
 子供たちが、陽一のからだをおさえた。
 赤鬼が、包丁を振りかざした。
 台所の食器棚の上に、着物姿の人形が見えた。
 燃えるように、光りを放っていた。
 はあはあはあ。
 息使いの荒さに驚いて、陽一は目がさめた。
 
 
 
 
 
 
 S市にある高層タワーの展望台。
 寒いせいか、暖房が入っている。
 田舎からでてきた木下三郎は、そのあまり
の高さに驚いている。
 「ここから故郷の山並みが見えるだろうか。
今は紅葉が真っ盛りだ」
 三郎は目を細めた。
 連れはいない。
 しばらくぶりで、嫁いだ三女を訪ねてきたの
だが、昼間は仕事で忙しい。
 ひとりで、見物に来たのだ。
 望遠鏡をのぞいている小学一年生くらいの
男の子に声をかけた。
 「どうした坊や、ここはずいぶん高いが、さぞ
遠くまで見えるんだろうな。目が回らんか」
 少年は、望遠レンズから目をはずすと、ふふっ
と笑った。
 三郎は、先ほどから、少し気分がわるい。
 足元が地についてない感じがした。
 屋根より高いこいのぼり、という唱歌がある。
 高い建物にも限度があると、三郎は昔から
考えていた。
 数百メートルの建物など、神をおそれぬ仕
業だと思う。
 故郷にいる孫娘のための土産をひとつ買う
と、はやばやと、エレベーターに向かった。
 扉が開いて、三郎が箱にのりこんだ。
 男三人と女ふたりだ。
 スイッチが入ると、扉がしまり、エレベーター
が下降しはじめた。
 地上まで、一気にくだる。
 三郎は、ますます気分がわるくなった。
 加速がついていく。
 ふわっとからだが浮き上がるように感じた。
 魂がからだから抜け出していくのではない
かと思うほどだった。
 このまま止まらずに地上に激突したら、か
らだがバラバラになってしまう。
 考えが、わるい方ばかりに向いてしまう。
 手でこぶしをつくった。
 汗がにじんでいる。
 どの人も外見は平静を装っているが、みな
青白い顔をしていた。
 あと少しで地上に着くところで、三郎は気を
失った。
 ふわりと、やわらかな場所に着地した。
 目をあけると、野原が見えた。
 花々が咲き乱れている。
 三郎は、花をつみはじめた。
 俺は一体、何をしているのだ。花を摘むなん
て、俺らしくない。
 ぶつぶつ言っている。
 八十キロ近い体重が、軽く感じられた。
 お月さまの上で歩いているようだ。
 おかしいな。こんなはずがない。
 あたりを見まわすと、人がいた。
 エレベーターにいっしょに乗った人たちだった。
 みんな花をつんでいた。
 一番近くの男に
 「おい、あんた、大丈夫か」
 と、声をかけてみた。
 その男性は、手を耳元に持って来たが、首を
かしげた。
 聞こえないのだ。
 あんたは、誰だい。ここで何をしてるんだ。
 心の中で問いかけてみた。
 男がにやりとした。
 ふいに、地面が揺れ出した。
 裂け目から、つぎつぎに落ちていく。
 三郎も木の根っこにつかまるが、あえなく
落ちてしまった。
 ぷっしゅううう。
 大きな音で、目覚めた。
 五人とも床に折り重なって、倒れていた。
 気を失っているだけで、大したケガはない。
 三郎がいちばん下になっている。
 救助隊員が、扉をこじ開けて入ってきた。
 つぎつぎに助け出されていく。
 最初に助けられた女性が、
 「おおっ、まったくどうなってんだ」
 と、叫んだ。
 聞き覚えのある男の声だった。
 「ああっ、良かった。助かったわ」
 三郎の口から、甲高い女の声がでた。
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 「いっしょに小説の書き方を学びませんか」の記事は、
すべて「小説を書こう。」の書庫に移すことにしました。
 コメントや作品は、そちらにあります。
 今後ともよろしくお願いします。
 今までの分は、そのままです。
 「日記」の書庫にあります。
                         父けっさん
 十月分に応募してしてくださった方は、次のとおりです。
 どうもありがとうございました。
  「転生」 もたんもぞさん [らんどくなんでもかんでも2]
  「猫とわたし」 麻さん     [写真と俳句の日記 スケッチ]
 おふたりとも、意欲的な作品を発表されました。
 次回作にも、期待が集まっています。
 がんばってください。
 
 今までキーワードをいくつか使って、書いていただきましたが、
 それらの言葉に制約されて、自由に書けないように見受けら
 れました。ですから、今月は、キーワードなしで書いていただ
 きたいと思います。テーマもこれと言って決めないことにします。
 ご自分の思うように書いてください。
  テーマがほしい方のために、次のように考えてみました。
  秋から冬へ。
  季節は、移っていきます。
  いろんな感傷にひたる時期ですね。
  そのことを、おおまかに頭において、書いていだたけたらと、
 思いますが、いかがでしょう。
  私もそうですが、うまく書こうとすればするほど、筆が進まなく
 なります。一時に、小説をものすることなど、余程の天与の才が
 ないかぎり、できる訳がありません。
  書けば書くほど、誰でもじょうずになります。
  それを信じて、おたがいにがんばりましょう。
 
  このコーナーは、小説をこれから書きたいけれど、どう書いたら
 いいだろうか。そういう人のために始めました。
  私も初心者です。
  何事も、基礎が肝心だと思います。
  よく見る。よく聞く。よく考える。
  観察力が大切です。
  小説は、フィクションです。
  現実ではない、架空の世界を形成するのです。
  大変な作業です。
  最初は、原稿用紙で十枚くらいの量でいいと思います。
  共に学んでいきましょう。
 
  小説だけではなく、日常生活をよく観察することで得られた日記
 でも随筆でも、何でもけっこうです。
  たくさんの方々の参加をお待ちしています。
  ご質問やご意見があれば、遠慮なくどうぞ。                                   
                                      文責  父けっさん
 
 

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